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第二部 第七章 街の未来
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「グレイズさん、グレイズさん、朝よ、起きて」
朝の光の中で優し気な女性の声がしたかと思うと身体を揺り動かされていた。
昨晩の酒が残っているようで、目覚めつつあるが、世界がグルグルと回っているのを感じている。
「あ、うん。ああ」
「二日酔いになっていると思ったらから、お砂糖と塩、はちみつを溶かしたお水を持って来てるわ。はい、これ飲んでお酒抜いてね」
グルグルと回る世界で、ガンガンと痛みを発する頭に手をやると、飲み物を差し出している女性の姿に焦点を合わせていく。
二日酔いの俺を起こしにきてくれたのはメリーであったようだ。メリーは少し心配そうな顔をして砂糖と塩を溶かした水のコップを差し出している。
これが嫁のいる生活か……。悪くはないもんだな……。一人の時は二日酔い抜けるまでのたうっていたからなぁ。
酒のせいで頭の働きが鈍くなっていたこともあり、メリーのことを嫁であると誤認してしまっていた。
半ば既成事実化しているが、まだ婚姻をしたわけでなく、世間的には同居人であることを失念してしまっていたのだ。
「あ、ああ。ありがとうな。メリー」
「どういたしまして、昨日は楽しめたかしら」
メリーの差し出したコップを受け取り、中身を一気に飲み干していく。甘さとしょっぱさの混じった水分が、アルコールによってカラカラになった身体に染み込んでいくのを感じた。
「ちょっとハメを外し過ぎたな。いい歳したおっさんが無茶をしたらいかんということだ。すまん、もう一杯もらえるか」
「はいはい。たくさん作ってあるからコップかして。グレイズさんは、真面目過ぎるからたまにはお酒でハメを外した方がいいわ。女の子のお酌が必要なら私たちがしてあげるからね。フフフ」
新たに注ぎ終えたコップを手渡してくれたメリーが意味深な笑いを浮かべる。
そんなことをさせたのが、酒場にいた男たちにバレたら、また大量に奢らされてしまう。
「お酌は遠慮しとくよ。逆に俺がメリーたちにお酌をしないといけない方だからな」
「あら、グレイズさんがお酌してくれるの。それは、それで楽しそうな飲み会になりそうね」
「ランクアップの祝勝会なら、俺がお酌係になるぞ」
「そうなの。なら、みんなにも伝えておくわ。きっと、バリバリ魔物を狩ってきちゃうわよ」
メリーは俺がお酌をしてやると言ったら嬉しそうに笑いながら、飲み干して空になったコップを受け取っていた。
みんなの成長は著しいため、探索において俺が手を出すべきことが減りつつあるので、地上にいる時くらいやってあげられることはしてやるつもりでいた。
そんな風にメリーと談笑していたら、階下から声が聞こえてきた。
「メリーさん、グレイズさんー! おばばさんが、おばばさんが倒れたって商店街の人がきてるのー!! 早く来てー!!」
ファーマが慌てたような声で階下から俺たちを呼んでいた。
「おばばが? まさか、昨日までピンシャンしてたはずだが」
「で、でも。歳も歳だし……。ああ、そんなこと言っている暇はないわね。グレイズさん、私が先にいくから着替えたら降りてきてね」
「ああ、すぐいく」
メリーが回収したコップとお盆を持つと、急いで階下に消えていった。
俺もベッドから起きるとまだ少しふらつく身体に鞭を打ち、服を着替えて階下に降りていった。
「ひぇひぇひぇ、皆、騒がしいのぅ。わしがちょっとぎっくり腰になったくらいで、オタオタしおって。イタタタ」
「おばばさん、腰大丈夫ー」
おばばが倒れたと聞いた俺たちは、魔法書店の隣にあるおばばの私邸の寝室にいる。ファーマが心配そうにベッドに横たわるおばばの腰をさすっていた。
「今、回復魔法唱える。おばば、安心しろ」
カーラが回復魔法の詠唱を始めると、患部である腰に淡い緑の燐光が浮かんでいった。
「ひぇひぇひぇ、カーラの回復魔法は効くのぅ。ファーマもさすってくれたから痛みが引いたわい」
「おばばも若くないんだから、無茶をせずに販売はそろそろ人を雇った方がいいんじゃないか。最近は随分と稼いでいるだろう」
ベッドで横になっているおばばとは三〇年近い付き合いがあるので、俺にとっては親よりも長い付き合いのある知り合いだった。
「それも考えておるがのぅ。その前に商店街の会長を引退させてもらいたいものじゃ。最近、ずっと忙しくてのぅ。ついに腰をやってしもたわい」
おばばは商店街の生き字引として、店主たちを纏める商店街連合会の会長職に就任しており、自分の店に加え、うちのダンジョン支店への物資のとりまとめなど各種連絡を店主たちと行っていたのだ。
今回はその無理が祟ってのぎっくり腰発症らしい。
「商店街連合会の会長職か……そろそろ、誰かに譲ったらどうだ。商店街にも人はいるだろ?」
「それも考えておるんじゃがな。この職はボランティアみたいな物でな、皆最近の忙しさもあることはわしも理解しておるから頼み辛いこともある。それに、この会長職は商店街の皆が納得する者が就任しないと揉めるのじゃ。色々と人選は難しいのだぞ」
おばばがベッドで横になりながら、自分の後任が居ないと嘆いている。
確かに商店街連合会会長職は無報酬だし、その割にやることは多い、責任職だ。街の有力者として色々な式典にも呼ばれるし、店同士のトラブルの仲介などもしなければならないという面倒事も増える。
店の忙しい店主たちは嫌がるだろうし、下手な人物を据えると、問題が大発生する難しさを伴ってしまう職であることは、俺も商店街に属していた店に勤めていたおかげで理解していた。
「だが、このままだとおばばの身体がもたんぞ。歳を考えろ」
暗に年寄りだから仕事を控えろとおばばに伝えたら、おばばの眼が鋭さを増していた。
「そうか。そう言ってくれるか。さすが、グレイズじゃな。わしがもっと若い娘ならベッドに押し倒して既成事実を作って婿にしておるんじゃがなぁ。残念。おお、話が逸れたがグレイズ。おぬしがこの商店街連合会の会長職をやるつもりはないかのぅ。このおばばを助けると思って。あいたたた」
「おばばさん、大丈夫? さするー?」
「おばば回復魔法いるか?」
おばばがわざとらしく腰に手を当てて痛みを訴え、弱ったような姿を見せている。明らかに先ほどのカーラの回復魔法で痛みを引いたはずだ。
それに俺が商店街連合会の会長だと、寝ぼけているのか、耄碌してきたのか、それともぎっくり腰で弱気になったのか、どんな理由か知らないが、突飛すぎる申し出あることに違いはなかった。
朝の光の中で優し気な女性の声がしたかと思うと身体を揺り動かされていた。
昨晩の酒が残っているようで、目覚めつつあるが、世界がグルグルと回っているのを感じている。
「あ、うん。ああ」
「二日酔いになっていると思ったらから、お砂糖と塩、はちみつを溶かしたお水を持って来てるわ。はい、これ飲んでお酒抜いてね」
グルグルと回る世界で、ガンガンと痛みを発する頭に手をやると、飲み物を差し出している女性の姿に焦点を合わせていく。
二日酔いの俺を起こしにきてくれたのはメリーであったようだ。メリーは少し心配そうな顔をして砂糖と塩を溶かした水のコップを差し出している。
これが嫁のいる生活か……。悪くはないもんだな……。一人の時は二日酔い抜けるまでのたうっていたからなぁ。
酒のせいで頭の働きが鈍くなっていたこともあり、メリーのことを嫁であると誤認してしまっていた。
半ば既成事実化しているが、まだ婚姻をしたわけでなく、世間的には同居人であることを失念してしまっていたのだ。
「あ、ああ。ありがとうな。メリー」
「どういたしまして、昨日は楽しめたかしら」
メリーの差し出したコップを受け取り、中身を一気に飲み干していく。甘さとしょっぱさの混じった水分が、アルコールによってカラカラになった身体に染み込んでいくのを感じた。
「ちょっとハメを外し過ぎたな。いい歳したおっさんが無茶をしたらいかんということだ。すまん、もう一杯もらえるか」
「はいはい。たくさん作ってあるからコップかして。グレイズさんは、真面目過ぎるからたまにはお酒でハメを外した方がいいわ。女の子のお酌が必要なら私たちがしてあげるからね。フフフ」
新たに注ぎ終えたコップを手渡してくれたメリーが意味深な笑いを浮かべる。
そんなことをさせたのが、酒場にいた男たちにバレたら、また大量に奢らされてしまう。
「お酌は遠慮しとくよ。逆に俺がメリーたちにお酌をしないといけない方だからな」
「あら、グレイズさんがお酌してくれるの。それは、それで楽しそうな飲み会になりそうね」
「ランクアップの祝勝会なら、俺がお酌係になるぞ」
「そうなの。なら、みんなにも伝えておくわ。きっと、バリバリ魔物を狩ってきちゃうわよ」
メリーは俺がお酌をしてやると言ったら嬉しそうに笑いながら、飲み干して空になったコップを受け取っていた。
みんなの成長は著しいため、探索において俺が手を出すべきことが減りつつあるので、地上にいる時くらいやってあげられることはしてやるつもりでいた。
そんな風にメリーと談笑していたら、階下から声が聞こえてきた。
「メリーさん、グレイズさんー! おばばさんが、おばばさんが倒れたって商店街の人がきてるのー!! 早く来てー!!」
ファーマが慌てたような声で階下から俺たちを呼んでいた。
「おばばが? まさか、昨日までピンシャンしてたはずだが」
「で、でも。歳も歳だし……。ああ、そんなこと言っている暇はないわね。グレイズさん、私が先にいくから着替えたら降りてきてね」
「ああ、すぐいく」
メリーが回収したコップとお盆を持つと、急いで階下に消えていった。
俺もベッドから起きるとまだ少しふらつく身体に鞭を打ち、服を着替えて階下に降りていった。
「ひぇひぇひぇ、皆、騒がしいのぅ。わしがちょっとぎっくり腰になったくらいで、オタオタしおって。イタタタ」
「おばばさん、腰大丈夫ー」
おばばが倒れたと聞いた俺たちは、魔法書店の隣にあるおばばの私邸の寝室にいる。ファーマが心配そうにベッドに横たわるおばばの腰をさすっていた。
「今、回復魔法唱える。おばば、安心しろ」
カーラが回復魔法の詠唱を始めると、患部である腰に淡い緑の燐光が浮かんでいった。
「ひぇひぇひぇ、カーラの回復魔法は効くのぅ。ファーマもさすってくれたから痛みが引いたわい」
「おばばも若くないんだから、無茶をせずに販売はそろそろ人を雇った方がいいんじゃないか。最近は随分と稼いでいるだろう」
ベッドで横になっているおばばとは三〇年近い付き合いがあるので、俺にとっては親よりも長い付き合いのある知り合いだった。
「それも考えておるがのぅ。その前に商店街の会長を引退させてもらいたいものじゃ。最近、ずっと忙しくてのぅ。ついに腰をやってしもたわい」
おばばは商店街の生き字引として、店主たちを纏める商店街連合会の会長職に就任しており、自分の店に加え、うちのダンジョン支店への物資のとりまとめなど各種連絡を店主たちと行っていたのだ。
今回はその無理が祟ってのぎっくり腰発症らしい。
「商店街連合会の会長職か……そろそろ、誰かに譲ったらどうだ。商店街にも人はいるだろ?」
「それも考えておるんじゃがな。この職はボランティアみたいな物でな、皆最近の忙しさもあることはわしも理解しておるから頼み辛いこともある。それに、この会長職は商店街の皆が納得する者が就任しないと揉めるのじゃ。色々と人選は難しいのだぞ」
おばばがベッドで横になりながら、自分の後任が居ないと嘆いている。
確かに商店街連合会会長職は無報酬だし、その割にやることは多い、責任職だ。街の有力者として色々な式典にも呼ばれるし、店同士のトラブルの仲介などもしなければならないという面倒事も増える。
店の忙しい店主たちは嫌がるだろうし、下手な人物を据えると、問題が大発生する難しさを伴ってしまう職であることは、俺も商店街に属していた店に勤めていたおかげで理解していた。
「だが、このままだとおばばの身体がもたんぞ。歳を考えろ」
暗に年寄りだから仕事を控えろとおばばに伝えたら、おばばの眼が鋭さを増していた。
「そうか。そう言ってくれるか。さすが、グレイズじゃな。わしがもっと若い娘ならベッドに押し倒して既成事実を作って婿にしておるんじゃがなぁ。残念。おお、話が逸れたがグレイズ。おぬしがこの商店街連合会の会長職をやるつもりはないかのぅ。このおばばを助けると思って。あいたたた」
「おばばさん、大丈夫? さするー?」
「おばば回復魔法いるか?」
おばばがわざとらしく腰に手を当てて痛みを訴え、弱ったような姿を見せている。明らかに先ほどのカーラの回復魔法で痛みを引いたはずだ。
それに俺が商店街連合会の会長だと、寝ぼけているのか、耄碌してきたのか、それともぎっくり腰で弱気になったのか、どんな理由か知らないが、突飛すぎる申し出あることに違いはなかった。
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