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2・デート オア ダイ
しおりを挟む「あ、炉!こっちこっち!」
「遅くなって悪い。」
「アイス奢ってくれたら許してあげる!」
「はいはい。ありがとーごぜーます。」
俺は朝約束した通りのえと買い物に来ていた。
正直傘なんて母親にでも買ってもらえばいいのに、わざわざ俺まで連れて買いに行く意味がわからないが、壊したのは俺に間違いないのでその本心は黙っておいた。
「んー美味しい!やっぱりアイスはバニラに限るなぁ。」
のえは俺のおごりで買ったアイスを幸せそうに口へ運んでいた。
「どうだぁ~うまいかぁ~」
「うん!もちろん!幸せ~」
のえはニコニコしながら依然アイスを幸せそうに口へ運んでいるのだった。
放課後に学生カップルがショッピングをし買い食いをしているーー・世間一般から見ればこれはれっきとしたデートというものだろう。
だが、放課後にショッピングに連れ回されてアイス奢らされてなんて俺らが普通の幼なじみの時もやっていた。
それならこれはデートではないんじゃないか……?などとさえ思ってしまう。
俺達はカップルらしいことを何一つしたことがない。手を繋ぐ、キスをする、それ以上のことをする。付き合って月日が経てば誰もが通る道を俺とのえはまだそのスタート地点にすら立っていなかったのだ。
……いったいのえは俺に何を求めて、幼馴染からカップルという形へ変えて行ったのだろう……。
「どーした?炉?」
俺はぼーっと考え事をしているとのえによって現実に引き戻されたのだった。
「いあ、あの、そういやさ、今日うちのクラスに転入生が来たんだよ。」
「え?炉の学校に編入とか出来るの??のえもしたい!」
「いや、そこじゃないしお前は来るな。」
俺はアイスを食べていない方の手で近づいてきたのえの顔を遠ざけた。
「ちぇっ。それでその子がどうしたの?てか女?!男?!」
「女だよ。」
「へぇ~。わざわざ彼女の前で女の話題を出すとは……。」
のえは不満そうな顔でこちらをにらみつけてくるのだった。
「な!別にそこは関係ないだろ?!」
俺はのえの機嫌を損なわないように必死で否定をした。
「(そうだよね……炉は多分恋愛感情として私のことが好きなわけじゃないんだよね……ううん。それでもいいの。それでも私は守らなくちゃいけないからー・)」
のえが一瞬暗い顔になった気がした。
「のえ?どうした?」
「あ!え!いや、なんでもないよ。それでどうしたの?」
「いやなんかさ……俺の事見て『蘭 炉』って言ったんだよ。」
俺がそれを言った、その瞬間、のえは手に持っていたアイスを地面に落としたのだった。
そして目を大きく見開き……まるで目の前の俺でさえもその目には写されていないかのように。
「あ~!お前!もったいねぇじゃねぇか!」
「…………」
俺は直ぐに硬直するのえに気がついた。
「……おい!……ん?……のえ……?」
「………………れ……」
「え?」
「誰?!その女、なんて名前?!誰?!」
のえはいきなり覚醒したかのように俺の両肩を掴んで揺らしてきた。まるで自我を失った野生動物のように。長い間幼なじみをのえとやってきたが、こんな 蘭 のえは見たことがなかった。
「ちょ、のえ、落ち着けって!!!どうしたんだよ!!」
「いいから!その女の名前は??!!」
「百目木 帆純。」
俺とのえのものでは無い透き通った声がこの場に響いた。この声は紛れもなく俺が朝聞いた声だった。
「蘭 炉」
そう。確かに俺はこの声で俺の名前とは違う別の名を呟いた……そんな女を俺はたしかに知っていた。
だが出てこない。記憶の奥底で誰かがそれに蓋をして鍵をかけてしまったかのように。
俺とのえは声がする方向を同時に向いた。そしてそこに立っていたのは紛れもなく、今日からクラスメイトになった百目木 帆純だった。
「帆純……??!!」
「久しぶりね!のえ!」
「な、なんで帆純がここに……?」
「なに?どうしたの、のえ?オバケでも見たような顔して。」
するとのえは目の色を変えて、俺と百目木のあいだに立ちはだかった。
「何しに来たの?!帆純!」
「そんな怖い顔しないでよ。可愛いお顔が台無しじゃない。」
「……クッ……お前……!!」
おちゃらけで返事をした百目木に対してのえはいっそう睨みをきかせた。
「いいわよ別に私は。ここで能力を使っても。」
そう言って百目木は魔女のようにのえにむかって微笑み、のえは表情を強ばらせて握り拳を閉めた。
「……出来るわけないでしょ!!!」
「ええ!そのようね!アハハ!」
俺は二人の会話についていけず唖然としていた。
なんでのえは俺の前に立って俺を守ってるんだ?
お前は彼女だろ?
彼氏を守る彼女ってなんだよ。
てかお前も百目木と知り合いだったの?
俺とも知り合いでお前とも知り合いの百目木 帆純って誰なんだよ!!!
能力ってなんだよ???!!!
なんかアニメの話か????
お前いつからアニメハマってたんだよ!!!!!!
二人とも……なんの話しをしてるんだよ……!!!
「その様子じゃなんにも知らないんだね。炉。」
百目木は頬に手をついてため息をつくようにそう言いはなった。
「……は……?」
「あー違うか。知らないんじゃなくて、覚えてないのか。」
「おいお前それ!!どういう意味だよ!!!」
俺が百目木に掴みかかろうとすると、のえは俺の手を掴み制止させた。
「やめて炉!!」
「?!……のえ……。」
「お願いだからやめて……炉……」
そう言うとのえはしっかりと俺を
守るように俺の前に立ちながら肩を震わせ涙を零したのだった。
「何よ泣いて。泣きたいのは私の方よ。」
そしてその百目木の言葉を聞くと彼女はさらに肩を震わせ
「ごめんなさい」
と呟いたのだった。
しかし、
「は?なにそれ……馬鹿にしてるの……?」
のえの一言で百目木の表情が一転した。
「あんたも同じくせに……人間じゃないくせに……人間ぶって泣いてんじゃないわよ!!!!……はぁ……はぁ……」
そして啖呵を切って溢れ出した百目木の叫びは重くずっしりと俺の中の何かにぶち当たったのだ。
「わかった……わかったから……炉の前でそれ以上は……もうやめて……お願いします……。」
そう言うとのえは膝から崩れ落ちた。何も言わずにずっと泣いているだけだった。
そして俺は俺で事態を把握できず、のえに言葉一言もかけてやることが出来なかった。
こんなに情けなくて悔しいことがあっただろうか。
生まれてからずっと一緒にいたのに、俺が知らなくてこいつが知っていることがある。そしてそれは俺に知られたくなくて、それは涙を流す程で……。
「なによこれ……興ざめにも程があるじゃない………」
百目木は苦虫を噛み潰したように俺を睨んだ。
「なぁ、のえも百目木も何を隠してるんだ……?なにを俺に知られたくないんだ……?」
そう言うと百目木は先程の獣のような魔女のような顔を一転させ、眩しいくらいの笑顔でこう俺に告げた。
「それは元同級生の好としてのえの気持ちをくんで言わないでおくわ!まったく……無知なあんたに吐き気がする……!」
「なっ……なんだよそれ!」
俺が睨みつけるとそれを遮るように百目木は言い放った。
「でも、これだけは言っておくわ。」
「………………」
「私達の目的はお前ーー・蘭 炉……あ、今は馬酔木だっけ?
まぁそんなことはどうでもいっか。
とにかく馬酔木 炉と蘭 幻水を……
殺して、
フラグメントを終わらせることよ。」
それだけを言うと彼女はくるっと体を方向転換させ、私たちから離れていったのだった。
俺は百目木に圧倒され、のえは号泣ししばらく俺達はそこから動くことは出来なかった。
そして帰路に着いた後も、
百目木 帆純
蘭 炉
能力
「覚えてないのか」
「人間じゃないくせに」
蘭 幻水
フラグメント
そして、俺を殺すとはっきりいった彼女。
今日できた謎を解決することは出来なかった。
……百目木は全てを知っているのだろうか……?
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