4 / 10
公爵令嬢といいましても?!
しおりを挟む
公爵令嬢のリリィーアルにとって、ディアゴ・アストロッテにマキアへの婚約を取り下げさせることはたやすい。ただしそれは〝手段を択ばなければ〟という前提である。公爵家、それもこの国の未来の皇后を生み出した家から圧力がかかれば、アストロッテ家の者は何としてでも取り消すだろう。
しかし、それでは意味がない。マキアが人気のない場所で相談してきたということは、プロポーズは人気のない場所で行われ、そのことをまだ本人達しか知らない状況だということだ。人の目はどこにでもある。公爵家が伯爵家に圧をかければ、どれだけ隠しても知られるだろう。そしてすぐにその内容に行きついてしまう。噂が広まれば、マキアが酷く言われることになるのは必至だった。
(……さて、どうしましょう)
公爵家の力が使えないとなれば、女の身であるリリィーアルに出来ることは少ない。
マキアを助けるとは言ったが、これはなかなかに難しい問題だ。
「これは未来の王妃としての腕が試されますわ」
ふっと勝気な笑みを浮かべて、リリィーアルはディアゴがいるであろう場所へと足を進めた。
中庭では思っていた通り、ディアゴが友人達と話をしていた。目当ての人物も含め、皆体格がいい。中庭の端で目立たないようしているのは、淑女が怖がらないようにとの配慮だろう。
(このような配慮ができるのに、なぜマキアさんにだけ……)
リリィーアルは嘆息を漏らした。
ディアゴ・アレストロッテが評価されるとき、必ず『真っ直ぐ』という言葉が使われる。そう、彼は良くも悪くも真っ直ぐだ。だからこそ婚約者に別れをつけ、マキアにプロポーズをした。
談笑をしているディアゴは楽しそうに笑っていた。端整な顔立ちに通りすがりの令嬢たちは静かに色めき立っている。
そういえば、婚約者であるルリーシャは最初、ディアゴを好きではなかったらしい。しかし優しくまっすぐな彼に徐々に惹かれていったのだ。
今ではルリーシャは、ディアゴに外聞が悪くないよう尽くしている。けれどその隠された優しさに彼は気づくことはない。恐らくまっすぐな思いをぶつけるマキアの方が、居心地がいいのだろう。
それでもルリーシャは婚約者に尽くすことをやめない。今回のマキアへのプロポーズは、優しさを与え続けた彼女への裏切りでもあった。
「―――ところで、ディアゴ。ルリーシャ様のご様子はどうだ?」
「ルリーシャの、か?」
「ああ。最近元気がないようだから、お前は婚約者だろう? 何か知っているかと……」
「ああ……いや。そのことなんだが……」
「ほう、やはりなにかあるんだな」
「いや違う」
ディアゴは首を振ると、苦笑いをして言った。
「ルリーシャとは、もう……」
「あら、ディアゴ様。ここにいらしたのね」
リリィーアルはディアゴの言葉を遮った。
(この方、一体なにを言おうと……!)
憤る思いを心の中にだけに抑え、リリィーアルは淑女らしく笑みを浮かべた。
「リリィーアル様!」
ディアゴの友人たちは突然現れた公爵令嬢にぴしりと背中を伸ばし、丁寧に挨拶をした。遅れてディアゴが姿勢を低くするのを見て、リリィーアルも彼らに丁寧な挨拶を返す。
「……ところで、何か御用でしょうか、リリィーアル様」
どこか固い表情で言うディアゴにリリィーアルはゆっくりと笑った。
「ええ、お訊きしたいことがありますの。……失礼ですが皆様、ディアゴ様をお借りしても?」
「ええ、勿論です!」
ディアゴの友人たちはすぐに「失礼します」と言ってその場を立ち去っていく。
彼らの背中が見えなくなるまで見送ると、リリィーアルは雑談でもするような軽やかな笑顔でディアゴに向き合った。
しかし、それでは意味がない。マキアが人気のない場所で相談してきたということは、プロポーズは人気のない場所で行われ、そのことをまだ本人達しか知らない状況だということだ。人の目はどこにでもある。公爵家が伯爵家に圧をかければ、どれだけ隠しても知られるだろう。そしてすぐにその内容に行きついてしまう。噂が広まれば、マキアが酷く言われることになるのは必至だった。
(……さて、どうしましょう)
公爵家の力が使えないとなれば、女の身であるリリィーアルに出来ることは少ない。
マキアを助けるとは言ったが、これはなかなかに難しい問題だ。
「これは未来の王妃としての腕が試されますわ」
ふっと勝気な笑みを浮かべて、リリィーアルはディアゴがいるであろう場所へと足を進めた。
中庭では思っていた通り、ディアゴが友人達と話をしていた。目当ての人物も含め、皆体格がいい。中庭の端で目立たないようしているのは、淑女が怖がらないようにとの配慮だろう。
(このような配慮ができるのに、なぜマキアさんにだけ……)
リリィーアルは嘆息を漏らした。
ディアゴ・アレストロッテが評価されるとき、必ず『真っ直ぐ』という言葉が使われる。そう、彼は良くも悪くも真っ直ぐだ。だからこそ婚約者に別れをつけ、マキアにプロポーズをした。
談笑をしているディアゴは楽しそうに笑っていた。端整な顔立ちに通りすがりの令嬢たちは静かに色めき立っている。
そういえば、婚約者であるルリーシャは最初、ディアゴを好きではなかったらしい。しかし優しくまっすぐな彼に徐々に惹かれていったのだ。
今ではルリーシャは、ディアゴに外聞が悪くないよう尽くしている。けれどその隠された優しさに彼は気づくことはない。恐らくまっすぐな思いをぶつけるマキアの方が、居心地がいいのだろう。
それでもルリーシャは婚約者に尽くすことをやめない。今回のマキアへのプロポーズは、優しさを与え続けた彼女への裏切りでもあった。
「―――ところで、ディアゴ。ルリーシャ様のご様子はどうだ?」
「ルリーシャの、か?」
「ああ。最近元気がないようだから、お前は婚約者だろう? 何か知っているかと……」
「ああ……いや。そのことなんだが……」
「ほう、やはりなにかあるんだな」
「いや違う」
ディアゴは首を振ると、苦笑いをして言った。
「ルリーシャとは、もう……」
「あら、ディアゴ様。ここにいらしたのね」
リリィーアルはディアゴの言葉を遮った。
(この方、一体なにを言おうと……!)
憤る思いを心の中にだけに抑え、リリィーアルは淑女らしく笑みを浮かべた。
「リリィーアル様!」
ディアゴの友人たちは突然現れた公爵令嬢にぴしりと背中を伸ばし、丁寧に挨拶をした。遅れてディアゴが姿勢を低くするのを見て、リリィーアルも彼らに丁寧な挨拶を返す。
「……ところで、何か御用でしょうか、リリィーアル様」
どこか固い表情で言うディアゴにリリィーアルはゆっくりと笑った。
「ええ、お訊きしたいことがありますの。……失礼ですが皆様、ディアゴ様をお借りしても?」
「ええ、勿論です!」
ディアゴの友人たちはすぐに「失礼します」と言ってその場を立ち去っていく。
彼らの背中が見えなくなるまで見送ると、リリィーアルは雑談でもするような軽やかな笑顔でディアゴに向き合った。
1
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです
斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。
思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。
さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。
彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。
そんなの絶対に嫌!
というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい!
私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。
ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー
あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの?
ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ?
この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった?
なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。
なんか……幼馴染、ヤンデる…………?
「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

目には目を歯には歯を!ビッチにはビッチを!
B介
恋愛
誰もいないはずの教室で絡み合う男女!
喘ぐ女性の声で、私は全て思い出した!
ここは乙女ゲームの世界!前世、親の借金のせいで若くして風俗嬢となった私の唯一のオアシス!純愛ゲームの中で、私は悪役令嬢!!
あれ?純愛のはずが、絡み合っているのはヒロインと…へ?モブ?
せめて攻略キャラとじゃないの!?
せめて今世は好きに行きたい!!断罪なんてごめんだわ!!
ヒロインがビッチなら私もビッチで勝負!!
*思いつきのまま書きましたので、何となくで読んで下さい!!
*急に、いや、ほとんどR 18になるかもしれません。
*更新は他3作が優先となりますので、遅い場合申し訳ございません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる