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第二部 第一四章 真実

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「グレイズさんがそう言うなら、余もその計画で進めるのを手伝わせてもらおう。一刻でも早く、あの豚貴族の悪事の証拠を集めねばならんからな」

 冒険者の男と暗殺者の男たちが、俺の提案を受け入れたのを見たジェネシスも渋々、賛同をしてくれた。

「ありがとな、ジェネシス。じゃあ、飯食って十分に休息とってから、脱出の機会を狙うとしよう」

 俺はそう言うと、縄で縛られていた男たちの縄を解いた。

「お前らも一緒に危ない橋を渡る仲間だ。縄は解く。飯も喰ってってくれ。うちのメンバーの作る飯は美味いぞ」

 一旦、相手を信用すると決めたらなら縄は不要だ。

 彼らが裏切れば、俺が企図した計画は破綻する。そうなった時は俺が強行突破して、一人でクレストン家の嫡男に対して喧嘩を売ることにする。

 それであれば、連座で罰せられる者もなく、アルガドをぶん殴って半死にさせたあと、俺が刑に服せばいいと覚悟を決めていた。

「グレイズ殿……。かたじけない。信頼の証に応えるため、依頼者にも秘す我が一族の名を明かします。暗殺術を生業にするモーラッド一族。これが、我らが一族の名です。私がグレイズ殿を裏切った時は一族ごと消し去ってもらっていただいて結構。王都の郊外のモーラッド村に纏まって隠れ住んでおります。ヨシュアが裏切ったといえば皆抵抗せずに命を差し出すはず」

 暗殺者の男が自らの素性をすべてさらけ出していた。闇に生きる暗殺者が、身内以外に名や棲家を教える行為は、最上級の忠誠の証だ。

 なぜなら、それらを明かして裏切れば身内に報復される可能性が高い。そのため、依頼者には絶対にそれらの素性を明かすことはしないのが暗殺者たちの常識だと聞いたことがある。

 ヨシュアと名乗った男はそれを破って、俺に名と棲家を教えた。本当かどうかはこの際関係ない。俺からの信を得ようと名と棲家を差し出したことに意義があるのだ。

「名が無いと困るから、名は覚えておく。けど、お前らの棲家は忘れることにしとくからな。今後口にするなよ。ヨシュア」

「恩に着ます」

 ヨシュアはスッと頭を下げていた。

「グレイズさん、ご飯できたよー」

 ちょうど飯が出来上がったようで、ファーマが俺たちを呼びに来ていた。

 
「みんな、ご飯は行き渡ったかしらー?」

 メリーが配膳を終えて、周りを見渡し、皆に食事が行き渡ったのを確認する。

 捕縛した男たちも縄を解き、冒険者たちとは別のグループを作って食事を受け取っていた。

 反抗もせず、共闘を約束してくれているが、冒険者側からは殺されかけた相手であり、一緒にするとあらぬトラブルが起きる可能性もあるため、二つのグループは放しておくことにしてあった。

「大丈夫のようね。じゃあ、頂きましょう」

 周囲から『いただきます』との声が広がると、脱出を目前にした冒険者たちは脱出行最後の食事を楽しみ始めていた。

 ある程度、食事が進んだところで俺はおもむろに立ち上がり、周囲の冒険者たちへこれからの行うことへの賛同を募ることにした。

「あー、すまない。食べながらでいいから聞いてくれ。実は先ほど彼らから尋問をしてブラックミルズが重大事に巻き込まれていることが発覚した。そのため、皆に協力をして欲しいことがあるんだが……」

「ブラックミルズの重大事っすか? それは結構ヤバめやつですかね?」

「ああ、闇市がブラックミルズに復活してた。しかも冒険者ギルドのトップであるギルドマスターのアルガドが関与している可能性も高いんだわ……」

 俺の言葉を聞いた冒険者たちがざわつく。

 彼らも俺と同じように街の治安を良くした上で、アルマの冒険者優遇政策を堅持してくれているアルガドを評価していたのだ。

 そのギルドマスターが、こともあろうに王国から禁じられた物を売買する闇市を主導していると聞かされ混乱をしている者が多数出ていた。

「グレイズさん、その話、本当なんですか?」

「今のところ、可能性があるというレベルだ。だから、キチンと調べようと思ってな。そのためにはみんなの協力が必要なんだ。これも伏せて置こうと思ったが、ここまで共に頑張ってきたお前らに嘘は吐きたくないので、全部喋る。あっちの奴らはお前らも含む全員を殺そうと送り込まれていた。これは間違いない。あいつらが全部正直に話してくれたからな」

 自分たちを全員殺すと聞かされた冒険者数名が気色ばんで立ち上がると、別の場所で飯を食っていた男たちに殴りかかろうとしていく。

「待て! 待ってくれ! あいつらも刑に服すると言っているし、今回幸い死人も出なかった。毒を浴びた者には俺から慰謝料もキチンと出す。だから、今回に限り目を瞑って欲しい。頼む」

 殴りかかろうとしていた冒険者たちに向け、俺は必死に頭を下げた。

 ヨシュアたちの協力がなければ、きっと俺たちの無事を知ったアルガドが証拠を隠滅してしまう。それを回避するにはヨシュアたちに依頼の成功を伝えさせ油断を必要があるのだ。

「グレイズさん……。……分かりました。グレイズさんがそう言うなら、俺らも協力しますよ。ここまで帰って来られたのもグレイズさんの力ですしね。協力してくれって頼まれたら断れないっす」

「余からも皆に協力を依頼したい。アルガドの奴は余の姉上を我欲のために殺そうと仕組んだことも発覚しておる。皆の力も貸して欲しいのだ」

 俺に続いてジェネシスも頭を下げていた。

 王であることが発覚してからも口調こそ改めたが、今まで通りの関係を冒険者たちと続けてきている。

「ありがとうな。皆の賛同が得られたと思わせてもらう。これからは俺たちは『死人』なる。俺が率いたメラニア捜索隊は転移の罠に引っ掛かり、ダンジョンの第二二階層で全滅したとなることになったんだ。ヨシュアにはそう報告してもらう。そして、出入口を塞いでいる衛兵隊がダンジョンの閉鎖を解いたら、俺たちは闇に紛れて郊外の神殿に移動するつもりだ。そこで一旦落ち着こうと思う」

「うへぇ、せっかく無事戻ったと思ったら『死人』かよ。まぁ、仕方ないこれもグレイズさんやメラニアちゃん、ジェネシス様のためだしな。俺らも人肌脱ぐしかねぇな」

 冒険者の一人がおどけた格好で『ゾンビ』の格好をすると、周囲からドッと笑い声が上がるのが聞こえた。

「グレイズ様、わたくしのせいで何かとても酷いことになってしまったようで……」

 話を聞いていたメラニアが神妙そうな顔でこちらを見ていた。

 彼女は何も悪いことはしていない。不貞の事実もアルガドが押し付けたことだし、家同士の約束を反故にされた上、殺されかけたメラニアの方が今回の被害者でもあった。

 それに、彼女のおかげでブラックミルズの闇深くに闇市が復活していたことも知ることができていた。

 彼女には感謝しかない。

「後は俺に全部任せてくれ。メラニアの名誉もキチンと俺が回復させるから心配しないで欲しい」

 俺はメラニアの頭を軽く撫でてやった。

 こうして、俺たちの脱出行は『全員死亡』という結末でヴィケットに報告されることになった。
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