悪役令嬢は主人公に告白されました?!

たいやき さとかず

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婚約者様とおはなし?!

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 リリィーアルは授業を終えて一つため息をついた。
 今日は珍しく、授業に身が入ることはなかった。
 それもこれも昨日のことが頭から離れないからだ。
 あの柔らかい感触を思い出して唇に手を当てた。今でもまだ口付けをしているような感覚が残っていて、自己嫌悪にほんのりと頬を染めた。
「……全部、マキアさんのせいですわ」
 誰にも聞こえないようにそっと呟くと、リリィーアルは唇を手の甲で拭った。はしたないとは分かっていたが、どうしても拭わなければいけないような気がしたのだ。
 大きく息吐いて、心の中を整理する。
 そして立ち上がり食堂へと向かおうと立ち上がったその時、
「リリィーアル、今からこい」
 高圧的にリリィーアルを見下す婚約者、アルドリアがいた。
「あら、アルドリア様。予定も聞かず淑女を連れ出そうなど、貴方はそこまで常識のない方でしたでしょうか」
 リリィーアルは笑顔で言い放ちながら後悔した。
 いつもいつもそうなのだ。アルドリアの前では何故か素直になれない。……だから彼は遠ざかったのだ、心も、身体も。全てマキアに取られてしまった。
(マキアさん……)
 憎々しげに心で呟くも、何故か思い出したのは昨日の熱のこもった瞳……。
(ちがっ、違いますわ!!)
 沸騰しそうな血を押さえつけるようにリリィーアルは肉薄した笑みを浮かべた。
「ふん、お前のことなどどうでもいい。……全く、マキアなら何も言わず天使のような笑みを浮かべて俺の後ろに着いてくるものを」
 アルドリアが蔑むような瞳でリリィーアルを見た。
 リリィーアルはそれに対してにっこりとした笑みを向ける。
 自分はやはり駄目な人間だ。リリィーアルは足に力を淹れながら自分を卑下した。こんな酷い態度をとられても、リリィーアルはまだアルドリアが好きだと言う思いを棄てられない。
 この思いをなくせたらどれだけ楽だろうか、などとは今まで何度も思っていた。そうすれば、アルドリアが誰を好こうと鼻で嗤うことができたろうに。
 表にでない睨み合いが続くその時、冷たい空気を垂れ流す二人の間にマキアが割って入った。
「二人とも、やめてください!」
「マキア……」「マキアさん」
 リリィーアルは動揺を圧し殺すかのように両手にぎゅっと力をいれる。
 アルドリアが熱っぽい瞳でマキアを見ながらその手をとった。
「ああ、君は怒った顔もかわいいな」
「アルドリア様、リリィーアル様が傷ついています。酷いことを言わないでください」
 強い口調と思わぬ言葉に周囲が騒めきたつ。その中にはマキアへの嫉妬のような言葉もいくつかある。
 それに構わずアルドリアは蕩けるような笑みをマキアに向けた。
「優しいなマキアは。リリィーアルなどを気にかけるなんて。本当に、この女とは大違いだ」
 その言葉にリリィーアルの心がぎしりと音をたてる。
 いつもアルドリアがリリィーアル以外の女性といるところを見るとすぐに背を向けていた。それは何故か。今のように傷つくのが分かっていたからだ。
 分かってはいた、分かってはいたが……。
(わたくしは、やはり……)
 思わず唇を噛んだ。
 この状況を、アルドリアがマキアを慈しむ光景をみたくない。リリィーアルの目線が自然と床を見た。
 情けないことに身体が小刻みに震えいるのが分かる。こんな醜態を晒すなど、未来の王妃として情けない。しかし上を向くことはできず、体を動かすこともできず、ただ婚約者がマキアを誉める言葉を聞くことしか今のリリィーアルにはできない。
 アルドリアの甘い声が続いたその時、マキアから怒気を含んだ声が上がった。
「離してください!」
 そのまま勢いよくアルドリアの手をほどき、リリィーアルの手を握る。
「いきましょう、リリィーアル様」
「まきあ、さん……?」
 思わず顔をあげると、にこりとした笑みが返ってきた。
 そのまま困惑したリリィーアルの手を引いてマキアは教室を早足で出ていく。
「マ、マキア!!」
 後ろからアルドリアの声が上がる。リリィーアルが手を引かれながら振り返ると、そこには見たこともないほど焦った様子の婚約者がいた。
「マキアさん……!」
 マキアの背中に訴えかけるが何も返ってこない。
 もう一度名前を呼ぶと、マキアはかぶりを振った。
「リリィーアル様」
 意思の宿ったどこか強い声だった。
 堂々とした、そしてどこか怒ったようなその背に、リリィーアルは思わず言葉を飲み込んだ。
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