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第二部 第一五章 情報収集
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しおりを挟む「グレイズっ! お前ら、生きてたんだなっ!! 街は大変なことになっているぞ!! おい!」
深夜の暗闇の中、人目を避けて商店街にある倉庫に忍び込むと、ヨシュアによって連絡が付いたジェイミーが待ち受けていた。
「ジェイミー、声がデカい。私たち、死人」
カーラが大声を出したジェイミーに対してツッコミを入れる。
「ファーマたちは足のある死人なのー。ジェイミーさん、これは内緒なんだよー」
「ああ、すまん。お前らがダンジョンでノーライフキングによって全滅したと聞かされてな……。商店街はその話で持ち切りで」
ジェイミーはだいぶ酒を飲んでいたようで、息から強い酒の匂いが漂っていた。
「なんだ。追悼の酒盛りでもしててくれたのか? 悪いな、騙す形になってしまったようだ」
「おばばも商店街の連中も意気消沈してたぞ。お前らがダンジョンで全滅したとギルドマスターが公式に発表したからな。ご丁寧に装備品まで良く見える場所に立てて」
「そうか、それなら色々とやりやすい。一応、今は死人だから、しばらくは死人にしておいてくれ。ダンジョンに潜った奴らは全員無事だ。もちろん、メラニアも発見して保護しているから安心してくれ」
「そ、そうか。じゃあ、ノーライフキングと戦っててのはアルガドの嘘か?」
「そりゃあ、本当だ。襲われたのを撃退した」
俺の返答にジェイミーの顔に驚きが広がる。
深層階のボス魔物であるノーライフキングは強さも桁違いでダンジョン主にも匹敵するのではないかと言われる魔物であり、そんな魔物と戦い、無事に戻ってきたというのが信じられないのだろう。
「そうか、お前ならやれるかもしれないな……。足もあることだし、ノーライフキングとタイマン勝負して撃退したと言われても納得しちまいそうだ。だが、なんで死んでいることになっている?」
「ああ、その件でジェイミーには力を貸して欲しい。このブラックミルズで酷い事件が俺たちの知らないところで進んでいたのを発見しちまった。放っておくと、このブラックミルズはならず者の街になってしまうんだ」
「ならず者の街? なんだそりゃ? これだけ治安が良くなったのはオレの知る限り初めてだと思うが……」
ジェイミーは俺の言葉に混乱をきたしているようだ。
アルガドがギルドマスターに就任して以来、見かけ上はブラックミルズの治安はかなり向上している。
「闇市が復活している……。しかも、衛兵隊が宿舎にしている郊外の屋敷を拠点にしているとの情報を得ているんだ……」
「や、闇市だと……はっ! 衛兵隊の宿舎か! うちのやつらもあそこは近寄れなかったからなっ! クソ、なんかやたらと商人が出入りするなと思っていたら、闇市を復活させてやがったとは……。街の方を重視してて、そっちは盲点だったぜ」
「俺も襲ってきた奴らから話を聞くまで、まったくその考えに思い至らなかった」
「だが、闇市を行ってた関係者は全員捕まったはず、それこそアルガドが徹底的に壊滅させたじゃねぇか」
「捕まえられなかった奴がいただろ。闇市関係者でただ一人」
俺はジェイミーも関与した闇市の関係者の捕縛できなかった存在を思い出させることにしていた。
しばらく、考え込んでいたがジェイミーも答えにたどり着いたようだ。
「フラマー商会のヴィケットか……。まさか、アルガドと繋がって……」
「ああ、ヴィケットが闇市を主導して開催し、アルガドが保護しているらしい。しかも、ブラックミルズの住民を完全に排除して外部の人材を活用して全てを行っている」
「外部の人材……。ああ、だから最近ダンジョンで腕利きの冒険者たちの姿が見られるのか……。冒険者ギルド通さずに仕事しておかしいとは思っていたが、どっかのパトロンがついた、雇われ冒険者じゃなくて、闇市への商品補給のために雇われたってことかよ」
ジェイミーも自分の想像外の形態で闇市が復活していたを知り悔しそうな顔をしていた。
治安維持の責任者と犯罪者が結託されてしまえば、犯罪行為は見過ごされてしまう。そうなってしまえば、このブラックミルズは犯罪者の巣窟となり、以前よりも更に治安が悪化する可能性もあるのだ。
「ギルドマスターが犯罪に手を染めてるってなるとな……。それにアルガドの奴は領主の息子だし……手の出しようが……」
「ジェイミーの言う通りなんだが、俺はアルガドを弾劾するためにギルドマスターになったんだわ」
「は!?」
ジェネシスにもらった任命状をジェイミーに見せていく。マジマジと任命状を見たジェイミーの目が点になっていた。
「ちょ! お前! ブラックミルズ商店街支部ってなんじゃ、そりゃあ! しかも、王様の直営の冒険者ギルドって意味わかんねーぞ」
「余がグレイズを任命した。クレストン家とは喧嘩上等である。ジェイミーと申したな。グレイズ殿の手伝いを頼む」
一緒に付いてきていたジェネシスが驚いて固まっているジェイミーに頭を下げていた。
「え? え? 王様? ちょっと、意味が?」
「色々とあってな。王様がうちらの仲間にいるんだわ。とりあえず、説明は後でするから、ジェイミーには現冒険者ギルドの職員を全員引き抜いて欲しい、給与待遇は今まで以上を保証する。事務職員から窓口職員から、金融職員、内勤に回された治安維持要員も一人残らず全員を新冒険者ギルドの職員に引き抜いて欲しい。アルガド側に残るなら職の保証はしない。悪いが俺はクレストン家の運営する冒険者ギルドを完全にぶっ潰すつもりだ。もちろん、衛兵隊も闇市もアルガド、ヴィケットも犯罪者として弾劾させてもらう」
「マジか……。グレイズが商店街のトップ兼冒険者ギルドのトップとなるのか……。そいつは、面白そうだ。よし、任せておけ。冒険者ギルドの職員は一人残らず新ギルドに転職させてやる。もちろん、お前がトップに就任するということはアルマが実質の仕切り役だろうな?」
「ああ、俺はギルドの運営を知らないからな。俺は責任を取るだけで、アルマを実務トップ、ジェイミーは補佐役だからな」
「仕事の失敗はグレイズに押し付ければいいのか。これはいい冒険者ギルドになりそうだな。面白そうすぎて、ワクワクが止まらねぇな」
新冒険者ギルド設立の話を聞いたジェイミーの顔が、段々と悪戯を仕掛ける子供のように変わっていく。
自分を退職に追い込んだアルガドへの嫌がらせができると知って喜んでいる気がする。
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