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第二部 第一五章 情報収集
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※グレイズ視点
ヴィケットの依頼を受けて襲ってきたヨシュアたちを信頼し、ダンジョンから送り出して半日後、ヨシュアたちがダンジョンで待機していた俺たちの元に戻って来ていた。
彼らは俺の信頼に応え、ヴィケットにメラニア捜索隊の全滅を報告した上、地上の情報収集というおまけを付けて帰還してくれていた。
「というわけで、地上の出入り口の衛兵隊による閉鎖はすでに解除され、明日の朝から冒険者たちに開放されるとの布告がアルガドよりされました。やはり、ヴィケットとアルガドはグレイズ殿が睨んだとおりに繋がっている模様です。さりげなく私の部下がヴィケットの馬車の後を尾行していくと、アルガドの屋敷に入って行くのを確認しております。その後しばらくしてアルガドが冒険者ギルドに向かい例の封鎖解除を布告しておりますので、グレイズ殿死亡の話が伝えられたのでしょうな」
「それとヨシュア殿たちは契約満了で返されることになったが、我々冒険者の方はすぐに闇市の品物を補充するために潜れと戻されました。ヴィケットがアルガドに闇市の拡大を打診して了承されたようだ。今度からは真っ昼間も開催すると息巻いていた。もちろん、今までは禁止していた人の売買も再開するらしいです。ヴィケット本人が周囲の商人たちに漏らしていたのをこの耳で聞いています」
ヨシュアや冒険者のリーダー格の男が地上での動きを詳細に俺たちに語ってくれていた。
アルガドやヴィケットは、色々と目の上のこぶであった俺たちが全滅したことに安堵してブラックミルズの裏で慎重にやっていた悪事を大々的に行い稼ぎを増やそうと画策しているらしい。
「まじか……。これほど早く動くとはな……」
「まずは、拠点とする神殿に移動されることを推奨します。ここは誰に見つかるかわかりませぬからな。地上で身を隠し、証拠を集めねばなりません。部下たちを主要な場所に貼り付けて監視をさせておりますので、情報逐一神殿に集まってくるはずです」
「分かった。まずは地上脱出を優先しよう。集団で動くと見つかりやすいだろうからパーティーごとに脱出して神殿へ集まることにしよう」
「外は深夜ですので、街の郊外を経由して移動すれば見つかることもないと思いますが、万が一のことがないように顔を隠すための外套を人数分集めて参りました」
冒険者たちが持ち込んだ荷物を広げ、姿を隠すための外套を脱出する者たちへ配っていく。
「助かる。よし、まずは神殿に集まってくれ。衛兵隊に見つかってもあいつらは外部の人間でこちらの顔を知らないはずだ。落ち着いて堂々とすればいいからな」
「「はい」」
脱出する冒険者たちは駆け出しや中堅なり立ての冒険者であり、できて日の浅い外部採用の衛兵隊は彼らの顔まで識別できるとは思われない。それに外套で顔を半分以上隠していれば、識別など困難であるはずだ。
万が一発見されても堂々としていれば、怪しまれることはないと思う。更に万全を期して、衛兵隊に顔が利く、ヴィケットが雇っていた冒険者たちを脱出するパーティーに支援要員として付けることにした。
こうしておけば、発見時の言い逃れできる確率も更に上がるはずである。
だが、問題は俺たちの方だ。俺たちは衛兵隊にも顔が割れており、見つかればすべてが水泡に帰す可能性があるため、一計を案じることにした。
「ヨシュア、すまないが『ジェイミー』という男を酒場で掴まえてうちの倉庫に来るように言付けておいて欲しい。これを見せれば信用してもらえるはずだ」
ステータスを抑えるために普段から着けている銀製の腕輪をヨシュアに託す。
俺たちが完全に身を隠すにはジェイミーの力を必要としていた。
「承知。私は先行します」
ヨシュアは俺に頭を下げるとダンジョンから出てブラックミルズの街へと消えていった。
その後は、ある程度の間隔をあけてパーティーごとにダンジョンを脱出していくを俺たちは見送っていた。
そして、最後のパーティーがダンジョンを脱出すると、皆を無事に連れ帰るという大きな荷物が一つ降ろせることになったが、まだ大きな荷物は色々と背負ったままなので、油断をするわけにはいかなかった。
「さて、これでみんな脱出できたようね。色々とあったけど、死者が出ずに済んで良かった。後はブラックミルズを食い物にしようとするギルドマスターと商会を叩き潰すために証拠集めに全力を注ぐだけね。フラマー商会は私も遺恨があるから手加減はできないわ」
フラマー商会の後援を受けたムエルたちによって、父親から受け継いだ店を潰されているメリーの眼が彼らの悪事を聞いてギラついている。
商売の仁義に反する違法品の販売で利益を得ているというのもメリーが怒っている理由の一つだろう。
もちろん、俺も商売人の端くれとして許すわけにはいかないと思っている。
「ああ、闇市はダメだ。あれだけは許すことはできない。ブラックミルズはあんなもの無くても発展していく素地はあるんだ。人を不幸にする物をバラ撒かせるわけにはいかん」
「グレイズさん。いや、グレイズ殿と呼ばしてもらう。脱出前に余に紙と筆を貸してもらえるだろうか」
隣で話を聞いていたジェネシスが、俺の呼び方を改めたかと思うと紙と筆を要求してきていた。
「私ので良ければどうぞ」
メリーが自分の荷物から紙と筆を渡す。
「かたじけない」
メリーから紙と筆を受け取ったジェネシスがサラサラと何か文字を書き始めたかと思うと、首からぶら下げていたペンダントを外し、その上に指先を軽く短剣で切り裂き血を滴らせていく。
そして、ジェネシスの血で濡れたペンダントを裏返すと紙に押し付けていった。
「これでよい。グレイズ殿、貴殿をブラックミルズ商店街支部の冒険者ギルド、ギルドマスターに任じる。余の直裁であるため、現時点をもって就任したことにみなす。アルガドと対等にやり合うにはこれくらいの役職を持たねばならぬ。余ができる応援はこれくらいしかできぬがな。姉上を殺そうとした豚貴族を追い落とす手伝いはさせてもらう」
ジェネシスが書いた紙は、王が公式に直営する冒険者ギルドの支部として任命状であった。
クレストン家の領地であるブラックミルズに王が勝手に別の冒険者ギルドを作った行為は、思いっきりクレストン家に喧嘩を売る行為で、下手をすればジェネシスはクレストン家に殺される可能性も出るほどの重大な決定である。
「ちょ、お前……。クレストン家に喧嘩売って死ぬ気かよ」
「余が殺されても姉上がおるからな。姉上はグレイズ殿が守ってくれるはずなんで、王国の血は残る。しかも新たな英雄の血を継いでな。ならば、余は安心して好き勝手できるということだ。クレストンの豚貴族は許すわけにはいかぬ。たとえ余が命を失うことになってもな」
ジェネシスは悪戯っぽい顔をして任命状を俺に差し出していた。
「ジェネシス様……。わたくしはグレイズ様のお傍にいるだけでいいんです。それ以上などは望んでは……。王であるジェネシス様を危機に晒すわけには」
メラニアが実弟であるジェネシスの暴走を止めようと必死に任命状を押しとどめていた。
「メリーさん、カーラさん、ファーマ、アウリースさん、セーラさん、姉上がこう言ってますけど……」
「メラニアさんはファーマと一緒にグレイズさんのお世話するのー」
「メラニア、グレイズと一緒に生活する当然。グレイズ、メラニア守る約束した」
「そうですね。メラニアさんは『天啓子』ですしね。グレイズさんの傍にいないとダメって神様が決めちゃってますし」
「あ、あたしもメラニアさんと友達になりたいし、グレイズさんの傍に一緒にいたいし……。ああ、ごめんなさい。王族の人に友達とか言っちゃった」
「グレイズさんが守るって宣言しているし、『天啓子』であるし、メラニアみたいにいい子は大好きよ」
うちの女性陣はなぜかこういう時に意見がまとまるのが早い。
『グレイズさんが常に激運を発動させているんで、相性のいい子同士が集まりやすくなってますしね。なので、お互いに大好きっ子ですからねぇ』
むぅ、俺の激運侮れないな……。って違う。
「皆様……」
「ということで、グレイズ殿、姉上を頼みますぞ」
再度、突き出された任命状を受け取る。この瞬間から、俺は王が直営で開設を許可したブラックミルズ商店街支部の冒険者ギルドマスターも兼任することになった。
「アルガドをとっ掴まえるまでならと期限は付けておくからな」
「それでも結構。ただ、周りが認めたら諦めてくださいよ。グレイズ殿」
任命状を受け取った俺を見たジェネシスがニコニコと笑っているのが見えた。
なんだか、はめられた気がしないでもないが、領主の息子であるアルガドを弾劾するにはある程度の世間的な地位も必要となるため、ありがたく使わせてもらうことにする。
「さぁて、これからは時間の勝負になるぞ」
こうして、俺たちはダンジョンを脱出すると、アルガドやヴィケットたちの不正の証拠を集めるためにブラックミルズの街へ消えていった。
ヴィケットの依頼を受けて襲ってきたヨシュアたちを信頼し、ダンジョンから送り出して半日後、ヨシュアたちがダンジョンで待機していた俺たちの元に戻って来ていた。
彼らは俺の信頼に応え、ヴィケットにメラニア捜索隊の全滅を報告した上、地上の情報収集というおまけを付けて帰還してくれていた。
「というわけで、地上の出入り口の衛兵隊による閉鎖はすでに解除され、明日の朝から冒険者たちに開放されるとの布告がアルガドよりされました。やはり、ヴィケットとアルガドはグレイズ殿が睨んだとおりに繋がっている模様です。さりげなく私の部下がヴィケットの馬車の後を尾行していくと、アルガドの屋敷に入って行くのを確認しております。その後しばらくしてアルガドが冒険者ギルドに向かい例の封鎖解除を布告しておりますので、グレイズ殿死亡の話が伝えられたのでしょうな」
「それとヨシュア殿たちは契約満了で返されることになったが、我々冒険者の方はすぐに闇市の品物を補充するために潜れと戻されました。ヴィケットがアルガドに闇市の拡大を打診して了承されたようだ。今度からは真っ昼間も開催すると息巻いていた。もちろん、今までは禁止していた人の売買も再開するらしいです。ヴィケット本人が周囲の商人たちに漏らしていたのをこの耳で聞いています」
ヨシュアや冒険者のリーダー格の男が地上での動きを詳細に俺たちに語ってくれていた。
アルガドやヴィケットは、色々と目の上のこぶであった俺たちが全滅したことに安堵してブラックミルズの裏で慎重にやっていた悪事を大々的に行い稼ぎを増やそうと画策しているらしい。
「まじか……。これほど早く動くとはな……」
「まずは、拠点とする神殿に移動されることを推奨します。ここは誰に見つかるかわかりませぬからな。地上で身を隠し、証拠を集めねばなりません。部下たちを主要な場所に貼り付けて監視をさせておりますので、情報逐一神殿に集まってくるはずです」
「分かった。まずは地上脱出を優先しよう。集団で動くと見つかりやすいだろうからパーティーごとに脱出して神殿へ集まることにしよう」
「外は深夜ですので、街の郊外を経由して移動すれば見つかることもないと思いますが、万が一のことがないように顔を隠すための外套を人数分集めて参りました」
冒険者たちが持ち込んだ荷物を広げ、姿を隠すための外套を脱出する者たちへ配っていく。
「助かる。よし、まずは神殿に集まってくれ。衛兵隊に見つかってもあいつらは外部の人間でこちらの顔を知らないはずだ。落ち着いて堂々とすればいいからな」
「「はい」」
脱出する冒険者たちは駆け出しや中堅なり立ての冒険者であり、できて日の浅い外部採用の衛兵隊は彼らの顔まで識別できるとは思われない。それに外套で顔を半分以上隠していれば、識別など困難であるはずだ。
万が一発見されても堂々としていれば、怪しまれることはないと思う。更に万全を期して、衛兵隊に顔が利く、ヴィケットが雇っていた冒険者たちを脱出するパーティーに支援要員として付けることにした。
こうしておけば、発見時の言い逃れできる確率も更に上がるはずである。
だが、問題は俺たちの方だ。俺たちは衛兵隊にも顔が割れており、見つかればすべてが水泡に帰す可能性があるため、一計を案じることにした。
「ヨシュア、すまないが『ジェイミー』という男を酒場で掴まえてうちの倉庫に来るように言付けておいて欲しい。これを見せれば信用してもらえるはずだ」
ステータスを抑えるために普段から着けている銀製の腕輪をヨシュアに託す。
俺たちが完全に身を隠すにはジェイミーの力を必要としていた。
「承知。私は先行します」
ヨシュアは俺に頭を下げるとダンジョンから出てブラックミルズの街へと消えていった。
その後は、ある程度の間隔をあけてパーティーごとにダンジョンを脱出していくを俺たちは見送っていた。
そして、最後のパーティーがダンジョンを脱出すると、皆を無事に連れ帰るという大きな荷物が一つ降ろせることになったが、まだ大きな荷物は色々と背負ったままなので、油断をするわけにはいかなかった。
「さて、これでみんな脱出できたようね。色々とあったけど、死者が出ずに済んで良かった。後はブラックミルズを食い物にしようとするギルドマスターと商会を叩き潰すために証拠集めに全力を注ぐだけね。フラマー商会は私も遺恨があるから手加減はできないわ」
フラマー商会の後援を受けたムエルたちによって、父親から受け継いだ店を潰されているメリーの眼が彼らの悪事を聞いてギラついている。
商売の仁義に反する違法品の販売で利益を得ているというのもメリーが怒っている理由の一つだろう。
もちろん、俺も商売人の端くれとして許すわけにはいかないと思っている。
「ああ、闇市はダメだ。あれだけは許すことはできない。ブラックミルズはあんなもの無くても発展していく素地はあるんだ。人を不幸にする物をバラ撒かせるわけにはいかん」
「グレイズさん。いや、グレイズ殿と呼ばしてもらう。脱出前に余に紙と筆を貸してもらえるだろうか」
隣で話を聞いていたジェネシスが、俺の呼び方を改めたかと思うと紙と筆を要求してきていた。
「私ので良ければどうぞ」
メリーが自分の荷物から紙と筆を渡す。
「かたじけない」
メリーから紙と筆を受け取ったジェネシスがサラサラと何か文字を書き始めたかと思うと、首からぶら下げていたペンダントを外し、その上に指先を軽く短剣で切り裂き血を滴らせていく。
そして、ジェネシスの血で濡れたペンダントを裏返すと紙に押し付けていった。
「これでよい。グレイズ殿、貴殿をブラックミルズ商店街支部の冒険者ギルド、ギルドマスターに任じる。余の直裁であるため、現時点をもって就任したことにみなす。アルガドと対等にやり合うにはこれくらいの役職を持たねばならぬ。余ができる応援はこれくらいしかできぬがな。姉上を殺そうとした豚貴族を追い落とす手伝いはさせてもらう」
ジェネシスが書いた紙は、王が公式に直営する冒険者ギルドの支部として任命状であった。
クレストン家の領地であるブラックミルズに王が勝手に別の冒険者ギルドを作った行為は、思いっきりクレストン家に喧嘩を売る行為で、下手をすればジェネシスはクレストン家に殺される可能性も出るほどの重大な決定である。
「ちょ、お前……。クレストン家に喧嘩売って死ぬ気かよ」
「余が殺されても姉上がおるからな。姉上はグレイズ殿が守ってくれるはずなんで、王国の血は残る。しかも新たな英雄の血を継いでな。ならば、余は安心して好き勝手できるということだ。クレストンの豚貴族は許すわけにはいかぬ。たとえ余が命を失うことになってもな」
ジェネシスは悪戯っぽい顔をして任命状を俺に差し出していた。
「ジェネシス様……。わたくしはグレイズ様のお傍にいるだけでいいんです。それ以上などは望んでは……。王であるジェネシス様を危機に晒すわけには」
メラニアが実弟であるジェネシスの暴走を止めようと必死に任命状を押しとどめていた。
「メリーさん、カーラさん、ファーマ、アウリースさん、セーラさん、姉上がこう言ってますけど……」
「メラニアさんはファーマと一緒にグレイズさんのお世話するのー」
「メラニア、グレイズと一緒に生活する当然。グレイズ、メラニア守る約束した」
「そうですね。メラニアさんは『天啓子』ですしね。グレイズさんの傍にいないとダメって神様が決めちゃってますし」
「あ、あたしもメラニアさんと友達になりたいし、グレイズさんの傍に一緒にいたいし……。ああ、ごめんなさい。王族の人に友達とか言っちゃった」
「グレイズさんが守るって宣言しているし、『天啓子』であるし、メラニアみたいにいい子は大好きよ」
うちの女性陣はなぜかこういう時に意見がまとまるのが早い。
『グレイズさんが常に激運を発動させているんで、相性のいい子同士が集まりやすくなってますしね。なので、お互いに大好きっ子ですからねぇ』
むぅ、俺の激運侮れないな……。って違う。
「皆様……」
「ということで、グレイズ殿、姉上を頼みますぞ」
再度、突き出された任命状を受け取る。この瞬間から、俺は王が直営で開設を許可したブラックミルズ商店街支部の冒険者ギルドマスターも兼任することになった。
「アルガドをとっ掴まえるまでならと期限は付けておくからな」
「それでも結構。ただ、周りが認めたら諦めてくださいよ。グレイズ殿」
任命状を受け取った俺を見たジェネシスがニコニコと笑っているのが見えた。
なんだか、はめられた気がしないでもないが、領主の息子であるアルガドを弾劾するにはある程度の世間的な地位も必要となるため、ありがたく使わせてもらうことにする。
「さぁて、これからは時間の勝負になるぞ」
こうして、俺たちはダンジョンを脱出すると、アルガドやヴィケットたちの不正の証拠を集めるためにブラックミルズの街へ消えていった。
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