答案用紙とレジャーシートと

岐阜 電波ちゃん

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EP.3 白と白

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「みず希、会いたかった。」
そう言った彼の顔は今まで見たことないくらいに真剣な表情をしていた。ぱっちりとした二重も、スッと通った高い鼻も、見本品みたいな唇も、全部全部月の影を作っていた。
「……。」
「みず希……こっち向いて。」何度も聞いたことのある優しい声に私は吐き気を催していた。
「……なして……。」
「ん?」
「離して!はるちゃん!」私はその言葉と同時に力任せに彼の腕と自分の腕を振った。
「どうしたんだよ……みず希……?」
「いいからはなしてはるちゃん!!」
「だからどうしたんだよ?!」
「嫌!やめて!触らないで!」掴まれてない片方の腕で、私の腕を掴んでいるはるちゃんの腕を離そうと掴んだ。
「落ち着けよ!みず希!」
「お願いだから!離して!貴方と話すことなんてなんにもない!」私が最後の力をふりしぼって振ったが所詮は"女の力"と言ったところで、逆に私が砂に足を取られ、月夜に照らされた美しい水面へ尻もちをついてしまった。
『ボッシャーン』私が水の中で項垂れていると、彼も流石にと言ったように私の手を離した。そして彼に離された腕は水面……に着く前に誰かによってまた掴まれたのであった。遥とは違うごつい手と指。切りそろえられた爪……。
「大丈夫か……みず希?」私の手を掴みそして微笑み語りかけてきたのは、横山先生であった。
「よこや……」そこで私は今さっき"みず希"と呼ばれたことを思い出す。これは……合わせるべき……?
「っ……敬一さん……」いきなり現れた横山先生に驚いていた悠だが、すぐにこちら側に戻ってきたのだった。
「おい、おっさん、てめぇ誰だ?」そう悠が横山先生に問いただすと、横山先生は海水に手を入れ私の膝の裏と腰を抱え、いわゆる"お姫様抱っこ"という形で砂浜の方へと歩き出した。
「おい、おっさん!」
「うるせぇなぁ……坊やはさっさと家に帰ってママの乳でもすってろよ。」
「はぁ??!!」
「そしてもう1つ!……俺はそんなにおっさんじゃない。以上。」そういうと横山先生は私をレジャーシートのところで下ろしバスタオルを渡してくれた。
「え……これは……?」
「そこの自販機で買った。」
「わ、悪いです!」
「いいから使えよ。ほら、早く帰んぞ。」そういうと広げてあったレジャーシートを畳み、私のカバンを持ち車の方へと歩き出した。私は制服の上からタオルを肩にかけて、慌ててローファーを履きあとを追いかけるのだった。


「……ごめんなさい……先生……」
「ん?」車は、来た道の逆を行くように高速道路を走っていた。
「はるち……悠が先生にすごい失礼なことを……。」
「は?お前が気にすることでもねぇし、第1俺、ああいう女々しい男嫌いなんだよ。」そういうと先生はウィンカーを出し大型のサービスエリアへと入っていった。
「どうしたんですか??おトイレですか??」
「ちげぇよ。お腹すいただろ?」私は悠と会ったことや、先生に名前を呼ばれたことなど色々なことが頭の中をぐるぐるしていたせいか、すっかり忘れてしまっていた。空腹はもう限界というところまで来ていたようで私は笑顔で頷いた。
5分強待っていると先生は飲み物と食べ物を抱え戻ってきた。
「ほれ、食え。」
「ありがとう……ございます……。」私は渡された緑茶を飲みベチョベチョに濡れたスカートの上に置いた。先生は何も食べる気がないのか、私に食べ物と飲み物を渡すとすぐに車を走り出させていた。先生にもらったたこ焼きは既製品そのものの味がしたがそんなこととはどうでもいいぐらい、私は車の窓から見える夜の街を堪能しているのであった。


「ほれ。着いたぞ。」先生は結局家の前まで車で送ってくれた。これが"紳士"というものらしい。
「ありがとうございます。」
「あーおまえ、レジャーシートも忘れんな。」そういうと先生は後部座席からもう1人の遥のレジャーシートを取り出した。
「あ、すみま……」私は受け取る時に先生の袖が濡れてるのを発見してしまった。考えてみれば当たり前だ。私を水の中から起こしたのだから。
「先生……袖とか……裾とか……濡らしちゃってすみません……。」
「安モンだし気にすんな。」
「……本当に今日はすみません……色々自分でも混乱してて……。」
「あーもーだからいいってこういう時は……」私は先生の声を遮るように呟いた。
「私も先生もびしょ濡れで帰れませんね。」私がそう言うと先生は一瞬動きを止め、そして身を乗り出し私に近づいてきた。
「それ、どういう意味?」
「こういう意味です。」私は先生の手を握り唇にキスをした。普段ならこんなことは絶対にしない。やっぱり自分でも混乱してるんだな。と酷く客観的に自分を分析していると先生は1度唇を外しそしてまた私の唇に重ねた。
「おまえ分かってんの?」
「先生……私……」私は先生から離れこういった。

「処女じゃないです。」そして再び先生と私は唇を交わした。



カーテンとカーテンの隙間から漏れる日差しの眩しさに私は目を覚ました。肌と肌の触れ合い、髭が当たる感触、そして何よりも隣に誰かがいるという感覚を頭の隅に感じながら私は朝を迎えた。私の隣でスヤスヤと寝てるのは紛れもなく横山敬一。そして何も身にまとわずシーツ1枚を共有する私たち。昨日のことは夢じゃなかったのだと私は改めてひしひしと感じるのだった。起きる前に私はスマートフォンで先生の寝顔を写真に撮り、あやちゃんにあるお願いをするためにLINEした。ソローっと私は布団から抜け出し、昨日コンビニで買った地味目の下着を身につけた。制服を身にまとい、私は学校へ行く準備を始めた。時刻は七時過ぎ。始業には余裕で間に合う時間ではあったが、同じ部屋に悠以外の男性と2人きりということを考えるとソワソワしてしまい何もせずにはいられなかったのだ。私はソローっとベッドに近づき先生の顔を覗いた。
「んふふ……かわいい……。」
「……ん……」私がつぶやくと先生は目を覚まし、白いシーツから上半身を起こし筋肉質な胸板をさらけ出した。
「おはようございます。先生。」
「ん……はよ……。」
「先生、何か飲みますか?」
「あー……水……。」
「了解です。」私は財布を掴み廊下へでて自販機を探した。私は自販機で水を購入し財布と水を胸に抱えた。
「んんん……何これ……めちゃくちゃドキドキする……。はるちゃんの時とはまた違うドキドキ……?」
私は初めての自分の感情に戸惑いながら部屋へと戻ったのだった。
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