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第二部 第九章 苦難の道
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※グレイズ視点
『大変です。グレイズ殿、起きて、起きてください!!』
昨日、メラニアの婚約式典に来賓として出席し、アルガドやメラニアと祝いの酒をみんなでしこたま飲み、酔い潰れてしまったようで、メリーたちが家まで連れ帰ってきてくれていたようだ。
ベッドの上で酔い潰れている俺の顔をハクがペロペロと舐めて起こそうとしていた。
ハク、帰ってきたのか。だが、俺の顔をペロペロするんじゃない。
『アクセルリオン神の結ばれて赤い糸が何らかの拍子で切れて、今までアクセルリオン神様のところで修復のお手伝いしてたんです!! でも、修復は失敗しました。このままだと、反動でメラニア嬢に命の危険が及ぶので、グレイズ殿!! 早く起きてください!!』
メラニア? 赤い糸? アクセルリオン神が失敗?
酒で頭の動きが鈍くなっていた俺はハクの言っていることが理解できずにいた。
『緊急事態なんでバラしますけど、メラニアさんはアクセルリオン神がグレイズ殿に用意された最後の天啓子なんですっ! 本来なら糸を辿ってグレイズ殿の元に来るようになっていたんですけど、原因不明の要因で千切れてしまいました。この分だと、グレイズ殿が直接繋がないとメラニア嬢の命が危ないです。前にも言いましたが、グレイズ殿用に天啓子としての能力を与えられた子は、離れると不幸になるってがあって、メラニア嬢は運がもの凄くいいステータスが災いとなって反動がヤバいですから』
メラニアが最後の天啓子……だと! って、あの子はアルガドの婚約者だぞ。なんで、天啓子になんてなっているんだ!?
徐々に頭がはっきりとしてきたので、ハクの喚いている内容が頭に入ってきた。
昨夜、アルガドとの婚約を発表したメラニアが、天啓子であるとの話であった。
「グレイズさん! 起きて! ハクちゃんが言ってることが本当みたいよ。商店街の人たちが今知らせに来てくれて分かったんだけど、昨日婚約したメラニアちゃんが間男を引き込んだって話でアルガドから婚約破棄されて、行方不明になっているみたいなの!」
ハクと話していたのを聞いたメリーが慌てて階段を上がってきていた。
「グレイズさん、大変、大変なのー。メラニアさんがーどっか行っちゃったよー」
「グレイズ、早く起きる! すぐに探す!」
「着替えの準備をすぐに致しますので、早く探しに行きましょう」
メリー以外のファーマもカーラもアウリースもメラニアの危機を察している様子で、慌てた様子で階段を駆け上がってきている。
俺はメリーの言ったことに驚きを覚え、顔をペロペロしていたハクをどかすと、ベッドから這い出していた。
「一体どういうことだ。メラニアが間男を引きこんだなんてあり得ない話だろ!? しかも、婚約披露をした翌朝だぞ!?
『千切れた赤い糸がメラニア嬢に不運を呼び込んでいるのです。このままだと彼女の命が危ない』
ハクが常々言っていたアクセルリオン神が用意した天啓子が俺から離れると、不幸になるって話がメラニアに適用されているらしい。
「グレイズさん! まずはメラニアを確保してから話を聞きましょう! 今はすぐにでも捜索隊を結成する方が先決よ」
「そ、そうだな。そっちが先決だ。なんでそうなったかは後で聞けばいい。メリーの言う通りだったな。よし、メリーは商店街の人たちで手伝ってくれる人を探して商店街を捜索してくれ。セーラやおっさんずにも手伝ってもらおう」
「おっけい、商店街の捜索は任せておいて、ジェイミーさんにも手伝ってもらうわ」
「あと、冒険者ギルドにも捜索依頼を出して、知り合いの冒険者たちにも探すのを手伝ってもらう。この際、幾らでも金を使ってをでもメラニアを保護しないと。そっちはアウリースやカーラ、ファーマで頼む。歓楽街もくまなく探して欲しい!」
「分かったよー」
「承知」
「承りました。歓楽街の方は依頼を受けてくれた冒険者たちとくまなく探します」
酒に鈍っていた頭を無理矢理に動かして、メラニアを探し出すための指示をみんなに出していく。俺は婚約を破棄したアルガド本人に経緯を尋ねることにした。
「俺はハクを連れて、アルガドに面会を求めて、事情を聴いてくる。そして、彼女の立ち寄りそうな場所もな」
あの生真面目で頑固そうなメラニアが、婚約披露した夜に間男を引き込んでいたなどという話は信用できない。
俺をサポートするための天啓子云々の話は一旦置いておくとして、彼女の身の安全だけは確保しなければという思いが募るばかりであった。
みんなが家から飛び出していくと、俺もすぐに着替えを行い、アルガドの宿泊しているはずの広場の高級宿に急いで向かうことにした。
「一体、どういうことでしょうか? メラニアのことは自分に任せろと仰ったではないですかっ!」
俺はアルガドの宿泊先を訪れて、面会を申し込んでいた。
アルガドは間男を突き殺した際に血で汚れたらしく、湯上りの格好で俺を出迎えていた。
「わたしも我慢しようとは思ったが、よりにもよって婚約披露をしたその夜に他の男と寝ておったのだぞ。男としてこれほどの屈辱はないと思うのだが、グレイズ殿はそうは思わぬということか?」
アルガドは心底、メラニアを思い出したくないようで、憎しみを含んだ視線を俺に向けている。
確かにアルガドの言う通り、メラニアが間男を引き込んでいたのなら、男として彼に同情する余地はある。
だが、メラニアの性格や振る舞いからはどうしても、彼女がそういったずる賢いことをする女性には思えないでいた。
「おっしゃりたいことは同じ男としては分かりますが、それにしても相手の言い分も聞かずに婚約破棄をして、行方不明になったのに捜索願いも出さないというのは、如何なものかと思いますぞ。それで、メラニア嬢が立ち寄りそうな場所に心当たりはありませんか!?」
「グレイズ殿が何ゆえにそこまでメラニアの肩を持たれるのだ? 彼女の力を知るとはいえ、まるで貴方が自分の婚約者を探しているように思える発言だ!」
アルガドがこちらの顔色を窺うような目で睨みつけてきていた。
その眼には婚約者に裏切られたという憎しみが宿っているのか、今まで俺に向けていた温和さを潜め、厳しさを伴った視線に変わっている。
「そのようなことを言っているのではないです。ですが、婚約破棄され失踪した彼女に万が一のことがあれば……。街も貴方もタダでは済まないと思いますが」
「貴殿に心配される謂われはない! その様子ならグレイズ殿が冒険者ギルドへの捜索依頼は出しておるのだろう。メラニアの捜索依頼の承認はしておく。それで良いだろう! わたしはこれ以上あの女に関わりたくないのだ!」
アルガドは、話し合いはここまでと言わんばかりに、話を打ち切り俺に退室するように促していた。
「アルガド様! 彼女の立ち寄りそうな場所だけでも心当たりは――」
「くどい! わたしは知らぬ。これ以上、この場に留まるなら、貴殿を捕えねばならなくなる。潔く去られよ」
アルガドが最後通牒のように立ち去るように求めてきた。
『グレイズ殿、これ以上は時間の無駄かと思います。早く、メラニア嬢を探しましょう』
ハクもこれ以上は無意味だと進言してきたので、俺はアルガドの逗留している宿を後にしていた。
その後、数日の間、冒険者も商店街の人も大動員してブラックミルズの街を捜索したが、メラニアの足跡は全く見つけられず、街にはいないという判断が下った。
山間にあるブラックミルズから、別の街までは女性の足で歩くのには無理があると判断した結果、残るのはダンジョンのみとなっていた。
ダンジョンは自死を選ぶには一番楽な場所だ。自ら手を下さなくても魔物が手を下してくれる場所であるからだ。
俺は嫌な予感を拭い去れずに、探索用の装備と物資を持ち込み、捜索に参加してくれる一〇〇名近い駆け出しと中堅なり立ての冒険者を引き連れ、メンバーたちと低層階を中心に捜索することにした。
『大変です。グレイズ殿、起きて、起きてください!!』
昨日、メラニアの婚約式典に来賓として出席し、アルガドやメラニアと祝いの酒をみんなでしこたま飲み、酔い潰れてしまったようで、メリーたちが家まで連れ帰ってきてくれていたようだ。
ベッドの上で酔い潰れている俺の顔をハクがペロペロと舐めて起こそうとしていた。
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酒で頭の動きが鈍くなっていた俺はハクの言っていることが理解できずにいた。
『緊急事態なんでバラしますけど、メラニアさんはアクセルリオン神がグレイズ殿に用意された最後の天啓子なんですっ! 本来なら糸を辿ってグレイズ殿の元に来るようになっていたんですけど、原因不明の要因で千切れてしまいました。この分だと、グレイズ殿が直接繋がないとメラニア嬢の命が危ないです。前にも言いましたが、グレイズ殿用に天啓子としての能力を与えられた子は、離れると不幸になるってがあって、メラニア嬢は運がもの凄くいいステータスが災いとなって反動がヤバいですから』
メラニアが最後の天啓子……だと! って、あの子はアルガドの婚約者だぞ。なんで、天啓子になんてなっているんだ!?
徐々に頭がはっきりとしてきたので、ハクの喚いている内容が頭に入ってきた。
昨夜、アルガドとの婚約を発表したメラニアが、天啓子であるとの話であった。
「グレイズさん! 起きて! ハクちゃんが言ってることが本当みたいよ。商店街の人たちが今知らせに来てくれて分かったんだけど、昨日婚約したメラニアちゃんが間男を引き込んだって話でアルガドから婚約破棄されて、行方不明になっているみたいなの!」
ハクと話していたのを聞いたメリーが慌てて階段を上がってきていた。
「グレイズさん、大変、大変なのー。メラニアさんがーどっか行っちゃったよー」
「グレイズ、早く起きる! すぐに探す!」
「着替えの準備をすぐに致しますので、早く探しに行きましょう」
メリー以外のファーマもカーラもアウリースもメラニアの危機を察している様子で、慌てた様子で階段を駆け上がってきている。
俺はメリーの言ったことに驚きを覚え、顔をペロペロしていたハクをどかすと、ベッドから這い出していた。
「一体どういうことだ。メラニアが間男を引きこんだなんてあり得ない話だろ!? しかも、婚約披露をした翌朝だぞ!?
『千切れた赤い糸がメラニア嬢に不運を呼び込んでいるのです。このままだと彼女の命が危ない』
ハクが常々言っていたアクセルリオン神が用意した天啓子が俺から離れると、不幸になるって話がメラニアに適用されているらしい。
「グレイズさん! まずはメラニアを確保してから話を聞きましょう! 今はすぐにでも捜索隊を結成する方が先決よ」
「そ、そうだな。そっちが先決だ。なんでそうなったかは後で聞けばいい。メリーの言う通りだったな。よし、メリーは商店街の人たちで手伝ってくれる人を探して商店街を捜索してくれ。セーラやおっさんずにも手伝ってもらおう」
「おっけい、商店街の捜索は任せておいて、ジェイミーさんにも手伝ってもらうわ」
「あと、冒険者ギルドにも捜索依頼を出して、知り合いの冒険者たちにも探すのを手伝ってもらう。この際、幾らでも金を使ってをでもメラニアを保護しないと。そっちはアウリースやカーラ、ファーマで頼む。歓楽街もくまなく探して欲しい!」
「分かったよー」
「承知」
「承りました。歓楽街の方は依頼を受けてくれた冒険者たちとくまなく探します」
酒に鈍っていた頭を無理矢理に動かして、メラニアを探し出すための指示をみんなに出していく。俺は婚約を破棄したアルガド本人に経緯を尋ねることにした。
「俺はハクを連れて、アルガドに面会を求めて、事情を聴いてくる。そして、彼女の立ち寄りそうな場所もな」
あの生真面目で頑固そうなメラニアが、婚約披露した夜に間男を引き込んでいたなどという話は信用できない。
俺をサポートするための天啓子云々の話は一旦置いておくとして、彼女の身の安全だけは確保しなければという思いが募るばかりであった。
みんなが家から飛び出していくと、俺もすぐに着替えを行い、アルガドの宿泊しているはずの広場の高級宿に急いで向かうことにした。
「一体、どういうことでしょうか? メラニアのことは自分に任せろと仰ったではないですかっ!」
俺はアルガドの宿泊先を訪れて、面会を申し込んでいた。
アルガドは間男を突き殺した際に血で汚れたらしく、湯上りの格好で俺を出迎えていた。
「わたしも我慢しようとは思ったが、よりにもよって婚約披露をしたその夜に他の男と寝ておったのだぞ。男としてこれほどの屈辱はないと思うのだが、グレイズ殿はそうは思わぬということか?」
アルガドは心底、メラニアを思い出したくないようで、憎しみを含んだ視線を俺に向けている。
確かにアルガドの言う通り、メラニアが間男を引き込んでいたのなら、男として彼に同情する余地はある。
だが、メラニアの性格や振る舞いからはどうしても、彼女がそういったずる賢いことをする女性には思えないでいた。
「おっしゃりたいことは同じ男としては分かりますが、それにしても相手の言い分も聞かずに婚約破棄をして、行方不明になったのに捜索願いも出さないというのは、如何なものかと思いますぞ。それで、メラニア嬢が立ち寄りそうな場所に心当たりはありませんか!?」
「グレイズ殿が何ゆえにそこまでメラニアの肩を持たれるのだ? 彼女の力を知るとはいえ、まるで貴方が自分の婚約者を探しているように思える発言だ!」
アルガドがこちらの顔色を窺うような目で睨みつけてきていた。
その眼には婚約者に裏切られたという憎しみが宿っているのか、今まで俺に向けていた温和さを潜め、厳しさを伴った視線に変わっている。
「そのようなことを言っているのではないです。ですが、婚約破棄され失踪した彼女に万が一のことがあれば……。街も貴方もタダでは済まないと思いますが」
「貴殿に心配される謂われはない! その様子ならグレイズ殿が冒険者ギルドへの捜索依頼は出しておるのだろう。メラニアの捜索依頼の承認はしておく。それで良いだろう! わたしはこれ以上あの女に関わりたくないのだ!」
アルガドは、話し合いはここまでと言わんばかりに、話を打ち切り俺に退室するように促していた。
「アルガド様! 彼女の立ち寄りそうな場所だけでも心当たりは――」
「くどい! わたしは知らぬ。これ以上、この場に留まるなら、貴殿を捕えねばならなくなる。潔く去られよ」
アルガドが最後通牒のように立ち去るように求めてきた。
『グレイズ殿、これ以上は時間の無駄かと思います。早く、メラニア嬢を探しましょう』
ハクもこれ以上は無意味だと進言してきたので、俺はアルガドの逗留している宿を後にしていた。
その後、数日の間、冒険者も商店街の人も大動員してブラックミルズの街を捜索したが、メラニアの足跡は全く見つけられず、街にはいないという判断が下った。
山間にあるブラックミルズから、別の街までは女性の足で歩くのには無理があると判断した結果、残るのはダンジョンのみとなっていた。
ダンジョンは自死を選ぶには一番楽な場所だ。自ら手を下さなくても魔物が手を下してくれる場所であるからだ。
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