おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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第二部 第一一章 脱出行

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 ※グレイズ視点

 ブラックミルズダンジョン第二二階層、不死王の宮殿ノーライフキングパレス

 この階層を支配するボスの不死王ノーライフキングは、吸血鬼系の魔物の上位種と言われ、高度な魔法を駆使し、生命ある者から命を掠め取っていく魔物だ。

 不死王ノーライフキングを含む、吸血鬼系の魔物は、生者の魂を吸い尽くすと、自らの眷族となるレッサーヴァンパイアとして従属させる能力を持ち、冒険者たちからは忌み嫌われる存在であった。

 そんな能力を持つ不死王ノーライフキングが宮殿を構えるこの階層に生成されるのは、アンデッドモンスターや吸血鬼系が主体だ。

 リザードマンゾンビ、冒険者ゾンビは探索時に出会ったが、他にもヴァンパイア、レッサーヴァンパイア、ファントム、レイス、スケルトンウォーリアー、ワイトなどといったアンデット軍団がこの宮殿を護衛しているのだ。

 アンデット系は耐久値が高く、魔法が掛かった武器か魔法でした倒しにくい者も出現するため、探索の難易度は相当に高い場所になっている。

 実際、Sランクパーティーになれるかどうかの境目と言われるのが、この第二二階層であり、ここの階層を踏破でき、第二三階層に湧く、生命の泉の水を持ち帰ったパーティーは、例外なくSランクパーティーとして認定されている。

 Aランク昇格を果たしたパーティーが、次のステップに上がるための最大の難所されている場所が不死王の宮殿ノーライフキングパレスだ。

 そんな危険地帯を、俺たちは駆け出しや中堅なり立ての冒険者を引き連れて脱出するための探索をしていた。

「グレイズさん、前から敵の気配がするよ。数は一〇くらい」

「わふうう! (匂いからゾンビ系ですねー。突っ込みましょう。敵を呼び集められたら面倒ですし)」

 ハクとファーマが敵を発見したのを見つけ、俺に報告してきていた。もちろん、俺も気配を察知している。

「分かった。後ろのメリーにも合図を送る」

 腰に吊るした青い光を発していたランタンから、青色に着色された薄く加工された水晶板を引き抜くと、黄色く着色された水晶板をはめる。ランタンから発せられる光が黄色い光に変化した。

 味方との信号通信ができるとの触れ込みで、商売用に販売しようとしていたランタンであった。値段的には通常のランタンの五倍ほどだが、こういった危険地帯の探索の際、声を出さずに遠くにいる味方へ状況を知らせられる道具と思えば、『あって良かった』と思える商品だ。

 出発前の取り決めで、『黄』を『魔物発見』、『青』を『安全』、『紫』を『トラップ注意』、『赤』を『救援求む』と決めていた。

 そのランタンを俺、メリー、カーラ、アウリース、そして最後方のおっさんずと一緒にいるセーラに渡し、見えやすいように掲げるようにしてあるのだ。

 これは、先頭を行く俺たち探索組から最後方のグレイまで通路を通じて、かなり離れているため、情報伝達手段として各集団のリーダーに配布しておいた。

 通路の角ごとに各リーダーを立てて順送りで、ランタンの光が変化すれば、声で伝達するよりも素早く状況が掴め、大所帯による混乱も引き起こさずに援護や、支援が行いやすくなると思われる。

 後方の通路の角に立つメリーの信号が、俺の発した『黄色』に変化した。この際、自分と違う色のままであれば、最後方で何かが起こっていると判断できる。今回はこちら側の色に変化したため、後方の安全は確保されているようだ。

 ちなみに、俺たち探索組と後方を進むメリーたちの集団との間も五〇歩ほどの距離を開いている。

 分岐路がない限りはそれだけの距離を保つようにメリーには伝えてある。

 あまり近くにいると乱戦になる可能性もあるし、距離を取り過ぎると探索で安全確認した意味がなくなる可能性があるからだ。

「信号の変化を確認した。さて、突っ込むか。いくぞ、ファーマ、ハク」

「りょーかい。ハクちゃん、いくよー」

「わふぅ! (戦闘! ふふふ、戦闘のお時間のようね)」

 俺は先程の探索行で得たリザードマンゾンビのドロップ品である戦斧を担ぎ走り出すと、ファーマとハクも戦闘態勢を整えて、俺の後に従って走り出していた。

 まだ脱出行の再序盤であるため、腕輪を外してはいないが、探索時の敵の強さであれば、腕輪を付けたままでの戦闘でもいけそうな気がしている。

 何が起きるか分からない脱出行なんで、温存できる力を残しておきたい。

 
 戦闘態勢に入り、通路を駆け足で進んでいくと、少し広めの空間が見えてきた。俺が脳内で覚えている地図では宮殿を守る衛兵たちが詰める詰め所であったはずだ。

「敵はっけーん! 冒険者ゾンビさん五体、リザードマンゾンビさん三体、スケルトンさん二体いるよ」

「ファーマ、スケルトンはウォーリアータイプだから、油断しないように固いし、動きも素早くなっているからな」

「わふぅ! (あたしが牽制します!)」

 ハクが敵の集団に向けて、スピードを上げて突っ込んでいく。ハクに気付いた魔物たちの集団が一斉に動き出し始め、近づいてくるハクに集まり始めた。

 一網打尽のチャンスだな。ハク、伏せろ!

 俺は手にした戦斧を魔物に向けて投擲する。

『へ?』

 訝しみながらも、指示に従って伏せたハクの上を掠めるように、俺が全力で投げた戦斧が空気を切り裂きながら通り過ぎていった。

 戦斧が通り過ぎた後は、上半身と下半身が切り離された冒険者ゾンビ五体がドサリと音を立てて地面に崩れ落ちていく。

「わふぅうう! (あたしの敵がぁああ! グレイズ殿、酷い!)」

 敵を横取りした俺に抗議してきたハクであったが、かすかに動いている冒険者ゾンビの頭を前脚で踏み潰してトドメを刺していた。

 敵なんて、これから腐るほど出てくるさ。それに、まだいるからな。

「ハクちゃん、リザードマンゾンビやるよ!」

 俺の戦斧が冒険者ゾンビの身体を刈り取っていた間に、ファーマはリザードマンゾンビに近づくことに成功しており、ハクとの共同攻撃を頼んでいた。

「わふぅう! (おっけい、グレイズ殿に持っていかれる前に、あたしとファーマちゃんで倒す)」

 斧を振りかぶってファーマを攻撃しようとしていたリザードマンゾンビの足にハクが噛みつき動きを止める。

 身動きを取れなくなったリザードマンゾンビに向けて、攻撃速度を上げたファーマの爪による連続攻撃が次々にヒットしていった。

 ファーマは、また攻撃回数が上がっているな。固いのには苦戦するかもしれんが、柔らかいのには脅威だろうな。

 自分で投げ、壁に突き立った戦斧を回収しながら、ファーマとハクの戦闘の様子を視界に入れる。

 あの二人一組でなら、この第二二階層の敵もイケルと確信をした。

「ファーマ、ハク、そっちは任せるぞ」

「お任せあれー!」

「わふうぅ! (こっちはあたしの獲物です!)」

 リザードマンゾンビはファーマとハクに任せ、俺は戦斧を手にすると、固い防御力を誇るスケルトンウォーリアーへ戦いを挑んでいく。

 スケルトンウォーリアーは、ただでさえ固いスケルトンが重装備の鎧と大盾を装備し、更に固さを増した魔物となっている。しかも、低層階で出るスケルトンよりも身軽さと俊敏さまで増していて、深層階に潜る冒険者からは『アンデットタンク』と呼ばれ、敬遠されている魔物だ。

 だが、その固い『アンデッドタンク』も、ゴブリンキングに比べれば、雑魚敵である以上、ステータスMAXの俺の相手にはならない。

 一足でスケルトンウォーリアーの懐に飛び込むと、その勢いを乗せたままの体当たりを盾を構えたスケルトンウォーリアーに喰らわせてやる。

 ドンっという鈍い音がしたかと思うと、体当たりを喰らったスケルトンウォーリアーが壁の中に埋まった。

 そして、残った一体も手にした戦斧を下から斬り上げ、背骨から頭蓋骨までを真っ二つに斬り分けることに成功していた。

「ざっと、こんなもんだ」

 攻撃する余裕すら与えずにスケルトンウォーリアーを処理したところで、ファーマたちの方も決着がついたようだ。

 もちろん、ファーマ、ハクコンビの勝利である。

 そして、周囲の敵の気配はすべて消えていた。

「よし、この辺りの安全は確保したな。ドロップ品の収集は後続に任せて、ランタンの信号送ったら、出口に向けて進むとしよう」

 地上に帰った際の祝勝会費の足しにするため、退治した魔物の素材をなるべく収集して地上への脱出行を行うことにしている。

 祝勝会費の確保という観点もあるが、先発隊である俺たちが敵を退治していく実力があることを後方を進む冒険者たちへ伝え安心してもらう意図も含んでいるのだ。

「はーい。ハクちゃんも怪我無いねー」

「わふぅう! (もっと、もっと敵をおかわりしたい)」

 一人だけ戦闘意欲が高すぎるのが問題だが、今のところは順調に進めているな。階層が上がるほど、危険度は下がっていくからここが正念場か。

 ファーマとハクの無事を確認したところで、ランタンの水晶板を『青』に変化させ、後続のメリーの信号変化を確認する。

 少しだけ待つと、メリーからの信号は『青』に変わったため、ドロップ品に変化した魔物を後続に任せ、俺たちは更に先に進むことにした。
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