おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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第二部 第十章 飛ばされた先

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 自分たちがいる階層が深層階の第二二階層に当たる、不死王の宮殿ノーライフキングパレスだと判明したところで探索を打ち切り、メリーたちのところへと戻ってきていた。

 そして今、一緒に転移した冒険者たちの前で探索の結果を伝えようとしているところだ。

「それで、グレイズさん。ここはどこだったの? 分かる場所だった?」

「グレイズ、顔が強張ってる。もしかして、やばいところ?」

「私が居たAランクパーティーでの最高到達階層は、深層階の入り口に当たる二〇階層ですが、このような雰囲気の場所は記憶にないですから……」

「本当に申し訳ありません。わたくしのせいで……」

 探索を終えて帰って来た俺たちを出迎えたメリーやメラニアたちが、自分たちがどこに飛ばされたのかを不安そうに聞いてきた。

 彼女らの後ろにいる冒険者たちも、俺たちの探索結果をすぐに知りたそうにしているのが、手に取るように分かった。

「あー、これから、俺たちが飛ばされた場所に発表をするが、けして、騒がないようにな。下手したら大きな声に反応して魔物が寄ってくるかもしれん。状況としては絶望的だが、大丈夫。きっと俺が地上まで連れ帰ってやるから安心しろとだけ言わせてくれ」

 普段は絶対に言わない、俺が大言壮語をしたのが、逆に冒険者たちの不安を煽ったのか。それとも、Sランク冒険者とはいえ、戦えないという『商人』が『大丈夫』だと言ったことに不安を感じたのか、冒険者たちの顔が一様に曇っていくのが見えた。

「マジっすか。グレイズさん戦えないって言ってたじゃないっすか。ジョブが『商人』なんすよね?」

 例の底抜けに明るい能天気な駆け出し冒険者の男が、俺の言葉を聞いて皆の不安を代弁するように聞いてきた。

 男はリトルヒューマン族で小柄だが、歳もかなり若いようで、つい先頃このブラックミルズに流れてきた駆け出しの冒険者で、名前は確かジェネシスとか言っていた気がする。

「ああ、ジェネシスの言う通り確かに俺は『商人』さ。だが、まぁ色々とあってきっと大丈夫さ。任せておけ」

「グレイズさんが冗談を言うとなると、相当深刻な事態っすかね……」

 ジェネシスが今までに見せたことのない深刻そうな顔をしてこちらを見ている。同じように年若い冒険者たちは俺の方を見て不安そうにしていた。

「隠してもしょうがないので真実を伝えるが。実は、ここは第二二階層の不死王の宮殿ノーライフキングパレスだ。深層階まで、俺たちは飛ばされたらしい」

 俺が告げた探索の結果に、メリーたちを始め、冒険者たちが唾をのむ音が一斉に聞こえてきた。

 戦力的には駆け出しや中堅なり立ての冒険者が大半であり、深層階で生成される魔物とまともに戦えそうなのは、うちのパーティーのメンバーと、『おっさんず』の三人くらいだろう。

 ただ、駆け出しや中堅なり立ての冒険者たちも一対一〇ぐらいの物量で魔物と相対すれば勝てなくもないが、大量に魔物が湧けば、最悪死人の山が築き上げられるだろうと思われる。

「第二二階層……。グレイズさんが嘘を言うわけがないから、本当のことなんだろうけど、深層階に飛ばされちゃったとはね……」

「深層階……。魔物強いはず、結構大変な事態」

「まさか、第二二階層とは……。私の自己最高到達階層が塗り替えられましたね。それにしても、『追放者アウトキャスト』単独なら帰還することは可能でしょうけど、駆け出しの方々は……」

 アウリースも言葉尻を濁しているが、深層階にまで金色宝箱ゴールデンボックスによって飛ばされたことを知った駆け出し冒険者たちが、次々に絶望のため息を吐いていた。

「深層階と言われますと、もしかして非常に帰還が困難な場所ですかね。わたくし、ダンジョンのことはあまり詳しくなくて」

「メラニアちゃん、第二二階層ってのはさ。俺ら駆け出しにしてみたら、生還不可能な場所っすよ。絶望しかない感じ?」

 冒険者ではないメラニアにジェネシスが、実力的に自分たちが絶対に生き残れない階層であると説明していた。

「慌てるな! まだ、死ぬと決まったわけじゃない。幸い、一〇〇名もの冒険者が一緒に飛ばされた。一対一は絶対に叶わなくても一〇対一くらいならやれる。それにこの階層の地形はある程度俺の頭の中に入っている一部ダンジョン主が変形させているかもしれんが、上にあがる階段の場所は早々変わらないはずだ。あと、ここに物資も大量に持ち込んである。売り物だが緊急事態なんで共用物資として放出するつもりだ。ここからは一〇〇人が一パーティーとして動くぞ。そして、リーダーはSランク冒険者として俺がさせてもらう。すまないが緊急事態なので異論は認めない」

 ショックを受けて自暴自棄になりかけている者や、茫然自失の状態に陥っている者たちへ向けて、矢継ぎ早に飛ばされた集団を一パーティーとして編成し、そのパーティーのリーダーに俺が就任することを勝手に決めた。

 本来なら、こんな強引なことをすれば、反発があってしかるべきなのだが、駆け出し冒険者たちは深層階に飛ばされた不安感から、誰一人として反論する者もない。

 中堅になり立ての冒険者たちも、この困難過ぎる脱出行に尻込みしている者が多く、普段から戦えないと言って荷物持ちしかしていない俺がリーダーに就任するのに反対を示す者はいなかった。

 無論、追放者アウトキャストのメンバーは俺の実力を知っているし、『おっさんず』も特に反対を表明していないため、皆の沈黙をもって、俺のリーダー就任の承認が得られたと思うことにした。

 それと同時に、今回に限り、俺は自分の持つ力をこの集団を守ることに使う決断を下す。

 俺が化け物だと言われようが、そんなことは関係ない。こいつらを無事に地上に戻すことが最優先だ。それこそが、俺がこの力を持つ意味だとも思える。なぁ、そうだろ? ハク。

『いい機会なんで、グレイズ殿の英雄デビューをみんなに見せつけましょうか。その後のことはどうにかなりますよ。なにせ、『運』も神様並みなのでね』

 英雄なんてガラじゃないんだがな。それに今回のこの事態は俺の判断ミスだしな。とにかく今、俺にできることに全力を尽くすだけのことさ。

 ハクの後押しを受けて、自分が人外の力を持つことを冒険者たちに告げることにした。

「この困難な脱出行に際して、一つだけみんなに伝えておくことがある。実は俺ステータスがMAX表示される男で、この中に居る冒険者で一番強いんだ。ゴブリンキングともソロでタイマンして勝ったし、ここの階層の雑魚敵なら数発の拳で退治できる実力がある。だから、俺が全力で守るから皆で一緒に地上に戻ろう! けっして、諦めるんじゃない。冒険者同士で手を取り合い協力し合えばダンジョンなんて屁でもないはずだ」

 俺の告白を聞いた冒険者たちからの沈黙後、微かに笑い声が聞こえてきた。

「ププッ、グレイズさんがゴブリンキングとソロでタイマンして勝てるだって……笑わせすぎっすよ。でも、グレイズさんの言う通り、みんなで力を合わせれば、けして無理なことじゃないんですよね?」

 ジェネシスは俺の告白を、場を和ませる冗談だと受け取ったようだが、先程までの絶望に捉われた顔を一変させ、希望を見出しているようにも思えた。

「ああ、そうだ。みんなで一緒に地上を目指すぞ! あと、俺の本気を見てちびるなよ!」

 その一言で沈痛そうな表情をしていた冒険者たちからドッと笑い声が上がる。

「グレイズがゴブリンキングにタイマンで勝てるなら、オレは不死王ノーライフキングをワンパンで沈められるはずさ。あの『商人』グレイズがここまで吹いたんだ。オレたちも絶望してる暇なんてないぞ」

 『おっさんず』のグレイが、茶化すように場を盛り上げていく。

 それによって、冒険者たちは目標に向けて動き出す士気を回復させていった。

「グレイズさんは本当に強いんだけどねー。さぁ、ファーマたちもグレイズさんに負けないように頑張るぞー!」

「わふうぅ! (天なる国ヘブンスの吟遊詩人さんに依頼して、この脱出行を詩にしてもらわないと。昇神に必要な信者を集めるには英雄譚は必要ですからね。アクセルリオン神様、手配お願いします)」

 ハクが何やらゴソゴソとアクセルリオン神と話し合っているようだが、俺にはアクセルリオン神の声が聞こえないため、細かい内容までは分からなかった。

「さて、じゃあ。脱出のために決めないといけないことがたくさんあるわよ。なにせ、一〇〇名超の大所帯パーティーですもの。一応、グレイズさんが探索している間、捜索参加者名簿の情報からジョブ、魔法職は使用できる魔法を聞き出して整理しておいたわ」

 俺が今からか聞こうとしていたことを、メリーがすでにまとめて聞いてあり、愛用の帳面に記載されていた。

「さすが、メリーだ。分かっているじゃないか」

「カーラやアウリースから言われてね。時間があったから、冒険者たちの気晴らしも兼ねて帳面にまとめておいたのよ。褒めるべきはカーラとアウリースね」

「そうか。カーラ、アウリース。助かった。ありがとう」

「思い付いたことをメリーに言っただけ」

「そうですね。グレイズさんが戻って来て、最初に何するかなと考えたら思い付きました。でも、冒険者たちをキッチリとまとめてくれたのは、メリーさんですよ」

 アウリースの言う通りアイディアを思い付いた二人も偉いが、冒険者をまとめて、色々と聞き出し帳面にまとめたメリーの行動力も賞賛に値する行為であると思う。

「そうだな。俺は仲間に恵まれている。おかげですぐに状況も把握できるんだからな」

「フフ、グレイズさんが私たちなしで生活できないようにするのが目的だもの。有能さは見せておかないとね」

 みんなの有能さを思うと、本当にいつの日か、俺は彼女たちがいないと生活ができなくなる日が来るのではないかとも思えてきた。

 男として、女性に養ってもらう事態だけは何としても避けなければならんとは思うのだ。
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