上 下
120 / 232
ヴィケット視点

1

しおりを挟む
 ※ヴィケット視点

 ここ数日待ち望んでいた報告が意外な形で私に届けられていた。

 グレイズとメラニア、それと一緒に潜った駆け出しの冒険者たちを始末するため、送り込んだ暗殺者とSランクの冒険者たちが装備をボロボロにして帰ってきていたのだ。

「報告にもあったが、グレイズたちを探して第二二階層まで潜ったそうだな。そして、ノーライフキングと遭遇したということだが……」

 衛兵隊の宿舎で闇市の差配をしていた私の執務室に入ってきているのは、暗殺者を束ねる男と冒険者たちを率いていた男の二人である。

「はい、ヴィケット様のご指示通り、グレイズたちを抹殺しようと金色宝箱ゴールデンボックスで転移させられた彼らの行方を捜しながら探索しておりました。低層階から中層階まで探しても見つからず、よもやと思い深層階まで潜ったところ、彼らの集団に遭遇いたしました」

金色宝箱ゴールデンボックスが低層階に出たという話は聞いておったが、グレイズたちが深層階まで飛ばされていたとはな……。第二二階層は不死王の宮殿ノーライフキングパレスが有ったはず」

「その通りです。彼らは不死王の宮殿ノーライフキングパレスの玉座の間に飛ばされ、運悪くノーライフキングに遭遇したようで、私が駆け付けたすでに襲われている最中でして……。絶望した彼らは逃げずに戦いを選び、全員が魂を喰われてダンジョンの一員となりました。その時、私がグレイズたちの遺品を引き上げてきたのですが、スケルトンとなった彼らに襲われ、回収できたのはこれくらいですが……」

 暗殺者の男が取り出した品は、グレイズが探索で使う魔法の背負子や、そのパーティーメンバーが装備しているスポンサーが文字を入れて派手な装備であった。

「Sランク冒険者の俺たちも、さすがにノーライフキングを抑えるのは難しいので、暗殺者たちを援護しつつ駆け足で地上に戻ってきたということだ」

 冒険者の男の方も装備がかなり傷んでおり、深層階で激闘を繰り広げた証だと思われる。

「ほぅ、やはりグレイズたちはノーライフキングにやられたと……」

「はい、私どもがこの目で確認しております。依頼こそ達成できませんでしたが、報告だけはせねばと急ぎ戻ってきた次第」

 暗殺者の男が取り出した品を受け取り、真贋を吟味していく。

 受け取った品はやはりグレイズたちが使用していたモノのようであった。

 ムエルに任せ軌道に乗りかけていたこのブラックミルズの闇市をぶっ壊した男の呆気ない最後に思わず笑みが零れるのがこらえきれない。

「ククク、あの男らしい最後だな。野良犬は野良犬らしくダンジョンで果てたか。よし、報告は受け取った。これより、すぐにアルガド様に報告をしにいく。お主らはこの宿舎で傷を癒せ。追って恩賞の沙汰もあるとおもう」

 私は受け取った品を従者へ手渡すと、報告に訪れた男たちを下がらせた。

 その後、すぐにアルガドへ面会を求め、馬車に飛び乗り彼の屋敷に向けて一路、馬を駆けさせていった。


 アルガドの屋敷に到着すると、昨日夜遅くに実家からブラックミルズに帰ってきていたアルガドが、眠そうな顔をして応接室にマリアンを伴い入室してきた。

 寝巻のままの様子から、日が天高く昇り始めている今の時間まで眠っていたようである。

「お休みのところ申し訳ありません。吉報が舞い込みましたので、すぐにでもアルガド様の耳に入れようと」

「実家から舞い戻ってきた疲れから解放される報告だと期待してよいか?」

 アルガドは眠そうな目をこすりながら、応接間の椅子にだらしなく腰をかける。

 今回の件を報告すれば、もはやブラックミルズで冒険者ギルドのギルドマスター兼領主の息子という立場に抗う者は存在せず、裏で行っている闇市も公認の市として常設を認められる可能性もあるのだ。

 そうなれば、闇市を仕切らせてもらえるのはフラマー商会であり、アルガドに上納金を収めたとしてもあり余る金が手元に残るはずである。

 今回の報告をすれば、それは遠くないうちに実現されるものと思い、思わず頬が緩むのが隠せないでいた。

「ははっ! アルガド様が待ちかねていた報告でございます。抹殺指示を出したグレイズ及びメラニア嬢、捜索に参加した者たちは全員が第二二階層の不死王の宮殿ノーライフキングパレスに飛ばされ、ノーライフキングによって魂を吸われてダンジョンの一員になったそうです。うちが雇って派遣した暗殺者や冒険者たちがその最後を確認したと申し、遺品とともに引き上げて参りました」

 応接間のテーブルの上にグレイズたちの遺品を並べて置いていく。

 その一つ一つを確認するように視線を向けるアルガドの顔に邪悪ともいえる笑みが広がっていった。

「ははは、はぁーはっあはあぁ!! ざまぁみろっ!!! わたしを邪魔するから天罰が下ったのだ!!! あのクソ忌々しいグレイズもメラニアも居なくなったとなれば、後は好き勝手にやっても誰も文句は言うまい。父上も宰相閣下との権力闘争で忙しいのでな。これでわたしはマリアンと贅沢三昧の生活に浸れるはずだ。ヴィケット、闇市は大々的に行え、人の売買も許す。稼げるだけ稼ぎまくれ! 取り締まる側はわたしの手の者だし邪魔をする者はいなくなった」

 アルガドが魔物に憑りつかれたかのように目を見開いて大笑いをしたかと思うと、私が待ち望んでいた許可をしてくれていた。

 これで、ブラックミルズの闇市は常設化され、衛兵隊の宿舎において大々的に大手を振って開催されることになるだろう。

 そうなれば、収入は今までの数倍にまで膨らむと思われた。

「ははっ! アルガド様の庇護があれば、闇市はブラックミルズで一番の稼ぎを産み出す産業となりましょう。早速、手はずを整えたいと思います」

「手はずは任せる。衛兵隊にはダンジョンの封鎖を解くように通達を出しておくから、すぐにダンジョンに潜らせて、品物を補充していけ。冒険者ギルドもすでに十日近く開店休業状態だから稼ぎの損失を埋めてくれ」

「ははっ! 心得ました」

 私は興奮気味のアルガドに辞去の挨拶をすると、足早に衛兵隊の宿舎に戻り、闇市へ並べる品物を補充させるため、帰還したばかりの冒険者たちをダンジョンに送り込むことにした。

 そして、依頼を果たした暗殺者たちには口止め料として大量の金銭を渡し、王都へと引き上げてもらうことにしていた。
しおりを挟む
感想 1,071

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。