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3・モーメント
しおりを挟む「ただいま……」
「おかえりなさい。どうしたの?どっと疲れてるけど……」
俺達はあの後しばらく動けずにいたが、俺がのえに声をかけ二人ともやっとの思いで帰宅した。
途中のえが
「あ、そういえば自転車、駅に置きっぱだ……。取りに行かなきゃ行けないからここで大丈夫だよ。またね!」
と言い俺が返答する前に走って行ってしまった。
明らかにおかしいのえのその態度と百目木の言ったことが心の奥から離れないことは、何を意味しているのだろうか……。
「なぁ……母さん……」
「何?」
「俺の父さんの名前ってなんだっけ……?」
俺がそれを聞くと料理を準備してた母の手が一瞬止まった。
「ど、どうしたのいきなり……」
「いや特になんでもないんだけど……なんとなく……」
「圭亮じゃない……。忘れちゃった?お父さん泣いちゃうわよ。ふふ。」
母は確かに『ふふ』っと笑ったがあれは完全に作り笑いだった。
1度疑ってしまうと全てに対して疑り深くなってしまう。きっと人間はそういうふうにできているのだろう。
「さ、ご飯にしましょう。着替えてらっしゃい。」
「あー……ごめん……今日は体調悪いからご飯はいいや……」
「あら……そう?暖かくして寝るのよ。」
母はそういい、俺に何も聞かずにまた料理の支度へと戻ったのだ。
よくよく考えてみればおかしいと思わないか。
母子家庭なのに中学受験のための塾にも入れてもらえ、中高一貫私立学校の学費も払ってもらえているのに、母は死にものぐるいで働いているところなど1ミリも見せたことは無かった。父さんの遺産と保険金があるとはいえ、父さんが亡くなったのもだいぶ前だしこんなに家庭に余裕があるのは明らかにおかしい。
……絶対裏に何かある……。
そして俺はこんなことをぐるぐると考えながら眠りについたのだった。
そして翌朝
毎日のように来ていたのえからのおはようメッセージも来ることは無く、ついには待伏せのような登校も無くなっていた。
『ガチャ』
昼休み、どんよりと曇った空を見るためではなく、あいつに会うために俺は屋上のドアを開けた。
「そんなうかうか入ってきてもいいの?殺すよ?」
彼女はお弁当に入っていた唐揚げを俺に向けながら邪悪に微笑んだ。
「一応ある程度の確証は持ってここに来てるから大丈夫だ。」
「ふーん。」
彼女は……百目木唐揚げを一口で食べ切ると、『ここに座れ』といったふうに箸で俺を誘導した。
確証というのは、昨日と今日の百目木の行動を考えてのことだ。
昨日、学校にいる間ものえと俺の前に現れた時もなんなら帰り道も俺は隙だらけだった。まあ昨日は正体を明かしてなかったからとかいろんな諸事情があるとしても、今日襲ってこなかったのはあまりにもわかり易すぎる行動だった。
つまり
今俺を殺す、または誘拐する、などをしても多少のデメリットが発生する。もしくは百目木の実力や判断では俺にそのふたつの行為をする事は不可能ということ。この2つに絞られる。
それに百目木は昨日こうも言った。
蘭 幻水も殺すと。
俺以外にも対象物がいることは、俺だけを殺しても意味が無い、または効果が減ってしまうと解釈できる。
つまり、百目木はまだ俺を殺さない。
これは多分99%当たってる。
……はずだ。
「何よその目は。昨日よりもいい男になってるじゃない。」
「俺、彼女いるんでそういうの大丈夫です。」
「つまんない男。」
百目木は屋上で長い金髪を初夏の風に揺らしていた。
「で?どうしたの?」
「どうしたの?って……お前が机の上に『屋上にいる』なんて書き置きするから来てやったんだよ。」
「いゃあ、炉クン、何か聞きたいことでもあるんじゃないかなぁって。ふふ。」
「なんでもお見通しって訳か。」
彼女はいつもの様にニヤリと笑った。
「何が聞きたいの?私の事?のえの事?能力のこと?自分が殺されること?それとも……」
「俺は自分のことが知りたい」
「……。」
「お前にとって俺は何なんだ?」
「ふふ!いい質問ね!
いいわ!あなたが納得するまで全部答えてあげる。」
そういい彼女はカバンの中から一枚の写真を取り出した。
そして彼女はその写真を裏返し俺に渡してきた。
「これがあなたの知らない真実よ。」
写真を裏返し凝視すると、俺には見覚えのない場所で見覚えのない人達と俺が笑っている写真だった。
そしてもっと驚いたのはそこに、のえとたえさんと……百目木がいた事だった。
「これ……いつの写真だ……?」
「さあね。それはあなた自身への質問じゃないから回答を拒否させてもらうわ。その代わりと言ってはなんだけど、その写真の説明を少しだけしてあげる。」
そういい百目木は俺の隣にピッタリとくっついて座ってきた。
「~ッ!?」
「あれ、どうしたの?もしかして炉クンはまだチェリーなかんじ?」
「う、うるせぇよ。」
隣にのえ以外の異性が座るといつもドキリとしてしまう。だからってチェリーって決めつけるこの女も大概だけどな!!!
合ってるけどな……。
「真ん中に写ってる少年がもちろん炉。その右隣の金髪が私で、左隣が今でもお隣ののえ。そしてその後ろがのえの母のたえ。それで、あんたの真後ろに立ってる白衣の男が蘭 幻水。あんたのーー・」
一瞬の出来事だった。気づいた時には物凄い轟音と共に元いた場所とは遥か遠い屋上の端っこに俺は座り込んでいた。
不思議なことに俺の制服の襟は誰かに引っ張られたように飛び出ていて、それを百目木が掴んでいた。
そして今俺の目の前には……
のえとたえさんと母親がたっていた。
「驚いた。かわされるなんて思わなかった。」
のえは百目木を睨みつけながら吐き捨てた。
のえとたえさんと母さんはまるで何も無い空間から現れたように平然とそこにいた。
そして俺は瞬間移動のように気づいたらこの場所に座り込んでいた。
何が起きてる……?!
「あぁ……これは貰い物。それにあんたほど長距離は無理。」
「貰い物?!そんなこと……できるの……?!」
「あんたの母親がいい例じゃない。ねぇ、たえさん?」
そういい百目木は視線をのえからたえさんに移した。
「久しぶりね帆純さん。」
「お久しぶりです♡それで……そっちは初めましてですよね。炉の義母の馬酔木 八那重さん。」
今……こいつはなんて言った……?
母さんが……義母……?
「……クッ……どこまで炉に話したの?」
なんで否定しないんだよ……母さん……
母さん……!!!
「まだなぁんにも。ゆっくり話そうと思ってたところにあなた達が乱入してきたから。」
「それはナイスなタイミングで乱入してごめんね。ほずち。」
「っ!!懐かしいあだ名ね。のえ。ところでのえ、そんな軽率に炉の前で使ってよかったの?」
「もうあんたが現れたってことは、隠しててもいつかはバレる。なら、手遅れになる前にこの力を使って炉を助ける!!!!」
彼女はのえの言葉を聞くと同時に、掴んでいた俺の襟をまた強く握ると
一回瞬きをして次に目を開いた時には俺は校舎の横を自由落下していた。
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