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第二部 最終章 大貴族

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「さて、これでアルガド・クレストンに関する弾劾裁判は終わりだが、余としてはその父であるデルガド・クレストンに対しても処罰を与えねばならぬと思っている」

「さようでございますなぁ。貴族法に照らせば、身内から重罪人を出した家に対する処罰は、監督不行き届きとして領地の削減及び当主代替わりと規定されておりますな」

 アルガドに続いて、ジェネシスがクレストン家全体としての処罰をデルガドに伝えると言い出したため、サイアスがしたり顔で得意の法律を持ち出してきていた。

 ファルブラウ王国の貴族法はサイアスが権勢を握ってから、自らの権力を強化するために定めた法で宰相たるサイアスが恣意的に運用できる法でもあるらしい。

 俺は貴族ではないので、法律の中身は余り知らないが、メラニアやジェネシスからすれば、貴族が何をするのも宰相の許可がいるという法律だそうだ。

「馬鹿なっ! アルガドはたった今、我が家から縁を切った。クレストン家に縁もゆかりもない一介の男に過ぎぬっ!! それを陛下は責められるのかっ!」

 デルガドがもの凄い剣幕でジェネシスに詰め寄ろうとしたので、思わず間に入って止めた。

「デルガド殿、鎮まられよ」

「うるさいっ! 下郎如きがわしに触るでないっ! 控えよ!」

「ふむ、デルガドの言い分もっともであるな。ではアルガドの件に関してはクレストン家は無罪としよう」

「陛下っ!! 私の追認なく貴族家の処罰を決めるとは何事ですか!!」

 ジェネシスが大貴族二人を相手に静かに喧嘩を始めたので、俺は背中に冷たい汗が流れていた。

 ファルブラウ王家は長年に渡り国の象徴としてお飾りとして祭り上げられ、王としての権力は有名無実化している家である。

 サイアスとデルガドからしてみれば、保護した動物から吠えたてられた気持ちであろう。

 ジェネシスの父である先王も大貴族の間に挟まれて、王権を取り戻そうと奮闘したらしいが、二人の政争に巻き込まれ暗殺されている。

 ここで二人に喧嘩を吹っかければ、ジェネシスの寿命は間違いなく縮まるに違いなかった。

 だが、俺はジェネシスに善王の資質を見出しているため、彼の喧嘩に助太刀するつもりだ。

「控えよ! サイアスっ! ファルブラウの王たる余が直裁すると申しておる。国法では王の直裁もみとられているはずだが、余の記憶違いであろうか?」

 ジェネシスの物言いに、サイアスの視線はキッと吊り上がった。

 宰相の手先が多数潜む王宮であれば、ジェネシスもこのような発言をしなかったであろうが、この神殿には共に絶望の淵から帰還した大切な仲間がいるという安心感もあり、長年に渡り自分を傀儡化していたサイアスに反論していた。

「…………陛下の記憶に間違いはありません。国法に照らせば王が自らの判断を下すことを禁じておりませぬ………。ですが、これは国家の一大事……」

「くどい! クレストン家の仕置きは余が決める。二度言わせるな」

 ジェネシスがデルガドの処分を決めると言い切ったので、サイアスは怒りで身を震わせていた。

「…………では、クレストン家の仕置きは陛下のお好きになされませ。あとで寝首を掻かれぬように」

 吐き捨てるようにジェネシスの直裁を認めると、不貞腐れたサイアスは自分の席に座り押し黙った。

「宰相の追認ももらったので、クレストン家の処罰に戻ろう。余としてはアルガドの件は無罪。ただ、余の父母暗殺に関してはデルガドの罪を問い、クレストン公爵家は家取り潰し、当主デルガドは息子ともども貴族籍を剥奪のうえ、鉱山での強制労働を命ず」

「な、なにを仰られるのですか!? 陛下の両親を暗殺したとは冤罪であるぞっ!! それに公爵家を取り潰されるのか!! そんなことをすれば職を失う者が多数出ますぞ!!」

 十数年前のことを蒸し返されて断罪されるとはおもっていなかったデルガドが焦りの表情を浮かべていた。

 そんな焦るデルガドを横切ってヨシュアが盆を持ってジェネシスの前に出た。

「ここに暗殺を生業にするモーラッド一族の代々の族長たちが、依頼を受けた際に交わした契約書の束がある。現族長のヨシュアに聞くと、依頼達成後代金支払い時に依頼人の前で焼くそうだが、それは偽物らしいぞ。暗殺を行った事実を隠蔽しようと依頼者が一族に攻撃をしかけてきた時のために隠れ村に大事に保管してあるのを取り寄せてもらったのがコレだ」

 ヨシュアがダンジョン脱出後、部下に取りに行かせていた例の暗殺の契約書が間に合ったようで、ジェネシスに差し出された盆の上に束となっていた。

 長く王都の貴族たちからの暗殺依頼を受けていたモーラッド一族が残した遺産ともいえる契約書の束の厚さに、人間の闇を垣間見て胸糞が悪くなる。

「この中にデルガドの筆跡で書かれた契約書はないであろうな。しかも、余の父母を暗殺せよというたぐいのものは」

 ジェネシスからの視線を受けたデルガドが、盆に山となっている羊皮紙を見て顔色を青くする。

 ヨシュアに聞いたところ、クレストン家は上得意であったそうだ。

 もちろん、宰相であるサイアスもかなりの頻度で彼らを使用していたため、不貞腐れていた顔に焦りの色が浮かんでいた。

「へ、陛下!! そのようなものはありませぬ!! アクセルリオン神に誓ってクレストン家は陛下の両親を害しておりませぬ!!」

「では、デルガドの筆跡とこれらの契約書を見比べるとしよう。手本は、先頃送られてきた書状があるのでな」

 ジェネシスが一つずつ、契約書を確かめ始めると、もはやこれまでと悟ったのか、デルガドは髪を振り乱して叫んでいた。

「ちぃっ!! もはやこれまでっ!! この狂った王を殺せっ!!」

 自らの剣を引き抜くと、デルガドがジェネシスに斬りかかろうとしたので、俺はすぐさま剣を叩き折ると羽交い絞めして動けないようにした。

「動くなっ! 動けばクレストン家当主の首が折れるぞ」

 デルガドに呼応して抜刀しかけたクレストン家の護衛たちを制すると、周りの者たちへ武装解除させるように視線を送る。

 すぐに周りにいた冒険者たちが護衛たちから武器を取り上げていく。

「こ、この男……バケモノか……。ちくしょうっ!! ジェネシス、お前さえあの時に殺し損ねなかったらクレストン家が王家となっていたものを……」

 デルガドが振りほどこうと暴れるが、俺の力で押さえつけられて身動きが取れないでいた。

「デルガド、これでもう一つ罪が加わったな。証人は多数いるぞ。王の前で剣を抜き突き付ければ叛乱したとみなされても言い繕えないだろう。悪いがクレストン家は終りだ」

 俺はそうデルガドに言うと、後頭部に手刀を加え気絶させた。

 そして、呆気に取られている住民たちに対して状況を伝える。

「デルガド・クレストン公爵は先王殺害容疑ならびに現王ジェネシス陛下殺害未遂の罪で、クレストン公爵家のお家取り潰しのうえ、当主デルガドは貴族籍剥奪、鉱山での強制労働となった」

「へ、陛下! クレストン家の取り潰しはやり過ぎですっ! なにとぞご再考を!」

 自分も叩けば埃が出る身であるサイアスが血相を変えて、ジェネシスに再考を申し出ていた。
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