おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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ムエル外伝(本編とは関係ありません)

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 探索は神経を研ぎ澄ましながら続いていた。グレイズと潜っていた時とは考えられないほど、感覚を研ぎ澄まし、敵の気配を探っていく。

 一つでも魔物の気配を逃せば、オレたちのパーティーは一気に全滅してもおかしくない。

 なんせ、D地区の魔物は一撃でこのオレが着込んでいるオンボロの鎧を貫き、致命傷を負わせられる魔物どもが揃っているのだ。

 Sランク冒険者として肉体的頑強さには自信はあるが、それも金をかけた装備と潤沢な回復手段による支援があればこそ成功していた探索だと、この絶望都市に送り込まれてからは自覚していた。

 恵まれた状況での探索。それがオレたちを驕らせ、実力を見誤らせて、勘違いを起こさせ、肥大した自尊心を糊塗するために犯罪にまで手を染めさせていたと理解できるようになっている。

 そんなことを考えて、探索をしていると、周囲の気配が肌を突き刺すような痛みを伴うものに一気に変化する。

「来るぞ。この気配、ボスクラスだ。逃げる準備しろ。最悪、ここで探索を打ち切るのも考えておこう」

 冷静に状況を判断して即座にミラとローマンに指示を出す。

 一瞬の判断の遅れが死を招くため、逡巡する暇はない。たとえ、成果が少なく懲罰を課せられるとしても、死んだら元も子もない。命さえ永らえさせれば、何か状況が変わるかもしれないのだ。

「分かったわ。あたしが前に出て様子を見る。ムエルは援護してね。ローマンは逃げる準備」

「援護は任せろ」

「私は退路を確保する」

 すぐに役割を決め、それぞれの持ち場に散っていく。ブラックミルズダンジョンではこれほどまでに迅速に判断を下して、それぞれの持ち場へ散ったことはなかった。

 しばらくすると、突き刺すような痛みを伴う気配の主が、靄が漂う廃墟の奥から姿を現していた。

 気配の主は固い鱗と強靭な筋肉に覆われた尻尾、鉄をも溶かす高熱の炎を吐き散らす最悪の魔物であるエンシェントドラゴンであった。

 ブラックミルズダンジョンの最高到達階層である第三一階層に住む深層階のボスクラスの魔物であった。

 エンシェントドラゴンは、仲間である魔物の肉片を大きく尖った口で咀嚼しながら悠然と廃墟の中から歩いてきていた。

 古龍種と言われるドラゴンの中でもかなり強い部類とされる種類である。ブラックミルズの冒険者時代に一度だけ倒したことがあるが、消耗品を大量に消費しての勝利であるため、今のオレたちの装備や物資では退治はほぼ不可能に近い。

「これは、今の装備じゃ無理だ。ミラ、逃げるぞ」

「了解、無理はする気なんてないわ」

「ムエル、ミラ、こっちから行こう。早いところ逃げ出さないと見つかる」

 エンシェントドラゴンが、新たな獲物とした魔物の方へ視線を向けている間にミラが俺のもとへ駆け戻ってきていた。

 ブラックミルズ時代では、探索者の癖に足音に気を配って戻ることすらサボっていたミラだが、この絶望都市では、一つの足音が命に直結すると学んだので、足音にも気を配っている。

 そして、ローマンが確保してくれていた退路へ向けて、ミラもオレも走り出した。

 エンシェントドラゴンはまだこちらの気配には気付いていないようで、新たな食糧を得ようと悠然と廃墟の中を歩いていった。

 無事ローマンの確保した退路でエンシェントドラゴンから逃れ、オレたちは、一目散にD地区から出るための扉へ続く道を戻っていく。

 グレイズが居た時は、全部あいつに任せていたマッピングも今ではすべて各自が行っている。

 そのマップを元に、魔物を退治して綺麗にした道路を抜けて脱出先まで戻っていくことにした。

「ふぅ、ここまでこれば何とか大丈夫だな。ムエル、今回はこれくらいにしておくか?」

 ローマンもこの牢獄にきてからは生き延びるために足腰を鍛えており、逃げ出す足の速さは以前とは比べ物にならないほど早くなっている。

「ああ、欲張れば死しか待ってないからな。ちょっと、求められた成果よりは少ないが、死ぬよりはいい」

「そうね。無駄に欲張って死ぬのは御免だわ」

 牢獄に送られたことで、オレたちの最大の価値観は栄誉や名声、地位や富ではなく、『生き残る』ことが最大の価値を発揮していた。

 生き残ってこそ、次があるはず。

 刑期は無期であるが、生き残り続け状況の変化が起きるのを待つ。それだけが、この絶望都市で生きるオレたちに残された唯一の希望であった。

 
 ムエル外伝 絶望都市 完


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次回 更新予定日は3月4日(月)とさせていただきます。
毎日更新を続けて来ましたが、おっさん商人の更新は3月よりは週二回月曜日と金曜日の二日とさせていただきます。書籍の方も好評発売中なのでよろしくお願い申し上げます。
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