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日常編 オフの日

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「隙ありーー!! もらったのじゃっ!! グレイズから栄養補給するのじゃ!!」

 クイーンが素早い動きで間合いを一気に詰め、俺の喉元にエナジードレインを狙いにきていた。

 しかし、以前のクイーンよりはスピードが落ちており、腕輪を付けたままでも容易に回避は可能である。

「甘いぞ、クイーン」

 喉元を狙いに来たクイーンの手を払うと、突進を避けるように身を躱した。

「わふぅ(今です。ファーマちゃんっ!!)」

 クイーンの突進を躱したかと思ったら、クイーンに気を取られている間にハクが足元に忍び込んでおり、ズボンの裾を噛んで俺の足止めを果たしていた。

「ハク!? いつの間にっ!! クイーンは囮か!?」

 未だ姿を見せていないファーマの気配を探ろうと、神経を研ぎ澄ます。

 だが、最近のファーマは腕輪付きでは気配を察知しにくくなるほどの成長を見せていた。

「あら、グレイズさん。私の前でよそ見するなんていいのかしら?」

 襲ってくるであろうとファーマの気配を探っていたら、近づいてきたメリーからの斬撃が身を掠めていく。

「ちょっ! 待て! メリーが本命か!?」

「さぁ、どうでしょう? うふふ」

 ハクを引きずったまま、メリーの斬撃を一太刀、二太刀とギリギリのところで回避する。

 ファーマはどこだ? 絶対に狙っているだろ?

 メリーの太刀を避けながらも、本命であると思われるファーマの気配を探り続ける。

 しかし、どこにもファーマの気配を感じ取れなかった。

「グレイズさん、オレも混ぜてくださいよ。これでも、剣の扱いには多少自信あるっす」

 メリーの攻撃に加え、ジェネシスも俺の隙をねらって、斬撃を繰り出してきた。

 ハクの足止めさえなければ、二人の斬撃を躱すのは容易であるが、足止めを外すのは容易ではない。

 顔を狙ってきたジェネシスの斬撃を手で払う。

「やらせん。まだ、やらせんぞ」

 姿勢を崩したジェネシスが地面を転がっていくのが見えた。

「グレイズさん、これならどう?」

 メリーが今の俺が一番避けにくい、下段からの切り上げ攻撃を繰り出してくる。

 ハクによって足止めされた俺はメリーの切り上げ攻撃を両手で受け止めていた。

「わふぅう(かかったっ! ファーマちゃん)」

「ファーマ、今よ!」

「隙あり―!!」

 メリーの攻撃を受け止めた瞬間、背後にファーマの気配が急に現れていた。

 俺の動きを完全に阻害することに成功しており、ファーマの奇襲を防ぐ手立てはただ一つの選択肢しかなかった。

「やらせるか!」

 メリーの木刀を掴むと、自分の方へ一気に引き寄せていく。

「きゃあ!?」

 バランスを崩したメリーの身体が俺とファーマの間に入ると、ファーマに逡巡する様子が見て取れた。

 わずかの逡巡であったが、俺にとってはファーマの奇襲に対する備えをする時間は十分であった。

 飛び込んできたファーマを掴まえると、一気に放り投げていく。

 投げ飛ばされたファーマがくるりと一回転して地面に着地していた。

「うう、グレイズさん強い。ファーマの奇襲が決まらなかったよー」

「わふぅ(惜しいところでした。完全にイケると思いましたけど)」

「まぁ、でもグレイズさんを焦らせることはできたしね。もう少し工夫を重ねれば、これはイケるかもしれないわ。今回は前衛組だけだったけど、カーラやアウリースやメラニアも入れば……」

「おいおい、これは前衛の攻撃連携練習ってことでやってるんだから、後衛職はなしだろ」

 ダンジョンから帰還して、今日はオフの日であったが、俺の自宅の外にある原っぱで連携の練習をしていたのだ。

 ジェネシスやメラニア、そしてクイーンといった者たちが加入し、人数も役割も微妙に変わったことで支障をきたさないようにと、今日の練習をしている。

 役割としてはほとんど変更はないが、ファーマとハクが偵察兼ヘイト取り、メリーが盾役、そして新たに加わったクイーンは遊撃として弱い敵を優先的に叩いて数を減らす役を与えていた。

 一方、ジェネシスは中盤で俺と同じく後衛への敵の浸透阻止、奇襲対処といった役割を与えてある。

 明日からは中層階の探索を計画しているので、念には念を入れて連携を確認しておいたのだ。

 とりあえず、腕輪付きとはいえステータスMAXの俺を幻惑できていたので、中層階の魔物でも戸惑うことはないだろうと思う。

 なんでこんな練習をしているかと言うと、実はみんなからは、なるべく俺の力を使わずに探索をしていきたいと言われているからだ。

 腕輪を解放した俺の力があれば、今のメンバーでも深層階へ潜れるのだが、それでは自分たちの実力が付かないと彼女たちは思っているようで、俺には今まで通り腕輪を付けたまま中盤で危険を取り除く仕事だけに専念して欲しいらしい。

 みんながそう思ったのは、神器の力を解放した俺が力に溺れてダンジョン主にならないようにとの配慮も働いているようだ。

 もちろん、俺もこの前のアルガドの件で神器の力の一端を知り、あの力を無制限に使えばとんでもないことになると自覚していたので、みんなの申し出がありがたかった。

「みなさん、ご飯ができましたよ~」

 練習をしていた俺たちに窓から顔を出したメラニアが昼食ができたことを告げていた。

「ごはんっ!! 今行くのじゃ~~!! 妾が一番なのじゃ~」

 ご飯と聞いたクイーンがトトトと家に向けて駆け出していた。

「わふぅ(クイーン、あたしのごはん取らないでくださいよ)」

「ファーマもお腹すいたー」

「めっちゃ、腹減ったっす。姉上、今日の昼飯は~」

 食欲組がメラニアの言葉に反応してすぐに家に向かってダッシュしていく。

「おい、みんな道具を……。って行っちまった」

 みんな食べ盛りだから仕方ないか……。

「グレイズさんも遅れるとご飯食べ損ねるわよ。みんなよく食べるからね。ガッツリとお金も稼いでいかないと、パーティー資金も枯渇するかもよ」

 ただ一人残ったメリーが、一緒に放り出された道具を集めるのを手伝ってくれていたが、なにやら怖い言葉を口にしている。

 食いしん坊ではなるが、食費だけでパーティー資金が尽きることなんてありえ……なくないかもしれない。

 最近は出費も多かったし、わりと真面目に稼がないと、メラニアに借財を申し込むハメになりそうな気がしていた。

「あ、ああ。頑張って稼ぐことにしよう」

「そうよ。私もまだグレイズさんにかなりの借財があるからね。ガッツリ儲けて返済しないと明日もダンジョン販売店への補充品もっていくからよろしくね。グレイズさん」

「了解した。荷造りは今日中に終わらせておくさ」

 そう言うと、俺もメリーと一緒に家に戻り、メラニアが丹精込めて作った昼食を楽しむことにした。

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次回更新日は3月8日(金)を予定しております。
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