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第二部 第五章 成長と暗雲
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しおりを挟むペチペチと頬を叩かれる感触が、俺の意識を覚醒させていく。
ぼんやりと目に映ったのは切れ長の紅眼であった。
「グレイズ君、起きなさい。起きて」
「起きてますよ。お久しぶりですアクセルリオン神様」
幼女女神は俺が起きたことに気が付くと、頬を叩くのをやめてニコリと微笑む。
その顔は幼女らしからぬ妖艶な色気を含んだ笑顔だったが、生憎と俺には通用しないようだ。
「相変わらず、つれない態度ね。せっかく、美女を五人も付けてあげたのにだれ一人手を付けないなんてねぇー。真面目かっ!って突っ込みたくなるわ」
肩を竦めていたアクセルリオン神の後ろからハクも現れていた。
「そうですよ。散々、あたしがお節介焼いても、『俺は~』とか、『ちげーし』とか言って誤魔化してくるんです。本当はみんな好きなのにねぇ」
「あら、そうなの。世界を滅ぼす暴走をしないように好みの子を集めたんだけど。お気に召さなかったかしら。あ、そうだ! それならハクの姿を人にしてあげるわ。それなら気に入るでしょ。いつもあれだけベタベタしているんだから」
「え? え? そんな話聞いてませんよっ! アクセルリオン神様ぁ! え? え?」
アクセルリオン神がハクの頭に手を置いたかと思うと、光が包み込んでいき、狼の姿だったハクの体が人型に変化していく。
やがて光が収まると、そこには白髪の獣耳とフサフサの白い尻尾を持つ、金色の眼をした年若いしなやかな身体つきをした女性が現れていた。
「ひゃああっ! アクセルリオン神様ぁ! この姿は無しって言ったじゃないですかぁ!」
「そう? そのうち神様になるグレイズ君の筆頭従属神となるんだから本体も見せてあげないと。ホラ、隠さないで」
幼女によって、体を覆っていたハクの手がどけられていく。
全裸なのかと一瞬身構えてしまったが、薄い布が体毛のように体に纏わりついていてホッと安堵していた。
「グレイズ殿、見てはいけませんよ。あたしの本体。らめぇえ。アクセルリオン神様ぁ」
「あ、ああ。元の姿の方がいいな。アクセルリオン神様、戻してやってくれ」
「えー、天なる国でもハクの本体の人気は高いのよ。散々譲ってほしいという神様たちからのラブコールを蹴ってまで、グレイズ君にあげたんだから、大事にしてよね。そうしないと、掛け金をせしめられないじゃないの」
ハクを元に戻してほしいとアクセルリオン神に伝えると、腰に手を当ててプンスカと怒り出したが、なんとなくこのアクセルリオン神も例の賭け事に加わっている気がしてならない。
気になったので、とりあえずカマを掛けてみることにした。
「実は今度セーラって子が加わることになって、おばばが倍率を変えるって……」
「えっーーー!! そんな話、神殿長から聞いてないわ! 嘘でしょ。早急に神様たちに伝え――」
「ア、アクセルリオン神様ぁ! バ、バレますからぁ」
ハクが慌てて幼女女神の口を塞ごうとしていたが、時すでに遅し、俺は幼女女神の関与を確信していた。
「アクセルリオン神様……貴方まで参加しているんですか……」
「ち、違うわよ。神様が賭け事なんてす、す、するわけないでしょ」
「……本当ですか?」
ジッと目を見つめると、アクセルリオン神の目がそっと視線を逸らしていく。
完全に参加しているようだ。この世界、本当に大丈夫だろうか。神様が賭け事に参加してて……。
バレたと悟った幼女女神が唇を尖らせて反論してきた。
「神様だって息抜きしたいのよっ! わがまま上司からの無茶振りとか、同僚からのやっかみとかストレスがたまるんだからねー。いいじゃない、グレイズ君の正妻レースに参加するのくらい可愛い物でしょう。それともストレス解消に極大魔法を下界に打ち込んでいいの!」
なんか知らんが逆ギレされてしまったようだ。それにしても、ストレスから下界に向かって極大魔法とかって危なすぎだろう。
確か、世界の創造で力を使い果たして今の格好になったと聞いているが……。
俺は腰に手を当ててプンスカしている幼女女神の頭をそっと撫でて宥めることにした。
「あー、はいはい。ストレスで地上に攻撃魔法を落とされたらかなわないから怒りはしないですけどね。自重はしてください。自重は」
頭をなでてやると、幼女女神は途端に機嫌を直したのか、ニコリと微笑み始めた。
「ハク、一点掛けなのでよろしくね。ほら、さっきの美女ケモノっ子がグレイズ君の物になるのよ。モフモフし放題なんだからね」
「ア、アクセルリオン神様ぁ! アレは駄目です。あたし恥ずかしいからぁ」
確かにハクをモフモフはしたいが、本体のままでは色々と支障をきたすと思うので丁重にお断りしておかねばならん。
「ゲフン、ゲフン。まぁ、ハクのことはそのままでお願いするとして、今日の呼び出しは何の用でしたか?」
話が危ない方に流れていきそうだったので、無理矢理に本題にと戻すことにした。
「え!? 今日の呼び出しの理由? うーんと、うーんと……よく頑張りました。これからも頑張りましょうって言いたかっただけよ」
幼女女神が精いっぱい背伸びして俺の頭を撫でようとしていたが、届かないようで、ハクが台座となって下にもぐりようやく俺の頭に手が届いていた。
「え? 本当にそれだけなんですか?」
「うん、それだけ。グレイズ君、有能だもん。天啓子の四人ももうハクと喋れるレベルまで成長しているしね。それに暴走の気配も全く見られないし。今までの神様候補で順調に行っているわよ」
ハクの上に立ったアクセルリオン神は腕組みをしてウンウンとうなづいている。
本当に今日の呼び出しは顔が見たかっただけのようだ。多分、退屈だから呼んだというのが正解のような気がする。
「何か重大なことが起きたのかと思いましたよ」
「重大なことはグレイズ君が結婚しないことね。これは重大事だわ。セーラちゃんだっけ。あの子もあとでグレイズ君の運命の輪に紐付けしておくからね」
「え? 運命の輪って何ですかそれ」
「下界で言うところの『運命の赤い糸』ってやつよ。紐付けした人と結ばれると幸せになる確率が上がるようになっているし、紐付けが千切れると不幸なことが連続するようになるの。グレイズ君の激運からの反動だから、千切れた子は相当悲惨な目に合うと思うわ。ちなみにメリー、ファーマ、カーラ、アウリース、アルマ、ハクはもう紐付け済みね。そこにセーラも加わるからよろしく」
気軽な感じでアクセルリオン神は言っているが、これはハクが言っていた俺から離れるとみんなが不幸になるって話のことだよな。
セーラも十分に不幸な生い立ちで育っているのに、俺の運命に紐付けされるとかって可哀想すぎるだろう。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それじゃあ、みんなが不幸になっちまう」
「え? グレイズ君は神様になる予定だから、バンバン紐付けするつもりだけど。何か?」
「困りますよ。ただでさえ、商店街の連中から、からかわれているんで、これ以上は……」
「神様になる男なら、女の子の二〇〇人くらい面倒みる甲斐性を見せなさい」
「んな、無茶な」
幼女女神が無茶ぶりをしてきていた。二〇〇人も面倒見られる自信など欠片も持ち合わせていない。
「神様候補生なんだから、デンとしてればいいのよ。デンと。とりあえず、セーラちゃんは紐付け終わったからよろしくね。それと、ハク一点賭けということを忘れないように! 今日の呼び出しは以上で終わり。またね」
戸惑う俺の額に幼女女神が手を触れた方と思うと辺りが真っ白に染まっていった。
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