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第二部 第一七章 弾劾裁判

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 俺が無力化した衛兵隊に対するジェネシスやメンバーたちを含む冒険者たちの捕り物が始まり、外は騒然としているが、俺は一人で衛兵隊の宿舎兼闇市の会場になっていた屋敷に入ってきていた。

 すでに衛兵隊はほとんど外に出払っており、出入りしていた闇商人たちはヴィケットの失踪以来、闇市の開催が停止されているため、すでにこの地から立ち去っており、屋敷の中は人の気配がしなかった。

 俺はヨシュアに教えられていたアルガドの寝室に向かうため、エントランスを抜けると二階に昇り、奥にある大きな部屋へ歩いて行く。

 すると、突き当りには教えられたとおりに両開きの扉を備えた大きな部屋があった。

 無造作にドアを開けて中に入っていくと、いきなり両サイドに控えていた衛兵が剣を振り下ろしてきていた。

「そんなのはお見通しだぜ」

 すでに、衛兵の気配に気づいていた俺は、振り下ろされた剣の刃を両手の指先で挟むと叩き折ってやる。

「ひぅ! こいつ、この距離で斬撃が効かないなんて……。こ、こんなやつ倒せねぇぞ」

「ばけものだ……。こいつぜってぇ、人間じゃねぇ……」

 折れた剣を投げ捨てた衛兵二人が、血相を変えて転がるように部屋から飛び出してった。

 そして、部屋の中には腰を抜かして後ずさるアルガドがただ一人だけ残されていた。

「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!! もう、許してくれ!!! 頼む!! アレは完全に事故だったんだ!! 頼む!! このままではわたしは気がおかしくなってしまう!!!」

 この一〇日間、まともな睡眠が取れてないアルガドの目の下には、くっきりと黒ずんだ隈ができており、肉でふっくらしていた頬は心なしかこけてきていた。

 頼りにしていたマリアン、ヴィケットを失い、夜ごと俺たちのゴーストに睡眠を妨げられたアルガドは精神的にかなり追い詰められた状態に見えた。

「今日はちゃんと肉体をもってきてやったぞ。アルガド・クレストンっ!」

 俺は羽織っていた幽鬼の外套を脱ぎ去ると、アルガドの目の前に仁王立ちしてやった。

「……お前、死んでいたんじゃ……。足があるだと……。身体も透けてない…‥。…………!?」

 アルガドはこの一〇日間、自分が虚仮にされ続けていたことに気が付いたようだ。

「きさまぁあああああああああああああああああっ!! このわたしを虚仮にしていたのかぁあああああ!! 貴族であるわたしを平民のお前が虚仮にしてタダで済むと思うなよぉおおおおっ!! クソがぁああああっ!!!」

 自分を虚仮にしたと知った激高したアルガドはへたり込んでいた床から跳ね上がると、俺を問い詰めようと掴みかかってきていた。

「虚仮にした気はないさ。お前が殺そうとしていたからな。色々と調べるために死んだふりをさせてもらっただけだ」

「ちくしょおおおおおおおおおぉおお!!! お前っ! 気に入らない男だったが、わたしを虚仮にするとは!!! はっ! お前が無事だということは……」

 アルガドが暗殺指示を出した俺が生きていると知って、メラニアやその他の者たちも生きているかもしれないという可能性に気が付いたらしい。

「深層階に飛ばされたし、ノーライフキングと戦ったのも本当だが、悪いが全員一人残らず無事にダンジョンから生還を果たしているぞ。もちろん、メラニアもな」

「ば、馬鹿なっ! ヴィケットの雇った暗殺者たちはお前らがノーライフキングに倒されたと遺品までもってきたのだぞ……」

「悪いがあいつらは俺の手の者だ。お前の悪事を暴くため手伝ってもらった」

 俺の服の襟首を掴んでいたアルガドの顔が怒りのためか、青黒く染まっていく。
 
「クソがぁあああああああああああああああっ!!!! お前らゴミみたいな冒険者やメラニアみたいな金目当ての没落貴族がわたしの邪魔をするんじゃねぇええええええ!!!」

「言いたいことはそれだけか?」

 俺の襟首に掴みかかっていきがっているアルガドに対し、拳を鳴らして心を落ち着かせていく。

 自分勝手な欲望を達成させるために、色々な悪事を働き、女性を貶めたり、高圧的な態度で追い詰めたことは許すことができない。

 沸々と湧き上がる怒りをそのままアルガドにぶつければ、能力を解放している今、肉片すら残さずに消し去ることは可能だが、それでは罪を償わせたことにならないのだ。

「ふざけるなっ!! わたしはこのブラックミルズのギルドマスターだぞ!! お前如き一介の冒険者の命をゴミムシのように潰せるのだぞっ!! いい気になるなっ!!」

「悪いが、この街にはお前とは別の冒険者ギルドが立ち上がる。ちなみに俺がその新支部の冒険者ギルドのギルドマスターに就任予定だ。王様直営のブラックミルズ商店街支部と言うんだ。ご同業なので以後お見知りおきを。職員はお前のところから全員引き抜かせてもらったけどな」

「お、お前が職員たちをたぶらかして仕組んだのかぁあああっ!!」

 青黒かったアルガドの顔が今度は真っ赤に染まっている。怒りの余り血圧が上がっているのだろう。

「さて、長話はここまでだ。ここからはちょっと暴力的だから歯を食いしばれよ。まずはお前によって貶められたメラニアの分なっ!」

 俺に掴みかかってきていたアルガドの顔に拳がめり込んでいく。

 グシャリという音がしたかと思うと、アルガドの鼻が潰れ、ボタボタと床に血が垂れていった。

「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!! 鼻がぁあ! わたしの鼻がぁああ!!! 痛いっ! 痛いぃいいいいっ!!」

 威力を抑えて殴ったが、鼻を潰されたアルガドは痛みの余り地面を転がり続けて叫んでいた。

「お前がメラニアの心に与えた痛みに比べれば些細な物だ」

「ひぃいいいいい、いだいっ! いだいいぃいいいっ!!」

「後、これはお前が犯罪の片棒を担がせたアルマの分だっ!」

 地面に倒れ込んでいたアルガドの頬を平手で打ち据えていく。

 パシン、パシンと頬を打つ音が響き渡る。

「ひぐぅう! ひぎぃい! やめろ! やめろ! いだい、いだいぃいい! ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 頬が倍以上に膨らんだところでアルガドの意識が無くなり気を失っていた。

「後は弾劾裁判の処分を待つのみか……」

 俺は気を失ったアルガドを縛り上げると、部屋を後にした。
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