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第二部 第一七章 弾劾裁判

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「さて、そろそろクレストン家の当主と宰相が到着するようだ。両方とも余に使者を送ってきておるからな。明日の朝には到着するようだ」

 神殿に集まっていた俺たちにジェネシスが、問題の二人が来訪することを告げていた。

「なら、今日の夜にはアルガドを捕えてこないとな。ついでに衛兵隊も潰しておいた方がよさげだし、ゴーストになるのはここまでだな」

「おっ! ついに衛兵隊の宿舎にカチコミをかけるのか? いいぜ、オレたちも暴れさせろよ」

「ああ、そうしてもらえると助かる。俺が陽動をかけるから、動揺したところをみんなで捕縛していってくれ」

 ゴースト作戦はアルガドに対して恐怖を植え付けることに成功し、関係者であるヴィケット、マリアンを拘束し、悪事の証拠も多数押収していた。

 後はアルガド本人の身柄の拘束と、その護衛部隊である衛兵隊を排除することで、ブラックミルズにおけるアルガドの影響力は完全に排除できるはずであるのだ。

 あとはクレストン家の当主と宰相が到着したところで、ベアード神殿長の好意で神殿にてアルガドの弾劾裁判を実施することになっている。

「捕り物だったら、俺たちも手伝わさせてくださいよ! ずっと神殿にいたんじゃ神官に目覚めちまう」

 ダンジョンから生還して以来、籠っていたままの駆け出し冒険者たちも暇を持て余しているようで、今宵のカチコミへの参加を申し出ていた。

 俺は一瞬考えこんだが、ほとんどの衛兵隊を俺が戦闘不能に追い込む予定なので、彼らにもカチコミに参加してもらっても大丈夫だと判断した。

「よし、じゃあ、参加してもいいが絶対に一人で戦わないこと。深層階で戦った時のように周りを連携して戦うことだけは約束するように」

「はい! 約束します。やったぜ!」

「それでは、余も参加せねばならんな。仲間だけを捕り物に参加させるわけにはいかぬし」

 話を聞いていたジェネシスが、駆け出しの冒険者たちと一緒に自分も参加すると申し出ていた。

「ジェネシス様は私どもが護衛しますので、ご安心を……。Sランク冒険者たちも手引きをしてくれますし、護衛にも付くと言っていますので大丈夫かと」

 俺がジェネシスの参加を止めようとすると、ヨシュアが機先を制して護衛を申し出ていた。

 乱戦が予想される捕り物の場でジェネシスが討たれたら、治める者が不在となり、国が乱れかねないのだが、ヨシュアや腕利きの冒険者たちが護衛に付くのであれば仲間外れにするわけにもいかなかった。

「そうか……。万全の護衛を頼むぞ」

「ははっ! 承知しました」

「グレイズ殿は心配性だな。余もいささか剣術には自信があるのだぞ」

 俺とヨシュアのやりとりを聞いていたジェネシスは自分の剣を見せてきた。

 たしかに腕は悪くないが、乱戦は思わぬところから攻撃はくるので、油断は禁物である。

「ジェネシスの腕は知ってるが、『まさか』があるのが乱戦だからな。気を付けろって話だ」

「そうですよ。陛下は国を治める身ですからね」

 メラニアも実弟の捕り物参加に心配を覚えているようだ。

「分かっております。無理は致しませんよ。姉上」

「よし、じゃあ。アルガドたちを捕えにいくとするか」

「「「「おおぉ!!」」」」

 俺たちは日が暮れた街へ繰り出し、アルガドたちが集まっているブラックミルズ郊外の衛兵隊の宿舎に向かっていった。


 夜のとばりが下りて、当たりが暗闇に包まれると、幽鬼の外套を羽織り、アウリースに魔法の光ライトをかけてもらっている。

「準備完了です。グレイズさん、お気をつけて。私も後ろから援護します」

「ああ、任せておけ。いっちょ軽く蹴散らしてくる」

 突入のタイミングは俺が持つ、光玉が光を発した時と伝えてあった。

 俺は腕輪をメリーに託すと、衛兵隊の詰める屋敷へ歩き出した。

「誰だっ!! ここは立ち入り禁止だぞ――!? お、お前、グレイズっ! グ、グレイズのゴーストが出たぞっ!!! か、鐘を鳴らせ!!」

 歩哨をしていた衛兵が俺の姿を見て、警報用の鐘を打ち鳴らすように周囲の味方に伝えていた。

 静かだった衛兵隊の宿舎は打ち鳴らされた鐘の音で騒然として、武装した衛兵たちが次々に飛び出してきていた。

「悪いが今日はゴーストじゃないんだ」

 集まってきた衛兵たちは一〇〇名近いが、俺がゴーストだと思っているようで、遠巻きに様子を窺っているだけであった。

 そんな衛兵隊の群れに飛び込むと、次々に武装した彼らを無力化していく。

「うわぁあああっ!! こ、こいつ、攻撃してくるぞっ!! そんな話きいてねぇ!! げふぅ」

「待て、慌てるな! 隊列を組め! 相手は一人だ! ゴーストだろうが押し包め! これ以上、アルガド様からの信頼が失墜すれば、俺たちは失業するぞ! げふううう!」

 衛兵たちをけしかけて、攻撃を続行させようとしていた指揮官らしき男を蹴飛ばすと、壁にぶつかって気を失っていた。

「隊長がやられたぞ! 弓だ! 弓使え!! 遠巻きで狙え」

 誰かが弓での攻撃を指示すると、味方を巻き込むことも厭わずに衛兵たちが弓を使って攻撃してきていた。

 咄嗟に誤射で突き刺さりそうだった矢を摘まむ。

 能力を解放した俺には矢のスピードは非常にゆっくりとした動きでしかない。

 放たれた矢をすべて集めると、地面に投げ捨ててやった。

「味方に当たって危ないだろう。俺に弓矢はきかんよ」

「ば、ばけもの……。こんなやつ、どうやって退治するんだよ……」

「無理だな。俺を倒せる奴はいないと思うぞ」

 俺は及び腰になった衛兵たちを叩き伏せると、突入の合図である光玉を放り投げていった。

 しばらくすると、空中で弾けた光玉が暗闇の中で眩しい光を発し、周囲に伏せていた仲間たちが武器を手に衛兵隊を捕えに出てきた。
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