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EP.1初めての駐車場
しおりを挟むいつからこうなってしまったのだろう。なんでこんなことになっているのだろう。白いシーツとカラフルな壁があまりにも対称的すぎて頭から離れない。目の前の男は私が身にまとってるシーツと同じ色のワイシャツを手に取った。こうして1人、彼の背中を眺めるのは何度目だろう。ぼーっとしてるうちに彼はドアノブに手をかけた。
「……先生。」私が呼び止めると彼は振り向きもせず返事を返した。
「……ん?」
「いつでも……いつでも呼んで下さいね。待ってますから。……いつでも。」心のドアもホテルの部屋のドアも大きな音を立てて閉まった……そんな気がする。それはたぶん今じゃなくてきっと気づかないうちに……ずっと前から。
ー数ヶ月前ー
「いや絶対アンタなんかあったよね?」
「え゛ぇ゛……ナンノコトカイ?」
「マ〇オさんの真似?いやそれ以前に全く似てないし、はぐらかすなし!」
「おちついてよあやちゃん~!」私・春尾 みず希は予備校の食事室で親友・晴野 あやに問い詰められていた。
「落ち着いてほしいならその背中から出てる負のオーラ消しなさいよ。気になって夜しか眠れねーよ。」
「いやそれちゃんと眠れてるからね?健康優良児あやちゃんだよ。」私とあやちゃんは生まれた時からのご近所さん。彼女は私の憧れでもあり同時に、私の彼氏にしたいナンバーワンの女の子だった。そう……あやちゃんは女の子だった……。それが私の人生において最初で最大のミステイクだった気がする。そんなあやちゃんに私は生まれてこの方隠し事を貫き通せた試しがない。
「みず希の事だし大体わかるよ。」
「え゛ぇ゛?!゛なんだってぇ~?!」
「もう〇スオさんはいいから……」彼女はブリッグパックタイプのカフェラテを1口のみ私に告げた。
「遥と何かあった?」
『遥』という名前が出ただけで私の目頭は暑くなり予備校の食事室で大号泣してしまった。
「あ゛あ゛あ゛~あ゛や゛ち゛ゃ゛ん゛~゛!゛」
「うわっめんどくさっ鼻水きったな!」といいながらあやちゃんは用意していたかのようにティッシュを出しそれで私の鼻をつまんだ。
「あ~よしよし。あんの馬鹿遥みず希に何したのよ~よしよしよしよし。」
「あ゛や゛ち゛ゃ゛ん゛~゛!゛」
「はいはい。」あやちゃんは私の鼻をかんでくれるとそのティッシュを投げて華麗にゴミ箱に投入し、そのまま私の背中をさすってくれた。
「どしたの?なにがあったん?」
「あのねっ……ヒック……はるちゃんがね……ぅぅ……はるちゃんがね……ぅぇ……」
「落ち着いてゆっくり話な。遥がどうしたの?」私は深く息を吸って深く吐いた。
「はるちゃんがね……ヒック……浮気してたの……ぅ゛ぅ゛……」するとあやちゃんは私の背中をさすっていた手を止め完全に硬直してしまった。
はるちゃんそして遥というのは私の彼氏の上原 遥か。小学生の時に私とあやちゃんが住んでいるマンションに引っ越してきたイケメンな男の子。前途多難右左曲折色々あってはるちゃんが告白してくれて付き合い出した。なのになのに……。
「え、まってまってまって……遥が浮気してたの?」
「うん。」
「え、携帯の表示で女からLINEが来てたとかそういうやつ?」
「……違う……。」
「女と歩いてるとこ見たとかそういうやつ……?」
「違うよ……。はるちゃんはモテるからそのぐらい日常茶飯事だから今更いにしないよ……。」
「じゃあ……何があったの……?」私とあやちゃんのあいだに緊張が走る。
「ベッドではるちゃんが女の人とえっちしてた……」私がそういうとあやちゃんは目元に手を当て
「はぁ~~~」と長い息を吐いた。
「なるほどね……よし!今から遥をぶっ叩きに行こう!」あやちゃんは勢いよく立ち上がりワイシャツの袖をまくった。
「あ~!あやちゃんやめて落ち着いて!」するとあやちゃんは不思議そうな顔をして私を見てきた。
「確かにはるちゃんがした事は悪いことだし許せないけど、私は……私ははるちゃんがやっぱり好きだから……好きだからこそはるちゃんにはいつも幸せに笑ってもらいたいの!例えそれが私の隣じゃなくてもいい。はるちゃんには笑顔が似合うから!」私がそう言うとあやちゃんは
「まぁあんたがそういうなら……」と椅子に腰を落ち着かせた。
「んで、遥とは話し合ったの?」
「……ううん。あれ以来話してない。」
「このままでいいの?」
「……うん。それより面と向かってはるちゃんに『お前なんかもう用済み』なんて言われる方が今はよっぽどキツい……かな。……あははは。」あやちゃんはすごーく微妙な顔をして広げてあったお弁当を片付け始めた。
「いつもありがとね……あやちゃん。」私もお弁当を片付けながら言うと恥ずかしがってあやちゃんは何も返さずに時計を見た。
「ん?!あれ?!もう『横山』の時間じゃない?!」あやちゃんは唐突に叫んだ。私はその『横山』という単語にも過剰に反応した。
「え?!嘘?!ほんとだ!やば~めっちゃ泣き顔だよ~!!」片付けたお弁当を鷲掴みにして私とあやちゃんは食事室を出た。
「あやちゃん、今日だけは着いてきて~お願い~」
「あ~うん。いいよ。」
「え?!いいの?!今まで着いてきてくれたこと無かったのに!!」
「今日だけだよ!てかいいから早く用意して!」私達は自習室に戻り鞄を託し寄せてお弁当を突っ込んだ。
「あ、トイレ行っていい?」私は階段を駆け下りてる途中であやちゃんに声をかけた。
「いいけど……。」あやちゃんの許可の元2階に向かう途中で3階のトイレに寄った。そして鏡の前に立ち絶望した。
「うわぁ~くっそ泣き顔~やば~!!!あ、リップリップ。塗り直そ。」
「毎度毎度……横山ごときにそこまでする……?」あやちゃんは隣で呆れている。『横山』というのは私たちの英語の先生の横山敬一先生。あ、予備校のね。
「身長も高くない。イケメンでもない。……まぁ、教え方は上手いけど……。」
「だからいっつも言ってるじゃん!あやちゃんも彼氏いるけど恋次くんは違うでしょ?!」
「は?!恋次と横山一緒にしないでよ!」『恋次』とは『ハツラツ!真夏の太陽SUNSUN3』訳して『ハラサン』というあやちゃんが愛してやまない乙女ゲームの『惑星ビーナスの守護神恋次』というキャラクターだ。私は乙女ゲームそんなに詳しくはないけど突拍子もない設定だったことだけは覚えてる……。
「あははは……ごめんごめん。まぁ、そんな感じで横山先生は私にとって推しなの!だからはるちゃんとは違く……あ……もう彼氏じゃ無かった……」私はそんな事考えてるとまた涙が流れてきてしまった。
「あんた何セルフで傷ついてんの?!はよしろや!」私はあやちゃんに強~くムチで叩かれ女子トイレを後にしたのだった。
「おい、晴野。これ絶対なんかあったよな。」横山先生はあやちゃんに訪ねた。
「いえ何も無かったです。」
「勘弁してくれ。面倒事は嫌いなんだ。俺は性格が悪いからな。」
「本当になんにもないです。春尾さんは大変元気です。」
「あからさまに泣いてましたよね?これさっきまで泣いてましたよね?どういう状況だよ。説明しろお願いしますですよ……」あやちゃんにひたすら質問を続ける先生に私は思いっきり否定をした。
「あぁ~せんせ!私はなんともないです!ちょっと花粉が酷くて!あはは!」
「6月だけどな。あははは。」
「……そうでしたね……あははは。」
今私たちは予備校の講師室にいる。今日は補講日ということもあり部屋には横山先生しかいなかった。
「そんなことより!質問お願いします!」
「お、おう……。」横山先生は納得いかないという表情になりつつ質問に答えてくれた。数分するといきなりあやちゃんの携帯に電話がかかってくるなり急いであやちゃんはその電話に出るためにどこかへ行ってしまった。そして数分後帰ってくるなり
「ごめん!急用できた!帰るね!ばいばいみず希!横山!」そう言うとそそくさと講師室を出ていってしまった。
「おい『先生』つけろや!」
「ばいば~い!」私は講師室のドアに向かってもう既に見えなくなったあやちゃんに対して手を振った。
「んーで、最近どうなのよ。彼氏は?」先生はあやちゃんの態度を見て彼氏を連想させたのだろう。あやちゃんは特にクールなほうなのであんなワクワクとした顔は彼氏ぐらいにしか見せないのだ。しかし幸せ絶頂のあやちゃんとは違い今の私にとって『彼氏』という単語は地雷にほかならなかった。案の定、私は先生への返答を考えてるうちにまた涙が零れてしまった。
「え……ちょ……まじかよ……『はるちゃん』となんかあったのかよ……」先生は私が泣いている姿を見るなりかなり困惑しはじめた。私はそんな先生が可哀想になり、そして同時に恥ずかしくなり、慌てて訂正をした。
「あ、ちが!あの……あやちゃんが帰っちゃって寂しくて……それで……」
「おまえ、晴野と別れるといきいつも泣いてんの?!逆にそこまで仲いいとドン引きだわ!!世話ねぇなぁ?!てか、お前ガン泣きだけど、晴野笑顔で帰ったけよ?!」
「……そうですね……彼氏でしょうね……」
「そうでしょうね……」私は涙を思いっきり拭って横山先生の机に広げてあった自分のノートを取り上げた。
「今日はもう大丈夫です!ありがとうございました!それと……迷惑かけちゃってごめんなさい……!」私は急いでノートをカバンにしまい階段を駆け下りていった。なんでかは分からないが今は一刻も早くここを立ち去りたかったのだ。
塾から出たのはいいが私は路頭に迷っていた。母が作ってくれたお弁当(夕飯)を食べたばっかで帰るにはちょっと早い時間だったのだ。あまり早く帰ると「受験生のくせに!勉強はもういいの?!」と母が怒り狂ったように怒るのでそれもできれば避けたく、結果今の事態に陥ってしまったのだ。特にすることもなく私は塾の裏へ行った。そこにはほぼ何も無く、唯一立体駐車場があるぐらいだ。車はほとんど止まっておらず都心とはいえ少し静かでちょっと異世界な感じがするところだった。私は自動販売機で買った冷え冷えのサイダーを口に含み大きく息を吐いた。サイダーの強い炭酸が喉を通る快感に震え、六月後半といえどもう夏は目の前まで迫ってきてる。そんな感じのする季節だとサイダーのペットボトルから滴る水を見て思った。。
「もうそろそろ冬服卒業かな~」私は厚手のセーターの下で汗をかいてる自分に呟いた。サイダーを半分以上飲んだところで微かに歌声が聞こえて来ることに気づいた。あたりを見回しても誰もおらず気のせいかとも思ったが、やはり綺麗な透き通る……まるでサイダーのような歌声が聞こえているのだ。よーく耳を澄ますとそれはあの無機質な立体駐車場から聞こえてくることに気づいた。
「え……うそ……あそこに人がいるの……?」
三階建ての立体駐車場。ここらか見える位置で止まっている車はそう多くない。というかほぼない。
「ま……まさか……幽霊……?……そんなわけないか……ははははは。」私はサイダーのキャップをきっちりと閉め、鞄の中にしまい込み立体駐車場に向けて歩き出した。立体駐車場と予備校は一応『隣接』ということになっているが、まるで以前は家が1軒あった……そんな隙間がそこには空いていた。そんな隙間には中途半端に割れたコンクリートや伸び放題荒れ放題の雑草が生い茂っていた。予備校に車で通う先生は毎日ここを通ってるのか……。とか、だから夏は予備校に虫がたくさん入ってくるんだよなぁ……。なんて考えながら立体駐車場入口まで行った。入口につくともうハッキリ男の人の声だと分かるぐらいのボリュームで私の耳に届いていた。
「っ……。」思わず息を飲んでしまうほど聞き惚れてしまうほどそれは美しい音色だった。入口横の階段から私は3階に上がりようやくその声の持ち主を観測することが出来た。一階に入口があるのにわざわざ3階に車を停めるバカも居ないので3階はもぬけの殻のようになっていた。そしてそこに1人、私と同じぐらいの男子高校生らしき人がたたずんでいた。私は柱の後ろに隠れその男性の歌声を聞いていたがしばらくして私の携帯の着信音がなってしまい、男性は突然歌うのを辞めあたりを見回し始めた。なんだか隠れているのが心苦しくなってしまったため私は柱を飛び出し、彼の方へ歩き出した。
「……君……。」
「あの……ごめんなさい……歌がすごくうまくてそれで……あの……聞き惚れちゃって……いやあの!ストーカーとかじゃないですから!御心配なさらず!!」私がオタク特有の早口(よくあやちゃんが言ってるやつ)で謝罪を述べると彼は不意に笑いだした。
「あはははは!……大丈夫だよ。気にしてないから!……はぁ~笑った笑った。」私もなんだかおかしくなり一緒に笑ってしまった。
「そういえば君、あそこの予備校の生徒だよね?」
「え?!……そうですけど……なんで……」
「いや!僕こそストーカーじゃないからね!僕もあそこに通ってるんだよ。……あ、なんか気持ち悪くてごめんね……。」彼も何故かストーカーへの弁解をし謝り出した。
「いえ!あ!そんなこと思ってないです!!あの、私、高校3年生のはる……」
「春尾みず希さんだよね?」
「え……」
「横山先生にいつも熱心に質問聞きに行っててなんとなく覚えちゃったよ。」
「あっ……そうなんですか……恥ずかしい……」
「僕は同じく高3の氷川 悠よろしくね。」その瞬間またもわたしの心臓がドキリと脈を打った。
「……どうしたの?」
「あ、いや……なんでもないです……」
「でも……顔色悪いしほんとどうしたの……?」
「ちょっと夏風邪気味で……」
「ま、まだ6月だよ?」
「あ……そうでしたね……。」私がHAHAHAと笑っていると彼はカバンからレジャーシートを取り出し座り込んだ。彼は立ち尽くしている私に、自分が座っているところの隣をコンコンと叩いてこういった。
「ほらこっち座りなよ。」
「え……なんで持ってるんですか……レジャーシート。」
「よくここ来るからさ。そんなことより座った方がいいよ!あ、僕が隣は嫌か……」
「いや!そんなことないです!……し、失礼します……。」私は両手でスカートを抑えながら座った。さっきまで感じてた暑さはどこかえ消え、6月の風が私の頬を撫でた。
「ここちょうどコンクリート壊れてるし予備校とは反対側だからよくここから街を見下ろしてるんだ。夜なんか特に綺麗だよ。やっぱり都会だね。」彼は私に話しているのか、それとも誰宛でもなく目の前の空間に対して呟いてるのか、それも分からない、そんなもの鬱げな瞳で呟いた。
「……氷川くんは、なんでこんな所にいたんですか?」
「んーなんでだろ。気づいたらここにいたんだよね。受験勉強疲れかなはは。」きっと彼には"受験勉強疲れ"以上の何かに疲れて嫌になってこんな場所にレジャーシートを広げるぐらいおいつめられていたのだろう。
「ねぇ、春尾さん。」
「なんですか?」
「ちょっと立ってもらえる?いいことしてあげる!」私は嫌な予感がしつつも言われた通り鞄を持ち上げ立ち上がった。私が立ち上がるとすぐに彼はレジャーシートの端を押して壊れたコンクリートギリギリまで攻めよった。
「ちょ!こんな断崖絶壁みたいな所にレジャーシート置いて大丈夫ですか?!死にますよ?!」
「はははは!春尾さん大丈夫だよ!試しに靴脱いで、足、ブラブラしてみ?」私は言われた通りローファーを脱ぎコンクリートの床から足をぶら下げ足をブラブラさせた。
「……ぁ……。」
「ね?気持ちいいでしょ?」
「……はい。」今までに味わったことの無い爽快感が私の中にくすぶっていた嫌悪感を吹き飛ばしていった。今度は気づかないうちに、息をするように涙がこぼれていた。彼はそんな泣いてる私に途中で気づいたが触れずに彼も足をブラブラさせていた。
どれくらいそうしていたか分からないが、彼の言葉で私は我に返った。
「もうそろそろ帰ろっか?」
「……あ、はい……。」
「……もうちょっとここにいたい?」
「え……どうして……?」
「顔に出てたよ。」彼はハニカミながら自分自身の顔を指さした。私はどんな顔をしていたのか検討もつかずひたすらに恥ずかしくなってしまった。
「僕は毎日予備校にいるし、明日それ返してくれればいいからさ。ゆっくりしていきなよ。」
「…あ……ありがとうございます……。」私が振り向いてお礼を言うと彼は何も言わずに手をヒラヒラさせそのまま階段を下っていってしまった。
彼の姿をなんとなく見送ったあと私はまた自分の世界に篭った。あの日見た光景。あの日見たはるちゃんの顔。あの日はるちゃんちの玄関にあった女物の靴。全部がいつでも鮮明に脳裏に蘇ってくる。女の人の卑猥な嬌声。はるちゃんの息遣い。思い出すだけで吐きそうになって胸が苦しくなって涙が止まらなくなる。でもたまにその記憶に紛れ込んでくる楽しかった頃の、幸せだった頃の記憶に惑わされ、そして、少し救われているのであった。
そんな無意味な回想に耽っている間にあたりは暗くなりかかっていた。
「……そろそろ帰ろうかな……。」私は脱ぎ捨てたローファーを履き、鞄を持ち上げ、レジャーシートを畳んでカバンにしまった。
「……氷川……悠……」レジャーシートに書かれた名前に私はまた考え込んでしまう。
「考えてたらキリないや……はははは……帰ろ。」私は立体駐車場の階段を一段ずつゆっくりと降りていった。降りる度、降りる度、涙が目からこぼれていくようで必死でこらえていた。いつまででも泣いてたらはるちゃんの思うツボだって言い聞かせながら。そんなふうにボーッと階段を下っていると制服のポケットから家の鍵が落ちてしまった。駐車場の隙間から入り込んでくる街灯を頼りに私は鍵を探した。鍵は足元に落ちておりすぐに見つかった。しかし、その鍵についていたストラップにまた心を締め付けられる。そのストラップは一年記念の時にはるちゃんがくれたもの。私が好きなブタさんのキーホルダー。私はそのキーホルダーを眺め、もしかしたらムカムカしてはるちゃんのことが嫌いなれるかもしれない。そんな淡い期待を持ってブタのストラップを見つめたが、私が思い出せたのはこれを貰った一年記念日とかそれ以外も遊園地行った思い出とかそればっかり。好きが積もるような思い出しか思い出せなかったのだった。
「もう嫌だ……」私は泣きながらヨロヨロと階段をくだりようやく1階についた。1階につくとまだ沈みきってない夕日の眩しさがボロボロの心に染みるようで歩くことが出来なかった。もういっそここで死んだ方がいいんじゃないか……なんて今までで1番考えたくなかった考えにも至ってしまった。
そして私は砂利の上に座り込みブタのストラップを永遠に眺め続けた。
「……はるちゃん……大好き。」
ブタのストラップが私の涙に揺れたその時だった。
「おい!!春尾!!大丈夫か?!」
横山先生が現れたのは。
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