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第二十九話 機士学校への入学式

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 日々の日課の鍛錬をこなしつつ、慌ただしくルカの荷物の荷ほどきをして、数日を過ごすと入学式の期日がやってきた。


 今は機士学校の駐機場に到着し、整備科の生徒へ機体の引き渡しを待っているところだ。


 持ち込んだザガルバンドは、王都でドワイド家が懇意にしている霊機工房から派遣された塗装職人によって、金色に染め上げられ、日の光を反射してキラキラと輝いている。


 派手だ。思ってた三倍くらい派手な機体だ。周囲の視線が俺に突き刺さってくるんだが……。


 機士学校には、寮で暮らしている生徒もいれば、通ってくる生徒もいる。それらの上級生が新しく入学してくる生徒たちの様子を見るために外に出てきていた。


 そんな上級生たちの視線を俺が一身に集めているのが、今の状況だった。


「うんうん、ルシェの機体はこれくらい派手じゃないとね」

「そういうものか?」

「世界最高の機士になる人が乗る機体だもの」

「そういうものか……じゃあ、仕方ないな」


 シアと機体について話していると、整備服に身を包んだ生徒らしき若い男性が話しかけてきた。


「えっと、君たちがルシェ・ドワイドとシアで合ってる?」

「ええ、俺がルシェで、こっちがシアですが」

「人型の精霊なんて初めて見たが、本当に人と同じ姿形をしているのだな」


 整備服の男はシアのことが気になるようで、ジロジロと見まわしていた。俺はさりげなくシアの姿を隠すように男の間に入り込む。


「すまない。君の精霊に向かってぶしつけな視線を向けてしまったようだね。許してくれたまえ」

「俺に用事があったんですよね?」

「ああそうだった。君が持ち込んだ機体は整備科が責任を持って管理させてもらうよ。これが預かり証だ。こちらの整備で機体の破損等が起きたら王国から補償金が出る。大事に保管しておいてくれ」

「分かりました。整備の方、よろしくお願いします」

「ああ、任せてくれ。それにしてもあの綺麗な塗装。よっぽど腕のいい塗装職人に塗ってもらったんだろうな。しかし、塗装は整備の範疇に入らないが大丈夫か?」

「ええ、それは理解しております。塗装剥がれはこちらで再塗装しますのでお気遣いなく」

「それなら安心だ」


 整備服の若い男から預かり証を受け取ると、機体を任せてシアとともに入学式が開催される講堂に向かうことにした。


 講堂に入ると、すでにかなりの数の今年入学する予定の機士候補生たちが席に座っているのが見えた。氏名が書かれた席を見つけるとシアとともに席に座る。


 機士学校への入学資格は、ただ一つ。『対話の儀』で低位以上の精霊と契約した者だ。機族だろうが、平民だろうが入学資格を満たした者しかここには座れない。


 自分と同じ今年の『対話の儀』を済ませて入学する新規組もいれば、卒業できずに一度退学した者が、操縦者として戦果を挙げ、所属機族家から推薦された再入学組もいる。


 前者の新規組は俺と同じ12歳だが、後者の再入学組の年齢は様々だ。それらの候補生が今年は200名ほどいるらしい。通常ならば、300名以上いるらしいが、今年は新規組も再入学組も少ないそうだ。


 高位や中位と契約している者も少ない谷間の世代。すでに上級生たちからはそう言われてるらしい。おかげで、精霊王位のシアと契約し、歴史上初の人型精霊を実体化させた俺に皆の視線が集中していた。


「あれがルシェ・ドワイドかよ。あいつの持ち込んだ機体を見た? 金色だぞ、金色。目立ちすぎだろ」

「あいつ、有力機族のドワイド家の後継者候補だから、家の金だろ」

「でも、聞いた話だと、もう実戦を済ませてるらしいぜ。持ち込んだあのザガルバンドで妖霊機ファントムを4体倒してるらしい」

「はぁ? 再入学組でもない、新規組の12歳のガキだぞ。実戦なんてしてるわけないだろうが。ホラだろ、ホラ」

「ドワイド家の従騎士にうちの親戚がいてな。嘘じゃないらしいぞ。契約した精霊の力がものすごいらしいからな。そっちの力かもしれないが――」

「ああ、なるほど。精霊王位・無属性なんて珍しい精霊と契約したしな。それに歴史上初の人型精霊。ガキの拙い操縦技術でもそんな強い精霊が助力すれば妖霊機ファントムも倒せるってわけか」

「そういうことさ。本人は大したことないってことだ」


 聞こえてきた雑音にシアが立ち上がりかけたが、俺は無言で手を引く。すでに十分目立っているので、これ以上目立つ行為は避けておきたい。


「言いたいやつには、言わせておけばいいさ。彼らがどう思おうが俺には関係ないしな」

「ルシェは優しいね」

「優しくはないさ。言いたい放題言われて腹が立ってるよ。ただ、今の俺には、やらなきゃいけないことがあるんでね。遊んでる暇はないのさ」


 そう、今の俺には妹ルカを助けるため、主人公リンデルの代わりにハーレムENDルートを切り開かねばならない。そのため、機士学校時代のフラグを回収していくというミッションが課せられているのだ。そんな重要ミッションを遂行せねばならぬ身の上で、雑音に気を取られている暇はない。


 この入学式で回収しないといけないフラグは2つだ。1つは近衛機士団長の娘として機士学校に在籍している三年生のエル・オージェンタムとの決闘フラグの回収。もう1つは機士王リゲル・ブレイブハートの娘として在籍している二年生のソラ・ブレイブハートとその専属メイドとして付き従っているアリエス・ユジーンたちとの邂逅フラグ回収だ。


 両方ともこの機士学校時代でしか、出会いのフラグを回収できない存在であり、ここでの回収を逃すと、後々サポートキャラ入りをしてくれない。特にエルとソラは虹の宝玉作成に関わってくるメインヒロインたちであるため、しくじったら妹を助けられる術を失うことになる。


 俺は注意深く、講堂の中に集まっている者たちの中から目当ての人物を探していく。


「ルシェ、もしかしてやらなきゃいけないことって、女探しじゃないよね? さっきからずっとキョロキョロしてるけど」


 こっちの様子を見ていたシアから早速ヤンデレチェックが入る。候補生の中には女性の候補生も含まれており、俺の視線がそれらの子にも向けられているのをシアが察知したらしい。


「シアがいるのに、俺が女探しなんてするわけないじゃないか。義父上から、必ず挨拶するようにと言われてる人がいるかなって思ってさ」

「誰? 女?」


 下手に隠すとシアが勝手に妄想を拡げてってしまうのはゲーム内で何度も経験しているため、隠さずに探している人物のことを告げることにした。


「ああ、女性だ。1人は、近衛機士団長の娘さん。もう1人は機士王様の娘さんが在学してるらしくって、この2人には絶対に挨拶だけはしとけって義父上からきつく言われてるのさ」


 シアの真っすぐな視線が俺の目に注がれる。こちらとしても特にやましい気持ちがあって、2人を探しているわけでもないので動揺はなかった。


 しばらく無言で見つめられていたが、シアが俺の手に自分の腕を絡ませて寄りかかってくる。


「うんうん、そっか、そっか。ブロンギも近衛機士団長と機士王とはお近づきになりたいもんね。ルシェも機族のお付き合いしなきゃいけなくて大変だ」


 ヤンデレチェック回避成功かな。とりあえず、シアの不安は拡大させずにすんだらしい。ヤンデレ耐性がないと、シアのこういった行為が面倒くさいと思うんだろうけど、自分が深く愛されていると思えば可愛さしか感じない。


「探すの手伝おうか?」

「あ、いや。見つかったみたいだ。ほら、あそこにいる」


 俺が目当ての人物たちを見つけると、シアが心配をしないように教えてあげた。


「壇上の端に座ってる人たち?」

「そうそう」


 重そうな甲冑を身に着けた胸の大きな女性と、メイドを従えたドレス姿の清楚な女性が並んで座っている。


 銀髪のセミロングにエメラルドグリーンの瞳をした甲冑姿の胸の大きな女性が、男嫌いキャラのエル・オージェンタム。


 長い茶色の髪をした青い瞳の清楚なドレス姿の女性が、主人公リンデルと最後まで機士王の座を争うライバルキャラのソラ・ブレイブハートだった。


「へぇー、どっちも綺麗な子だね」

「そうかい? シアの可愛さには負けるさ」

「ほんと? ほんとにそう思う?」

「ああ、そう思うよ。シアが一番だ」


 ニコニコの笑顔で、腕を絡ませていたシアがさらに俺の方へ身体を寄せてくる。2人でイチャイチャしてると、周囲からの視線がまた集まってきた。


「あの2人への挨拶は入学式が終わってから行く?」


 あの2人が関連するイベントフラグは、連動してたはずだ。


 入学式後の新入生たちに、上級生たちとの実力差を見せつけるための霊機の模擬戦闘試合で、主人公リンデルが鮮やかに勝ってしまい、三年生で首席機士のエルが決闘を申し込んでくるのが連続イベントのトリガーだ。


 そして、エルに勝つとソラとその専属メイドであるアリシアとの邂逅イベントが発動するようになっている。


 フラグを回収するには、上級生との霊機模擬戦で勝利し、エルとの決闘にも勝利して、ソラたちとの知己を得なければならない。


「ああ、入学式後に行われる模擬戦闘試合を終えてから、挨拶に行こうと思う」

「そっか、そっか。その時はわたしも一緒に行くよ」

「そうしてくれると助かるよ。向こうもシアに興味あるだろうしね」


 そんなふうにシアと話していると、入学式の開催が司会者から告げられた。何度もゲーム内で見てきたシーンであるため、機士の心得を説く校長の話に眠気が誘われる。いつの間にかシアとともにすやすやと寝息を立てていた。


「――以上が校長の私から、候補生の君たちに伝えたいことだ。入学おめでとう!」

「王立機士学校第二五六期、総勢205名、起立せよ!」


 眠っていた俺の耳に薄ぼんやりと聞こえていた司会の声が、席を立つように促しているのが聞こえた。周囲の候補生たちが立ち上がる音がする。


 やっと終わったか……。長いんだよなあのシーン。さて、起きるか。


 隣で寝息を立てていたシアを起こすと、一緒に立ち上がる。


「敬礼!」


 司会の指示に従い、俺は右手を左胸に当てる王国式の敬礼を壇上の校長に対し行った。入学式を終えたことで、これから3年間は機士候補生として王都で過ごすことになる。


「これより、新入生代表と上級生代表の模擬戦闘試合を行う! 新入生は上級生たちの誘導に従い、操練場へ集合するように! 以上、解散!」


 壇上の人たちが奥に下がると、入学式に参加していた制服姿の上級生たちが立ち上がって誘導を始めた。俺たちも上級生の誘導に従い、入学式が行われた講堂から、霊機が並ぶ操練場へ移動することになった。
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