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第二部 第一二章 発覚

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「そっちにダークストーカーが行ったぞ。後ろを取らせるなよっ!」

 俺は魔物との戦闘の最中、右側で戦っていた中堅冒険者たちに注意を喚起していく。

 冒険者の後ろにランタンの光を反射して揺らめく影が現れたかと思うと、冒険者の背後に短剣が現れていた。

「援護しますっ!!」

 アウリースが構えた杖から炎の矢ファイヤーアローを放つと、実体化しかけていたダークストーカーの身体が眩しく燃え上がっていく。

「すまんすっ! 助かった。アウリースちゃん、今度奢らせてもらうっす」

 油断してダークストーカーに背後を取られた冒険者がアウリースのフォローによって事なきを得ていた。

 だが、戦闘の方はファーマとハクが敵魔物のヘイトを集めまくり、意識が二人に向いた魔物をメリーとおっさんずが率いる中堅冒険者たちが次々に屠っている。

 第十九階層のキラーアントやブラッディドック、ダークストーカー、レッサードラゴンなどそれなりに強力な敵ではあるが、大規模パーティーの恩恵により攻撃の集中が行われ、魔物達が次々に撃沈されてドロップ品に変化していた。

 駆け出し冒険者たちは俺の近くで待機を命じているが、先輩冒険者の戦い方や魔物との戦闘の仕方、弱点などを俺が解説をしながら教える余裕もできている。

「怪我人はほぼ無い。みんな擦り傷程度。ツバつけておけばいい」

 魔物との戦闘も佳境に入り、近くにいるカーラが戦闘に参加している冒険者たちの怪我の具合を観察していた。

「そうか、それは良かった。魔物たちもほぼ討ち取れたようだしな。次に進むとするか」

 中層階に戻ってきたという安心感で中堅冒険者たちは自分たちも戦いたいと申し出てきていたため、俺は追放者アウトキャストでの通常の役割と同じく荷物持ち兼指揮を執るポジションに据えられていた。

 今回一緒に飛ばされた奴らは俺が人類を超越した力を持つことを知ることになったため、荷物持ちポジションに甘んじていたことに理解をしめしてくれている。

 ジェネシス曰く、俺が本気出したらダンジョンごと破壊しそうだと言われたが、ダンジョンには不壊の魔法がかかっているため、壊れないはずだ。多分、きっと。

 ただ、階層一つ分の壁丸ごと消し飛ばすってことなら、魔法を覚えられるようになった今やれる気はしないでもない。

『やってみてもいいですけどね。ちゃんと敵味方の識別はしてくださいよ。じゃないとグレイズ殿以外をすべて巻き込んで発動しますからね』

 戦闘を終えたらしいハクが俺の思考を読み取ったのか、階層丸ごと吹き飛ばし案に注文をつけてきていた。

 魔法の方はまだ覚えたてで、敵味方の気配を捉えるのが難しいんだよな。今やるときっと味方にも誤爆すると思うぞ。

『魔法は修練するしかないですからねぇ。グレイズ殿のは特に強力なんで、使い方を誤ると街一個消えてもおかしくないですから気を付けてくださいね』

 本当かよ……。あの幼女女神が神様製造するために神器をバラまいたって言ってたけど、俺みたいなのがゴロゴロいたら危ないだろ…‥‥。

『あー、でも神器の所有者の大半が、神様になる前にダンジョン主になってしまいますからね。グレイズ殿みたいに慎重な人は大丈夫だと思いますけど力に溺れてはいけないですよ』

 そういえば、そんなことを言っていたな。ダンジョン主がやたらと強い魔物なのは神器の力のせいか…‥‥。まったく、神様も碌なことをしない……。

『そう言わないでくださいよ。アクセルリオン神も上役の主神サザクライン様から神様不足をせっつかれて苦しいお立場なのですから……』

 幼女女神も苦労しているのか、仕方ない今度お呼び出しされたら、甘い物の土産でも持参してやるか。

『きっと喜びますよ』

 そうこうしているうちに冒険者たちが前に向けて動き出し始めていく。

 その後、数回の野営を行いつつ、魔物の討伐や宝箱などを漁って上層階へ上がっていったが、冒険者ギルドが送り込んでくれたはずの捜索部隊とはついに会えず、第一〇階層の入り口にあるいつも店を開く場所まで戻って来ていた。

「うぉおおおおっ!! ついにここまで戻ってきたっすね! もう、ここまで来たら帰ってきたも同然っすよ」

 ジェネシスがやたらと嬉しそうに声を上げて喜んでいる。

 周りを見ると駆け出しの冒険者たちも大半の者がホッと安堵した顔をしていた。

 ここまで来ればもう地上へは半日程度で到達できる階層だ。

 ただ、一〇〇名近いパーティーなのでもう少しだけ時間はかかるかもしれない。

「やっと戻って来られたわね。それにしても深層階から駆け出し冒険者引き連れて死人を出さずに無事に帰還するって、わりと凄いことよね」

 隣を歩くメリーが、脱出行が上手くいったことに感心していた。

 俺としても最初は深層階に飛ばされたことに気付いた時は、怪我人などが続出するかと思っていたが、ここまでは歩けなるほどの重傷を負った者は出ず軽傷者が大半であったのだ。

「凄いことは分らんが、とにかく無事に地上に戻れそうだし、戻ったらメラニアの件を調べないといけないからな。その前に祝勝会だが」

 その時、不意に周囲に殺気が拡がっていく。

 すると、ダンジョンの壁から布がハラリと落ち、短剣を手にして黒装束の男たちが一斉に現れたかと思うと、手の短刀を冒険者たちに投げつけていく。

  完全に気配を消されていたため、俺もファーマもハクも敵の不意打ちに対応できずにいた。

 不意の奇襲に対応できた者は皆無で、短刀を打ち払うのに失敗した冒険者が腕や足に短刀を突き刺さると、すぐに痙攣したかと思うと口から泡を噴き出して地面に倒れ込んだ。

「この匂い……。こ、こいつら毒を使いやがるぞっ!! あの短刀の刃先に毒が塗られてる!!!」

 ジェネシスが周囲に充満した匂いを嗅いで、敵が毒を使っていると注意してきた。

「グレイズ、私、解毒する。援護頼む」

「お、おぅ。前衛は身を守りつつ、倒れた者をこっちへ連れて来い! 盾持ちは魔法職守れ! ファーマ、ハク! 敵を攪乱してくれ! メリー盾持ちたちの指揮を頼む! アウリースたちは敵を無力化してくれ。俺も前に出る」

 戦斧を手にすると、すぐに前に出ていき、なおも俺たちを攻撃しようとする黒装束の男たちを迎撃することにした。
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