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第二部 第二章 おっさんずパーティー
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魚人たちの集落にて、襲われていた冒険者たちを助けるべく、俺たちはそれぞれに割り振った仕事を開始していく。
まず、ファーマとハクが持ち前の素早さを生かして、地上で戦っていた冒険者たちを包囲しかかっていた魚人たちを牽制して、包囲を解いていくと、遅れて到着したメリーが傷を負っていた冒険者たちに応急処置の魔法を掛けていくのが見えた。
これで、ひとまずあちら側が劣勢に陥る可能性は無くなったため、俺はアウリースを伴い、急いで水中に落ちている冒険者の方へ駆け寄っていった。
「おい! 大丈夫か! 助けにきたぞ! こっちの手を掴め!」
魚人に水中に引き摺り込まれそうになっている冒険者には、水中呼吸をすでに掛けてあるため溺れる心配はないが、水中は魚人に有利過ぎる戦闘領域のため、すぐにでも地上に上がった方が良いのだ。
「グレイズさん、顔を出している魚人を狙って援護します」
すでに魔法の詠唱を終えていたアウリースが、水面に顔を出した魚人を狙い、杖先から氷の弾丸を多数吐き出していく。
アウリースの放った氷の弾丸に貫かれた魚人は一瞬で凍りつき、動かなくなって水面から姿を消していた。
「すまねぇ。助かる」
水中に引き込まれていた冒険者を引き上げるのに成功すると、水中にいた魚人たちが一斉に地上にと飛び出してくる。その数、五体。
俺にとっては、さして強敵でもないが、他の冒険者がいる手前、全力戦闘を見せるわけにはいかない。
だが、魚人たちはジリジリとこちらへ向けてにじり寄ってきていた。
「あんた、武器はあるのかい?」
水中から上がった冒険者が武器を構えないため、武器を失くしたと思い声を掛けてみた。
「ああ、さっきのどさくさまぎれに水中に落としちまったから、丸腰だぜ。だが、安心しろ魚人くらいなら素手で殺れる。地上ならこいつら程度にやられはせんよ」
筋骨たくましい身体付きで髭面の同年代と思われる男が、凶悪な笑みを浮かべていた。その笑みは溺れかけさせられた恨みを晴らすための復讐心よって少しばかり歪んでいる気がしないでもなかった。
「そうか、だったらうちは支援だけにさせてもらうぞ。そうだ、名乗るのを忘れてたな。俺はグレイズ。追放者のパーティーリーダーを務めてる。それで、あんた、名前は?」
「『商人』グレイズに助けられるたぁ。オレもいよいよ引退を視野に。歳は取りたくねぇな。ああ、名前だったな。オレはグレイだ。しがない中堅冒険者だがな。後、助けてもらったあっちの二人はデイビスとモローっていうんだ。本来のパーティー名は『トレジャーズ』ってんだが、口の悪い若い奴らは『おっさんず』とか言いやがる」
『おっさんず』のグレイという名には、聞き覚えがあった。冒険者歴二〇年以上の超が付くほどのベテラン冒険者であった。
ランクこそ、中堅止まりのBランクであるが、経験、実績はブラックミルズでも噂に昇ることがある。
戦士、戦士、探索者って三人パーティー編成をしていて、回復役なしでCランクまで到達した苦労人たちであった。
普通、このクラスなら回復役をスカウトするはずだが、『おっさんず』は確か――。
「きゃああああっ!! グレイズさん! 私が回復魔法を掛けたら、この人急に倒れちゃったわ!! どうしよう! まさか、失敗したのかしら!」
「あっちゃあ! すまねぇ。うちのモローがあんたの仲間に手間を掛けさせているようだ。すまんがうちは全員回復魔法アレルギーでな。命に係わることはないが、意識を失うんだわ。すまんが回復ポーションで頼む」
メリーが発動させた応急処置を受けた戦士風の男が、ばったりと地面に昏倒して倒れていた。
そうだ。回復魔法を受け付けない体質の者が集まった『おっさんず』として有名だったのを今思い出した。
Sランクに匹敵する実力を持ちながらも、彼らがCランクにとどまっているのは、回復をポーション頼みにしているという一点だけであった。ポーションがぶ飲みの探索行は資金効率も回復役がいるパーティーに比べて悪く、稼ぎがポーション代に消え、装備の更新も滞り、停滞するといった中堅冒険者の行き詰まりを現わしているパーティーでもある。
「メリー、カーラ、この人たちは回復魔法アレルギー持ちだ。ポーションで回復してやってくれ!!」
「え!? そうなの!! 回復魔法アレルギーの人って実在したんだ。分かった、ポーションで回復させるわ」
メリーが倒れたモローにポーションを飲ませていく。だが、メリーよ。意識を失った者にポーションを飲ませるのは如何なものかと思うぞ。
「むげらはっ! げはっ! げはっ! ごはっ! こ、殺されるかと思ったぜ」
「きゃあああぁあ!」
予想通り、ポーションによって咽たスキンヘッドの戦士モローが、口から噴き出していたのが見えた。
そんな、ドタバタを繰り広げている間にも、ファーマとハクと『おっさんず』の探索者デイビスは、見事に連携を決めて魚人たちを屠っていた。
「わふぅううう! (この男、なかなかにやり手)」
「おじさん、すごーい」
「お嬢ちゃんとワンコも中々やるな。お前らはきっとSランクまで到達できると思うぞ。わしの冒険者の目利きはわりと確かだからな」
白髪の混じった灰色の髪を撫でつけている痩せぎすの男デイビスは、牽制をしてくれたファーマとハクの動きを褒めていたが、彼の人物鑑定は冒険者間でもわりと当たるとして有名であった。
「ファーマはSランク冒険者になってグレイズさんに褒めてもらうんだー」
「お嬢ちゃんなら近いうちにでもSランクになれるさ。ワンコとのコンビはトップクラスでもあんまり見たことがないスピードだしな。わしが眼で追えなかったのは初めてだ」
デイビスはファーマたちの実力を正確に見抜いているようで、手放しで二人を褒めていた。
彼は俺のパーティーのメンバーが稀人である『天啓子』であることを知らないが、その動きから実力の高さを感じとっているようだ。
「色々と迷惑を掛けちまってるようだな。すまんな。この借りはすぐに返す。その前に、オレ等を罠にはめた魚人に報いを与えなければな」
仲間たちの様子を見ていたグレイが、握りこぶしを固めると、攻撃を戸惑っていた魚人に向けて、駆け出していく。
近寄ってきたグレイに魚人たちは反応を示すと、三叉槍のような得物を振り回し始めた。
「グレイ、無茶するな。こちらも援護する」
「心配無用! 伊達に長く冒険者を続けて来てないさ」
「グレイさん、私が魔法で援護を!」
アウリースが杖を構えて、援護に入ろうとしていたので、俺も近くの小石を拾い、指弾を放つ準備を終える。
だが、その準備はグレイの見せた動きで無駄になったことが判明した。
彼は魚人たちの攻撃を正確に捌くと、カウンターを使い拳で弱点である顎先を打ち抜いており、ワンパンで気絶を奪って魚人をのしていたのだ。
回復アレルギーさえなければSランク冒険者と言われた『おっさんず』たちのリーダーとして、申し分ないほどの経験を蓄積させた戦い方を見せてくれている。
見切る、躱す、的確に反撃するという動作を無駄なく行っており、中堅なりたてには厳しいと言われる魚人たちに囲まれても慌てることなく戦っていた。
「スゴイですね。あの体捌き。グレイズさんは比較にならないけど、あの方のは、私たちにも取り入れられる身のこなし方ですね」
「ああ、さすがは冒険者を二〇年続けてきているだけのことはあるな。無駄が一切ない動きをしている。俺なんかよりも体の使い方は上手いからな。学ぶべきことは多い」
あっという間に五体の魚人を沈めたグレイが、奪った三叉槍でトドメを刺し、こちらに戻って来ていた。
「ざっと、こんなもんよ。人探しの探索じゃなきゃ、不覚はとらなかったんだがな。『商人』グレイズ、手間を掛けさせたようだが、助けてくれてありがとうな」
グレイが握手を求めてきていた。
中堅どころは下手に助けると揉め事に発展する場合もあるが、グレイは助けてもらったことを嫌がった様子はなく、素直に感謝を示してくれていた。
「いや、こっちこそ。回復アレルギーの件はすまなかった。モロー殿にはうちが販売してる最高級回復ポーションを進呈させてもらうよ」
「そういや、グレイズたちは、ダンジョンで店を開いてたな。なら、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
俺たちがダンジョンで店を広げていることを思い出したようで、その際、顔付きがそれまでとは一変していた。
まず、ファーマとハクが持ち前の素早さを生かして、地上で戦っていた冒険者たちを包囲しかかっていた魚人たちを牽制して、包囲を解いていくと、遅れて到着したメリーが傷を負っていた冒険者たちに応急処置の魔法を掛けていくのが見えた。
これで、ひとまずあちら側が劣勢に陥る可能性は無くなったため、俺はアウリースを伴い、急いで水中に落ちている冒険者の方へ駆け寄っていった。
「おい! 大丈夫か! 助けにきたぞ! こっちの手を掴め!」
魚人に水中に引き摺り込まれそうになっている冒険者には、水中呼吸をすでに掛けてあるため溺れる心配はないが、水中は魚人に有利過ぎる戦闘領域のため、すぐにでも地上に上がった方が良いのだ。
「グレイズさん、顔を出している魚人を狙って援護します」
すでに魔法の詠唱を終えていたアウリースが、水面に顔を出した魚人を狙い、杖先から氷の弾丸を多数吐き出していく。
アウリースの放った氷の弾丸に貫かれた魚人は一瞬で凍りつき、動かなくなって水面から姿を消していた。
「すまねぇ。助かる」
水中に引き込まれていた冒険者を引き上げるのに成功すると、水中にいた魚人たちが一斉に地上にと飛び出してくる。その数、五体。
俺にとっては、さして強敵でもないが、他の冒険者がいる手前、全力戦闘を見せるわけにはいかない。
だが、魚人たちはジリジリとこちらへ向けてにじり寄ってきていた。
「あんた、武器はあるのかい?」
水中から上がった冒険者が武器を構えないため、武器を失くしたと思い声を掛けてみた。
「ああ、さっきのどさくさまぎれに水中に落としちまったから、丸腰だぜ。だが、安心しろ魚人くらいなら素手で殺れる。地上ならこいつら程度にやられはせんよ」
筋骨たくましい身体付きで髭面の同年代と思われる男が、凶悪な笑みを浮かべていた。その笑みは溺れかけさせられた恨みを晴らすための復讐心よって少しばかり歪んでいる気がしないでもなかった。
「そうか、だったらうちは支援だけにさせてもらうぞ。そうだ、名乗るのを忘れてたな。俺はグレイズ。追放者のパーティーリーダーを務めてる。それで、あんた、名前は?」
「『商人』グレイズに助けられるたぁ。オレもいよいよ引退を視野に。歳は取りたくねぇな。ああ、名前だったな。オレはグレイだ。しがない中堅冒険者だがな。後、助けてもらったあっちの二人はデイビスとモローっていうんだ。本来のパーティー名は『トレジャーズ』ってんだが、口の悪い若い奴らは『おっさんず』とか言いやがる」
『おっさんず』のグレイという名には、聞き覚えがあった。冒険者歴二〇年以上の超が付くほどのベテラン冒険者であった。
ランクこそ、中堅止まりのBランクであるが、経験、実績はブラックミルズでも噂に昇ることがある。
戦士、戦士、探索者って三人パーティー編成をしていて、回復役なしでCランクまで到達した苦労人たちであった。
普通、このクラスなら回復役をスカウトするはずだが、『おっさんず』は確か――。
「きゃああああっ!! グレイズさん! 私が回復魔法を掛けたら、この人急に倒れちゃったわ!! どうしよう! まさか、失敗したのかしら!」
「あっちゃあ! すまねぇ。うちのモローがあんたの仲間に手間を掛けさせているようだ。すまんがうちは全員回復魔法アレルギーでな。命に係わることはないが、意識を失うんだわ。すまんが回復ポーションで頼む」
メリーが発動させた応急処置を受けた戦士風の男が、ばったりと地面に昏倒して倒れていた。
そうだ。回復魔法を受け付けない体質の者が集まった『おっさんず』として有名だったのを今思い出した。
Sランクに匹敵する実力を持ちながらも、彼らがCランクにとどまっているのは、回復をポーション頼みにしているという一点だけであった。ポーションがぶ飲みの探索行は資金効率も回復役がいるパーティーに比べて悪く、稼ぎがポーション代に消え、装備の更新も滞り、停滞するといった中堅冒険者の行き詰まりを現わしているパーティーでもある。
「メリー、カーラ、この人たちは回復魔法アレルギー持ちだ。ポーションで回復してやってくれ!!」
「え!? そうなの!! 回復魔法アレルギーの人って実在したんだ。分かった、ポーションで回復させるわ」
メリーが倒れたモローにポーションを飲ませていく。だが、メリーよ。意識を失った者にポーションを飲ませるのは如何なものかと思うぞ。
「むげらはっ! げはっ! げはっ! ごはっ! こ、殺されるかと思ったぜ」
「きゃあああぁあ!」
予想通り、ポーションによって咽たスキンヘッドの戦士モローが、口から噴き出していたのが見えた。
そんな、ドタバタを繰り広げている間にも、ファーマとハクと『おっさんず』の探索者デイビスは、見事に連携を決めて魚人たちを屠っていた。
「わふぅううう! (この男、なかなかにやり手)」
「おじさん、すごーい」
「お嬢ちゃんとワンコも中々やるな。お前らはきっとSランクまで到達できると思うぞ。わしの冒険者の目利きはわりと確かだからな」
白髪の混じった灰色の髪を撫でつけている痩せぎすの男デイビスは、牽制をしてくれたファーマとハクの動きを褒めていたが、彼の人物鑑定は冒険者間でもわりと当たるとして有名であった。
「ファーマはSランク冒険者になってグレイズさんに褒めてもらうんだー」
「お嬢ちゃんなら近いうちにでもSランクになれるさ。ワンコとのコンビはトップクラスでもあんまり見たことがないスピードだしな。わしが眼で追えなかったのは初めてだ」
デイビスはファーマたちの実力を正確に見抜いているようで、手放しで二人を褒めていた。
彼は俺のパーティーのメンバーが稀人である『天啓子』であることを知らないが、その動きから実力の高さを感じとっているようだ。
「色々と迷惑を掛けちまってるようだな。すまんな。この借りはすぐに返す。その前に、オレ等を罠にはめた魚人に報いを与えなければな」
仲間たちの様子を見ていたグレイが、握りこぶしを固めると、攻撃を戸惑っていた魚人に向けて、駆け出していく。
近寄ってきたグレイに魚人たちは反応を示すと、三叉槍のような得物を振り回し始めた。
「グレイ、無茶するな。こちらも援護する」
「心配無用! 伊達に長く冒険者を続けて来てないさ」
「グレイさん、私が魔法で援護を!」
アウリースが杖を構えて、援護に入ろうとしていたので、俺も近くの小石を拾い、指弾を放つ準備を終える。
だが、その準備はグレイの見せた動きで無駄になったことが判明した。
彼は魚人たちの攻撃を正確に捌くと、カウンターを使い拳で弱点である顎先を打ち抜いており、ワンパンで気絶を奪って魚人をのしていたのだ。
回復アレルギーさえなければSランク冒険者と言われた『おっさんず』たちのリーダーとして、申し分ないほどの経験を蓄積させた戦い方を見せてくれている。
見切る、躱す、的確に反撃するという動作を無駄なく行っており、中堅なりたてには厳しいと言われる魚人たちに囲まれても慌てることなく戦っていた。
「スゴイですね。あの体捌き。グレイズさんは比較にならないけど、あの方のは、私たちにも取り入れられる身のこなし方ですね」
「ああ、さすがは冒険者を二〇年続けてきているだけのことはあるな。無駄が一切ない動きをしている。俺なんかよりも体の使い方は上手いからな。学ぶべきことは多い」
あっという間に五体の魚人を沈めたグレイが、奪った三叉槍でトドメを刺し、こちらに戻って来ていた。
「ざっと、こんなもんよ。人探しの探索じゃなきゃ、不覚はとらなかったんだがな。『商人』グレイズ、手間を掛けさせたようだが、助けてくれてありがとうな」
グレイが握手を求めてきていた。
中堅どころは下手に助けると揉め事に発展する場合もあるが、グレイは助けてもらったことを嫌がった様子はなく、素直に感謝を示してくれていた。
「いや、こっちこそ。回復アレルギーの件はすまなかった。モロー殿にはうちが販売してる最高級回復ポーションを進呈させてもらうよ」
「そういや、グレイズたちは、ダンジョンで店を開いてたな。なら、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
俺たちがダンジョンで店を広げていることを思い出したようで、その際、顔付きがそれまでとは一変していた。
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