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第二部 第二章 おっさんずパーティー

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「おい! 敵が連携しているぞ! 一体どうしたことだ! こいつらお互いに戦っていただろう!」

「リッキー! 前を見て! 蜥蜴人リザードマンが距離を詰めて来ているわ!」

「お、おう。ふぐうっ!!」

「リッキィー!! ローガン! 回復魔法を! あたしが前に出る!」

 争っていた魔物集団にちょっかいを出したパーティーの風向きは一気に悪くなっていた。

 前線で蜥蜴人リザードマンと斬り結んでいた戦士の男が、後方にいた魚人マーマンの投げた三叉槍を腹部に受けて、倒れ込んでしまっていた。

 小柄な女戦士が身の丈以上の戦斧を持って、蜥蜴人リザードマンに挑みかかっていた。

 このままでは危ないと判断した俺は、皆に前方のパーティーを支援することを決めると、視線で合図を送っていた。

「ここは、援護する! 一旦、下がるぞ!」

 俺たちのパーティーが援護に入ると、魚人マーマンたちの三叉槍による投擲の狙いは、こちらに向いた。

「だが、セーラが前でまだ戦っているから下がるわけには……」

 腹部に三叉槍を受けた戦士の男が、回復術士のから血止めの魔法を受けながら呻く。

 よもやとは思ったが、魚人マーマン蜥蜴人リザードマンの争いに手を出したパーティーはグレイの娘セーラが所属するパーティーであったようだ。

 同名の別人の可能性があるので、男にその女性の容姿を確認してみる。

「そのセーラって子は、二〇代のドワーフの女性で、肩まであるストレートヘアをして、目元に黒子のある子だろうか?」

「ああ、そうだ。おっさん、詳しいな。セーラの知り合いか? ごふぅ、ごふぅ」

 リッキーと呼ばれた男が、先程乱戦に踊り込んでいった女性がセーラであると教えてくれていた。

「リッキー喋るな。傷が開く。あんたたちの援護を感謝する。だが、今しばらくだけ時間をくれ! こいつの傷だけは塞がないと」

 回復術士の男が、リッキーの傷を塞ぐ時間が欲しいと伝えてきていた。

 魚人マーマン蜥蜴人リザードマンを併せた集団の数は多数にのぼり、ファーマやハク、メリーたちが攪乱しているため、なんとかなっているが、数で押されれば乱戦になり危ない可能性もある。なので、あまり時間はかけたくなかった。

 だが、無理に動かすことは傷を負った男の命にかかわり兼ねない。

「分かった。動かせるようになったら、教えてくれ! それまでは頑張ってみせる」

「ああ、すまん。手間をかける。フィーユ、お前も援護してやれ」

「おう、援護に回る」

 弓を構えていた探索者風の男が、乱戦になりつつある前方の戦場に入っていった。

 俺も小石を拾い、アウリースやカーラを引き連れ、乱戦になりつつある戦場へ向かうことにした。


 すでに魔物との戦闘は乱戦に陥っており、ファーマやハクは、セーラと思われる女戦士と蜥蜴人リザードマンの集団と近接戦闘に入っていた。

 魚人マーマンの三叉槍がファーマたちを狙っているため、手の中の小石を指で弾いて、やつらの動きを止めることにした。

魚人マーマンから狙われているぞ! 足を止めるな! アウリース、水辺の魚人マーマンを牽制してくれ」

「心得ました!」

 アウリースの杖先が煌くと、スッと冷たい空気が頬先を掠め、冷気を帯びた霧が水辺に陣取る魚人マーマンたちに向かって飛んでいった。

 霧氷ライムの魔法が湖面に触れると、周囲が一気に凍り付き、巻き込まれた魚人マーマン数体が身動きを取れなくなる。

 仲間を氷漬けにされた魚人マーマンたちは、投擲の目標を俺たちの方に変更したようだ。

「目標がこっちに変わったぞ! アウリース、カーラ、俺の後ろに! それにフィーユとか言ったな。お前も俺の後ろに入って、敵の攻撃をよく見切れよ!」

「お、おう」

 薄暗い戦闘場所であったため、俺の背後に隠れたアウリースが魔法の光を打ち上げる。

 辺りは明るく照らし出されたが、それと同時に敵の数もおぼろげに把握できるようになった。

 ざっと見で五〇体近くか……。こいつは、あんまり長く居座ると、新たな怪我人が出そうだぞ。

 メンバーが規格外の能力を持つ『天啓子』とはいえ、多数の敵に囲まれた乱戦であれば、万が一の場合もある。傷を負った男が動けるようになったら、早々に退散した方がよさそうである。

 ダンジョンで欲張れば、持っていかれるのは自分の命になりかねない。一流を目指す冒険者とは、時には、損を承知で引く勇気も持つ必要になってくるのだ。

 一方、明るくなったことでファーマやメリー、ハクたちの戦闘がよく見えるようになった。

 十数体の蜥蜴人リザードマン相手に、固いメリーが大盾で攻撃をいなしつつ、ファーマ、ハク、そしてセーラと思われる女戦士がサイドを守りつつ斬り結んでいるのが見える。

 今しばらくくらいだったら耐えられそうか。だが、長くなれば疲労が重なる。そうなったら危ない。

 そんなことを思い、視線をメリーたちの方に向けていたら、風切り音が聞こえてきた。

「グレイズ、危な――くは無かった」

 視界外から俺の頭をめがけて飛んできた魚人マーマンの三叉槍であったが、ちゃんと指の間に挟んで止めていた。

 これくらいなら、腕輪を外さずとも朝飯前である。

「あ、あんた。すげえな……。見てなかったのに……」

「なんとなくだ。なんとなく。ちょうど、上手く指の間に挟まっただけさ」

 驚くフィーユを誤魔化しつつ、適当に三叉槍を投げ捨てるフリをして、ぶん投げると、一体をくし刺しにして葬る。

「おっと、まぐれで当たっちまったようだ。今日はツイてるぞ」

 魚人マーマンたちの敵意がこちらに向くと、一斉に俺に向けて三叉槍をぶん投げてくるのが見えた。

「遅い」

 手にした小石で次々と三叉槍が到達するのを迎撃していく。

 見えない壁に打ち返されたように、すべての三叉槍が俺の前で軌道を逸れてはじき返されていた。

「おい、おっさん。ほんとに何者だよ」

 隣で魚人マーマンを弓で狙撃していたフィーユが眼を丸くして、こちらを見ている。

「まぐれだ。まぐれ。今日は運が良すぎるな。こりゃあ、明日は潜らない方がいいかもしれんな。そんなことより、敵から目を逸らさない方がいいぞ」

 フィーユに目がけて飛んだ三叉槍を刺さる寸前で、俺が受け止める。

「ひぃい! すまねえ。助かったぜ」

「油断大敵だ」

 その時、後方で治療をしていた回復術士から治療が終わって動かせるようになったと声が掛かった。
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