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第二部 第一三章 帰還を阻む者

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「グレイズさん、援護しますっ!!」

 距離を取ったアウリースが、詠唱を終えた火球ファイヤ―ボールをノーライフキングに向けて放つ。

 轟音と眩しさを伴った火球は、捕えていた男たちの魂を喰らいつくしこちらの様子を伺っていたノーライフキング目がけて飛んでいく。

「妾にこのような魔術が通じると思うか?」

 そう言ったノーライフキングが手をかざすと、火球を手のひらで受け止めていた。

 本来なら火球ファイヤ―ボールは何かに触れた時点で爆発し、周囲に爆風と熱をバラ撒く魔法であるが、ノーライフキングが魔法の発動をさせないように抑え込んでいるようだ。

「嘘! 魔法が発動しない!」

「魔法を極めし、妾に魔法を浴びせようとは。だが、生身にしてはよく頑張った方と褒めてやろう」

 アウリースの魔法を受け止めたノーライフキングの顔は妖しく微笑んでいた。

「油断しちゃダメ―! ファーマが居るんだからねー」

「わふう! (あたしもいますから)」

 アウリースの魔法を受け止めて余裕を見せていたノーライフキングに、ファーマとハクが連携攻撃をしかけていく。

 ファーマは拳打を素早く顔に向けて打ち込むと、ハクがノーライフキングの足に向かって噛みついていった。

 しかし、ファーマの拳はノーライフキングの腕によって軌道を逸らされ、攻撃をいなされると、ハクの噛みつきもジャンプで避けられ不発に終わった。

「中々、やりおるのぅ。さすが、我が配下を多数退治した者たちだ。褒美としてコレを取らせよう」

 ノーライフキングが妖しい笑いを浮かべると、手にしていたアウリースの火球をファーマたちの方へ向けて落としていた。

「!?」

 ファーマたちの目の前に転がされた火球が轟音を立てて爆発した。

「きゃああ!!」

「わふうっ!!」

 明らかにアウリースの火球よりも威力を上げた爆発規模で、ファーマとハクは避けきれずにダンジョンに壁に向かって吹き飛ばされていた。

「ククク、妾の怒りはこの程度では済まぬからのぅ。精々、怯えるがよい。そろそろ、骸骨どもが踊り出す頃合いじゃぞ。ククク」

 こちらを嬲るかのように妖しい笑みを浮かべて嘲弄するノーライフキングであるが、同じボスモンスターでも強さがゴブリンキングとは比べ物にならないほどの強さをみせている。

 さすがは深層階で冒険者たちに出会ったら死を振りまくと言われるノーライフキングと言われるだけのことはあった。

「ファーマ、ハク。回復させる。時間欲しい」

「おう! メリー、俺と前に! アウリースはあの骸骨たちをどうにかしてくれ」

「任せなさい」

「は、はい。分かりました」

 余裕の顔を見せるノーライフキングの背後では、魂を吸いつくされた男たちの亡骸がスケルトンとなり、カタカタと音をたてて立ち上がり始めていく。

 手練れの男たちが変化したスケルトンの実力はきっと深層階にいるスケルトンと同等の強さであると思われ、それが総勢五〇体近くいるとなると、本気でヤバい事態に陥ったと思われる。

「メリー、俺が集団の頭であるノーライフキングを潰す。メリーはあいつの意識を逸らしてくれると助かる」

「オッケー。グレイズさんに触れさせなければいいのね。任せておいて。でも、あの子はダメだからね」

「俺もノーライフキングを嫁にするほど、チャレンジ精神には富んでいないつもりだぞ」

 ニコッと笑ったメリーであるが、眼が笑っていない。本気で俺がノーライフキングを嫁にと言い出さないか警戒しているようだ。

 俺は至って真面目なんで、魔物とか嫁にする気はないぞ。本当にな。

「何をコソコソと言うておるのじゃ。早く妾の僕となるが良い! 骸骨ども、あの者たちを仲間にしてやれ!」

 ノーライフキングは、俺たちの方を見ると立ち上がった骸骨たちをこちらへけしかけてきていた。

 骸骨たちは、ノーライフキングを守護するように得物を構え、俺たちの前にわらわらと群がってくる。

 骨になったとはいえ、元暗殺者とSランク冒険者の亡骸。

 動きは軽快で剣先にも威力がこもっている。

「骨になっても面倒な奴らだ。クソ」

 スケルトンの斬撃を軽く飛んで避け、着地ざまに戦斧をスケルトンの集団に対してぶん投げてやる。

 ぶぉんという音とともに飛んでいった戦斧が次々にスケルトンたちの身体をバラバラに砕いていく。

 魔物と化してしまったからには、彼らはすでに人でなく、ダンジョンの住人となってしまっているのだ。

「私が前に出るわよ」

 押し寄せてきたスケルトンたちの圧力が減じられたことを察したメリーが、大盾とメイスを構えて徐々にノーライフキングへの道を開いていく。

 メリーはスケルトンたちの攻撃を盾で受け流して隙を作らせると、一撃必殺のメイスの殴打を打ち込んでいく。

 骨系にはさぞかしメリーのメイスはダメージは染みるであろうと思われた。

「生身の癖にやりおるのぅ。そなたたちは是非とも僕として妾のコレクションに加えてやろう。ククク」

 スケルトンの集団をなぎ倒していた俺たちの前に、急にノーライフキングが転移して姿を現す。

 不意を突かれ、対応が遅れた俺はノーライフキングの手に喉元を掴まれてしまう。

「グレイズさんっ!! きゃっ!」

 魂を吸うノーライフキングに俺が掴まれたことで狼狽したメリーがスケルトンの攻撃を避け損ね、弾き飛ばされて地面に転がる。

「グレイズさん! ファーマが今行くから!」

「あの女。絶対にダメ。グレイズに近づけないようにする」

「わふぅうう!! (アンデッド化した神様なんて聞いたらアクセルリオン神様に叱られて天なる国ヘブンスで素っ裸で晒し者にされちゃう」

 カーラの回復魔法によって傷を癒したファーマとハクが、俺がノーライフキングに掴まったことを見て、すぐさま攻撃態勢に入る。

「あっ、ぐぅっ! 外れねぇ!」

 すでに腕輪を外し、フルパワーの力で戦闘に挑んでいた俺であったが、ノーライフキングの喉元を締め上げる力は強く外せずにもがくことしかできなかった。

「ほぅ、この力。おぬしはダンジョン主様と同じ神器の持ち主か。ククク、ならばあの惨事も納得できる。久方ぶりにこの地にも神器の所有者が訪れていたようだな。こやつを妾の配下にしてダンジョン主様へ献上すれば、妾の覚えもめでたくなるはずじゃな」

 俺に顔を近づけたノーライフキングが紅くなまめかしい舌で俺の頬を舐め上げていく。

 神器の力を解放してもなお、この魔物の強さには対抗することが難しいと思われた。
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