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EP.5 オスなんてそんなもん
しおりを挟む夏を目前にしたこの季節だからこそ味わえる独特の雰囲気がある。春に咲いた花は新しい芽をつけるために花を落としカラフルな色から緑一色に変わる木々とか、今まで圧倒的に多かった『暖かい』が消え『冷たい』に一新された自販機とか、朝はセーターを着ていないと寒いのに放課後はセーターを着ていると寒いどころか暑くなるところとか、この季節特有の香りが今徐々に顔を覗かせている……そんな気がした。
私とあやはそんな初夏を感じれる公園で遥のことを待っていた。優柔不断に磨きをかけたような性格の私では一生遥を呼び出せなかったような気もするのでちょうどいい機会だと思えるところまで気持ちも切り替わってきていた。
「まぁ、昨日のことは例に習って一夜の過ちだと思って忘れて、もう二度と関係持っちゃダメだよ。」
あやは考え込んでいる私にそう言った。
もしかしたら今心の中を読まれていたのかもしれない。
なぜなら
私は今次に先生と会うための言い訳を考えていたからだ。
私と先生の境界線は理由がないと会えない所。
あやちゃんはきっと分かってたんだ。それを。
それでわかった上で私を牽制したんだ。
「あやちゃんにはかなわないなぁ……。」
「まだまだみず希には負けないよ。ふふ。」
あやはショートカットの髪の毛を静かに揺らしてはにかんだ。
そしてしばらくすると誰かが走りながら近ずいてくる音とともに
「あやー!みず希ー!」
といつも以上に軽快な声の遥がやってきたのだった。
「遅せぇよ。遥。」
「ごめんって。俺人気者だからさ。」
「はいはい。」
あやはいつもの様に遥をあしらうと
「じゃああとはカップルでしか話せないこともあると思うし、あそこでブランコ堪能してくるわ。」
と言ってそそくさと退場してしまった。
「……」
「…………」
「………………」
私と遥の間にはしばらく長い沈黙が続いた。遥はきっとなんで私に避けられていたのかに気づいていないし、浮気の件に関してもバレていないと思っている。
「昨日……ぶりだな……」
先に沈黙を破ったのは遥だった。付き合いの長い遥にはこのまま沈黙を続けても私から話題を振ることは無いと分かっていたのかもしれない。全くその通りだ。
「……うん。」
「あのおっさん誰なんだ……?」
「っ……?!」
それを聞かれるとは正直思っていなかった。
まあでもよくよく考えてみれば、夜の海に彼女が知らない年配男性にお姫様抱っこされてるんだもんね。そりゃ気になるよ。
「ああ、あれは親戚のおじさん!今、田舎からこっち来てて、お母さんに頼まれて一緒に観光してたとこ……」
完全なる嘘だった。
予備校の講師ですなんて言えないし、ましてや昨日ホテルでワンナイトヤッちゃいました☆テヘッ☆とか口が裂けても言えない。
「ふーん……」
「恥ずかしいところ見られちゃったね……。」
私は何故か落ち着けずスカートの裾をずっと弄っていた。
なんか、遥だけど遥じゃない、そんな感じがする。
「で、なんでみず希は俺の事避けてたの?」
「~……」
で、ですよねー!そこですよねー!気になりますよねー!
……
…………
………………
お前のせいだよ!!!!!!!
「はるちゃんはなにか思い当たることとかないの?」
私がそうかまをかけチャンスを与えたにも関わらず、遥はいつも通り整った顔で即答した。
「無いよ。あったらすぐにみず希に謝ってるよ。俺、みず希居ないとダメだから。」
「っ……!!」
私はここに来て昨日の夜、海で感じた遥に対する気持ちが戻ってきた。
キモチワルイ
この気持ちの正体は何……??
わたしは目の前にいる遥の頬を触り、そのまま下まで手を下ろし、遥の手に重ねた。
「はるちゃん、正直に答えて。」
「うん……。」
「はるちゃん、他の人とエッチしてたよね?」
あ、今気づいた。
特大ブーメランじゃねぇか春尾みず希!!!!!!!!
「え……」
「私見ちゃったんだ。はるちゃんと知らない女の人がはるちゃんの部屋のベッドでエッチしてるところ。」
「……」
「それからはるちゃんに捨てられるのが怖くてはるちゃんをさけてた。
これが真実。」
私がそう言い終わると、遥は重ねていた私の手を強く握りこういった。
「ごめん!!!!みず希!!!!!それは事実だし認めるけど気持ちはずっとみず希にあった!!!」
え……?なにそれ……?
「もう、その女の子とは縁切れてるし、それに俺、みず希が居ないとダメなんだよ!!やっぱりみず希以外じゃみず希の穴は埋められないんだよ!!!」
え、何言ってんのコイツ……
「本当に済まないと思ってる。反省してる。許してくれる……?」
「あぁ、うん。もうしないでね。」
あれ、遥ってこんなに魅力のない男だったっけ?
なんかいきなりどうでも良くなってきた。
「……っ……はぁ……ん……みず希……!!!」
「はあっ……ん……んん……」
はーーーん
結局はこうなるのね。
あなたにとっての私って結局、穴?
じゃあこの間の女の人でも良くない?
私に固執する意味って?
元々自分のこと好きだった人が離れてくのが嫌?
存在を否定されてる気がする?
「ん……みず希どうしたの……?気持ちよくない?」
「あ……そんな事ないよ……。……嬉しくて……はは。」
「みず希……俺もだよ……。」
彼は私を見て微笑んだ。
そして遥の両手は私のブラウスのボタンを着実に外していった。
そしてボタンを外し終わると、遥は私の頬に右手を添え
愛してる
と呟いた。
あれ……なんか違う……これ……
私が欲しい手はこれじゃない……
もっと
ごつくて
変態で
とっても愛おしい
あの手がいい。
本当に?
あの手なら満足できるの?
遥じゃなくて先生なら満足できるの?
違う。
私は誰かに依存したいだけ。
「みず希……ずっと一緒にい」
「遥ーーーー???居るじゃん。なんで返信くれな…………って、ありゃ??お取り込み中だった……?」
遥が私の胸に触れた時、玄関から現れたのは、あの日見たあの女性だった。
一瞬にして蘇るあの日の記憶。
私が聞いた嬌声はこの人のーー・・・
「ご、ごめん………本命さんだと思わなくて……今帰るので~HAHAHA……。」
彼女は開いていたドアを閉め帰ろうとした。
何?本命さんって。
本命さんってことは、あなた以外にも本命じゃない人がいるってこと?
そういうこと?
なるほどねー。
全てを察してしまった私はそのまま彼女を呼び止めた。
ほんとクソだな。
クソゲーだ!クソゲー!
「いいですよ帰らなくて。」
私は外されたブラウスのボタンを留め直し、スクールバッグを手に持った。
「多分彼は溜まってると思うんで相手してあげてください。
あと、はるちゃ……遥、私他に好きな人出来たっぽいから別れよ。」
私はそれだけ言い残し、初めての私の反抗に圧倒された遥を置いて遥の家を出ていった。
これで本当の本当にお別れ。
さっき感じた遥に対する違和感がもう正解だったんだね。
別人だと思った遥は、それは、好意の消えてしまった遥。
私の好意は共依存の末のカタチ。
お互いに求めなければ意味が無い。
それに
別に多分好きな人が出来たのは嘘じゃないし。
でもなんで……
なんでだろ……
涙が止まらないよ……。
そっか
また、裏切られたのか……私。
出口のないトンネルみたいだな。
これ。
何となく、私が遥に依存してた理由がわかった気がする。
遥は私が求めなくてもは遥は私に触れてくれる。
触れられないとカタチが分からなくなる私には、私を証明してくれる人が……遥が必要だったんだな……。
でも、こんなの気づいちゃったら滑稽すぎてもう戻れないよ。
利用してごめんね。はるちゃん。
でもいいよ。
私も利用されてたみたいだし
また私のカタチを証明してくれる人を探すから。
「よかったの?遥。本命でしょ。あの子。」
「お前のせいだろ。陽菜乃。」
「ごめんって。早く追いかければ?」
「いや、いいよ。」
「どうして?」
「カラダの相性は確かに良かったけど、性格の相性はそうでもなかったし。それに……今はお前がいるから。」
「……遥……。」
「お前もヤリたくてきたんだろ?」
「……そりゃ。」
「相手してやるよ。」
男なんて、女なんて、オスなんて、メスなんて、人間なんて、結局はそんなもん。
本能のままに俺は生きたいよほんと。
みず希、お前は、俺からは離れられない。きっと戻ってくる。
その時にまたたっぷり愛してやるからな。
それじゃ。
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