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第二部 第十章 飛ばされた先

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 「グレイズさん……グレイズさん、起きて、起きてよう」

 誰かが俺の身体をユサユサと揺すってきていた。

 声に反応して目を開けようと頑張っているが、地面がグルグルと回っているような感覚が残っており、身体の自由が未だに戻って来ていなかった。

 なので、もう少しだけ時間をもらいたい。

「ああ、分かった。もう少ししたら起きられるようになるはずだ。ちょっとだけ待ってくれ」

 俺をこの状態に追いやった金色宝箱ゴールデンボックス。ムエルたちと組んでいた時に、深層階で見かけて退治しようと戦ったが、先ほどのように転移魔法が発動した。その時は上層階に飛ばされただけで済んだ。

 だが、金色宝箱ゴールデンボックスと遭遇した中で運が悪い者は壁などにハマり込み、そのまま絶命したと、他の冒険者から聞いたこともある。

 ある意味、ダンジョンで一番凶悪な魔物なのだ。ただ、転移魔法発動前に倒すことができれば、レアドロップ装備などを多数ドロップ排出するため、危険性を省みず討伐にチャレンジする冒険者もいるのだ。

 そんな危険性のある金色宝箱ゴールデンボックスだが、現れる可能性がない低層階に出たという理由は、メラニアの召喚魔術くらいしか考えられなかった。

 自死をしようとした際に、召喚陣が錬成され、それが金色宝箱ゴールデンボックスを呼び込んだと推測される。

 前回のグレーターデーモンに続き、今回の金色宝箱ゴールデンボックスも深層階の魔物であることを考えると、彼女の錬成する召喚陣は高確率で強い魔物を呼び寄せるかもしれなかった。

 そんなことを考えていたらグルグルと目の回る感覚が徐々に失せていき、目が開けられるようになると、身体を起こして周囲の様子を確認していくことにした。

「メラニアやみんなは無事か? 気が付いている奴はパーティーメンバー同士で仲間の安否を確認してくれ」

 起き上がると周囲には、あの場に居て同じように飛ばされた冒険者たちが、地面に倒れ込んでいる姿が多々見受けられた。

 見える範囲では負傷などしている者は見られないが、転移の衝撃で気を失っている者が多数いるようだ。

「グレイズさん、みんな寝てるのー。さっきから、ファーマが一生懸命起こしているんだけど、みんな起きなくて困っているのー」

 一番最初に目覚めたらしいファーマが俺を揺すっていたようだ。

 転移後のあの感覚からの復帰には個人差がかなりあるようで、周りを見ても目覚めている者は数名ほどしかいない。

「みんな、気を失っているだけだと思う。起こしていこう」

「はーい! じゃあ、メリーさんからいく。メリーさん、起きてー!」

 ファーマが地面に横たわって気を失っているメリーを揺すって起こしていく。

 俺も自分の横で倒れていたカーラの肩を揺すって、覚醒を促していった。

「カーラ、起きろ。起きてくれ」

「う、ううん。グレイズの顔がある。これは、夢というやつ。だったら、チューしていいはず」

 寝ぼけているのか、カーラが接吻を求めるような仕草をしたので、軽くおでこにデコピンを喰らわせて覚醒を促した。

「グレイズ、酷い。チューの一つくらい。減らない。ケチ」

「多分、俺のは減るんだよ。きっとな」

 カーラの無事の覚醒を確認して安堵する。見たところ、身体には負傷はない様子である。

 ただ、寝ぼけて接吻を求められても、応じることは出来ないので、丁重なお断りをさせてもらった。

「カーラも目覚めたら、他の子を起こすのを手伝ってくれ」

「承知。次こそ、グレイズのチューを頂くつもり」

 パンパンと衣服の埃を払ったカーラは近くのハクを起こしていった。

「次はメラニアか」

 カーラを起こすと、気を失っているメラニアを起こす。

 どれくらいの時間、気を失っていたか分からないが、メラニアはきっと金色宝箱ゴールデンボックスの召喚によって魔力をかなり消費しているはずであった。

「メラニア、大丈夫か? 起きろ。起きてくれ」

 小柄なメラニアの身体を揺すり、覚醒を促していく。

「あうぅん。うぅう、ううん」

 端正な顔立ちをしているメラニアの眉間に皺が寄ると、意識が覚醒したようで徐々に目が開き始めていった。

「起きてくれ、メラニア」

「あ、うん。グレイズ様? 一体何が……起きたのです」

 一瞬、何が起きたのかメラニアに伝えるかどうか逡巡したが、彼女自身が自分の力を知ってしまった現状、嘘をついて隠しても真実にたどり着くと思われた。

 なので、俺の推測ではあるが、現状で一番可能性があると思われることを伝えることにした。

「メラニア、落ち着いて聞いてくれ。これは俺の推測に過ぎない話だと前置きした上で話させてもらう」

「え、ええ。はい」

「俺たちは金色宝箱ゴールデンボックスという魔物が発動させた集団転移魔法に巻き込まれたらしい。そして、その魔物はきっとメラニアの召喚魔法が呼び寄せた魔物だったと思われるんだ」

 自死をしようとした際、自らが召喚魔法を発動させたことを感じ取っていたメラニアががっくりと項垂れてしまう。

「や、やはり、わたくしのせいでしたか……。本当にすみません。本当にわたくしは皆さんにご迷惑しか……」

「死んで償うって話は無しだからな。大丈夫、壁の中じゃなかったし、ダンジョンの中は俺たち冒険者にとっては家みたいなもんだ。気に病む必要はない」

 集団転移が自分の引き起こした失態だと察したメラニアが気落ちしないように慰めの声をかけていく。

「本当にすみません。死んで償うのは無しだと言われましたので、わたくしにできることは何でもさせてもらいます。戦闘ではお役に立てませんがご飯作りくらいならお手伝いできると思いますし」

「ああ、戦うことは俺たちに任せてくれ。それに召喚魔法については地上に戻ったらおばばに詳しい話を聞いてみるつもりだ。召喚魔法も魔法の一種だから制御できるはずだしな。そっちも俺がきちんと面倒を見てやるから安心してくれ」

 メラニアがうっすらと涙を浮かべて、俺の手を握ってきていた。

「本当にグレイズ様にはお世話をおかけします」

「いいってことさ。俺が好きでやっていることだからな」

 ポケットから綺麗なハンカチを取り出すと、うっすらと浮かんだ涙を拭いてあげた。
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