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そう、彼らこそ匠……
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「へえ。なら家事は当番制でいくか」
「いいねえ。家事が出来ない同室者じゃなくて良かったよ」
「こっちの台詞だ。……渉、そこのヘラ投げろ」
「はいはーい」
大きめの真っ白なヘラをキャッチすると、佐々部はそれを白のペンキへどっぷりとつけた。
学園生活初日。お互いに名前を教え合った後、佐々部の荷物を置きに行き、ついでに管理人に文句を言うべく二人は一階へと降りていった。用事を済ませると、部屋を片付ける為に買い出し。そしてすぐに片付けへと 部屋に駆けていったのを何人かの生徒が確認している。
勿論、一日で掃除が終わらず、管理人を説得してその日は管理人室で睡眠を貪った。
そして、その翌日である今日。やはり二人は部屋の掃除を続けていた。掃除と言っても、埃やゴミはもうなく、壁の染みと血痕くらいしか残っていない。使い物にならない家具も、明日には管理人の自腹で新しいものが届く。因みに、管理人は何故だかベットから起き上がれない。
二人は黄ばんだ壁や真っ赤に染まった壁の色を出来るだけ薄めた後、淡々と真っ白に塗り替えていた。
「……あの、さ。佐々部君」
「なんだ」
「今日で掃除、終わっちゃいそうだよね」
「………そう、だな」
水樹と佐々部は白く塗っていたてを止めた。
背を向けあっていた相手を振り替える。
目が、交差する。
目を見開き見詰め合うと、同時に口角を上げた。
「「改造」」
トントントントントン。
金槌の音がその部屋に響き渡っていた。
幸い防音。大きすぎない限り音を立てても迷惑にはならない。
「佐々部君、このボロいタンス使える」
「このガラスをこうしてよぉ……」
「この無事なの上にさ……」
「なんで黒板とホワイトボードがあんだよ」
―――それは、深夜まで続いた。
時折夜食を食べたり仮眠をとりながら、落ちた陽がまた登っても二人は作業を続けた。
そして、入学式から三日目の日曜日。午後6時37分。
部屋の物音がなくなった。
忙しなく動いていた二つの人影は床へと沈んでいる。
晴れやかな顔だった。
「…………終わったな」
「終わったね」
「後は家具だな」
「明日、だよね」
そこまで言ってお互いを見る。
「っ、はははっ」
「はっ! バカみてえ!」
掃除に火がつき、いつのまにかの大改造。バカみたいに頑張ったこの三日間を思い出し、笑いだす。
そのバカみたいな三日間で、あの廃墟のような部屋はホテルのような綺麗さと手作りの個性豊かな家具で居心地のよい場所となった。
それを感じながら、二人はただ床に寝転がり笑い合う。
その日、夕食も食べず、いつのまにか深い眠りへと落ちていった。
・゜・☆・゜・
白色に塗られた綺麗な玄関の壁。茶色の靴棚の上に置かれた花や置物が高潔な印象を醸し出す。しかし1つ扉を開けリビングに入れば、クリーム色の壁が玄関にはない暖かみをもたらしていた。そこに隣接されたキッチンは、茶色の壁と深緑の棚で落ち着きがあるものになっている。
リビングの中でもキッチン近くにある30㎝ほど高くなった床には、管理人の自腹で買われた三畳の畳が敷かれている。
天井にぶら下がる五つの小さなライトは、透明なガラスに囲まれてて仄かな灯りで部屋を照らす。
「ちなみに、ライトの明るさは調節できるぜ」
佐々部はニヤリと笑うと、持っていたリモコンを左右に軽く振った。
それを見て彼の友人である只野陸は、腰かけていたソファに全体重をかけ脱力した。
「いーなあ。当り部屋じゃん」
「残念。外れ部屋なんだ」
キッチンから出てきた水樹は、温かい三つの緑茶をテーブルに置く。
「水ちゃんどーもー」
ズズリとお茶を啜り、はあああと息を吐く。
「どこが外れ部屋だよー。部屋の設備もいい、綺麗! そして水ちゃんという素晴らしき嫁!」
「おい」
「うらやま……」
じっとりとした眼差しに溜め息をつき、佐々部は水樹の隣へと腰かける。
「言っとくがな、ここはとんでとねえ廃墟だったぞ。今この状態なのは片付けたからだ」
佐々部はポケットからスマホを取り出すと、いくつか操作してから只野に差し出す。
「ん、なにこれ…………って、げ。汚いってレベルじゃない」
「初日のこの部屋ですよ。ほら、ちょっと面影あるでしょ?」
「言われてみれば、あるけど……信じらんない」
頭を抱えた只野。水樹と佐々部は顔を見合わすと苦笑し、お茶を啜り出す。
「二人とも、頑張ったね……」
慈愛のこもった目に、二週間前の自分達を思い出す。
絶望した部屋の惨状。
とんでもなく頑張ったあの三日間。
いい加減だった管理人。
「……」
「……」
管理人への怒りが再び沸いた。
「ど、どうした……?」
突然黙った二人を心配そうに只野は見つめる。
二人は笑顔を向けた。
「なんもねえ」
「なにもないよ」
「は、はぃ……」
笑顔という名の威圧。
憐れな子羊・只野陸は視線を四方八方へと移ろわせる。
怯える子羊は、沈黙に耐えきれず、勇気を振り絞って立ち上がった。
「じ、じ、じゃ、もう行く、わ。あああ、ありがとなー」
慌てて飛び出し、廊下を走る只野を水樹と佐々部は不思議そうに見送る。
只野の姿が見えなくなった時、水樹は部屋の鍵を閉めた。
「行こうか、佐々部君」
「ああ」
次の日。
夜の管理人室から悲痛な悲鳴が聞こえたという噂が学園内に広まった。
「いいねえ。家事が出来ない同室者じゃなくて良かったよ」
「こっちの台詞だ。……渉、そこのヘラ投げろ」
「はいはーい」
大きめの真っ白なヘラをキャッチすると、佐々部はそれを白のペンキへどっぷりとつけた。
学園生活初日。お互いに名前を教え合った後、佐々部の荷物を置きに行き、ついでに管理人に文句を言うべく二人は一階へと降りていった。用事を済ませると、部屋を片付ける為に買い出し。そしてすぐに片付けへと 部屋に駆けていったのを何人かの生徒が確認している。
勿論、一日で掃除が終わらず、管理人を説得してその日は管理人室で睡眠を貪った。
そして、その翌日である今日。やはり二人は部屋の掃除を続けていた。掃除と言っても、埃やゴミはもうなく、壁の染みと血痕くらいしか残っていない。使い物にならない家具も、明日には管理人の自腹で新しいものが届く。因みに、管理人は何故だかベットから起き上がれない。
二人は黄ばんだ壁や真っ赤に染まった壁の色を出来るだけ薄めた後、淡々と真っ白に塗り替えていた。
「……あの、さ。佐々部君」
「なんだ」
「今日で掃除、終わっちゃいそうだよね」
「………そう、だな」
水樹と佐々部は白く塗っていたてを止めた。
背を向けあっていた相手を振り替える。
目が、交差する。
目を見開き見詰め合うと、同時に口角を上げた。
「「改造」」
トントントントントン。
金槌の音がその部屋に響き渡っていた。
幸い防音。大きすぎない限り音を立てても迷惑にはならない。
「佐々部君、このボロいタンス使える」
「このガラスをこうしてよぉ……」
「この無事なの上にさ……」
「なんで黒板とホワイトボードがあんだよ」
―――それは、深夜まで続いた。
時折夜食を食べたり仮眠をとりながら、落ちた陽がまた登っても二人は作業を続けた。
そして、入学式から三日目の日曜日。午後6時37分。
部屋の物音がなくなった。
忙しなく動いていた二つの人影は床へと沈んでいる。
晴れやかな顔だった。
「…………終わったな」
「終わったね」
「後は家具だな」
「明日、だよね」
そこまで言ってお互いを見る。
「っ、はははっ」
「はっ! バカみてえ!」
掃除に火がつき、いつのまにかの大改造。バカみたいに頑張ったこの三日間を思い出し、笑いだす。
そのバカみたいな三日間で、あの廃墟のような部屋はホテルのような綺麗さと手作りの個性豊かな家具で居心地のよい場所となった。
それを感じながら、二人はただ床に寝転がり笑い合う。
その日、夕食も食べず、いつのまにか深い眠りへと落ちていった。
・゜・☆・゜・
白色に塗られた綺麗な玄関の壁。茶色の靴棚の上に置かれた花や置物が高潔な印象を醸し出す。しかし1つ扉を開けリビングに入れば、クリーム色の壁が玄関にはない暖かみをもたらしていた。そこに隣接されたキッチンは、茶色の壁と深緑の棚で落ち着きがあるものになっている。
リビングの中でもキッチン近くにある30㎝ほど高くなった床には、管理人の自腹で買われた三畳の畳が敷かれている。
天井にぶら下がる五つの小さなライトは、透明なガラスに囲まれてて仄かな灯りで部屋を照らす。
「ちなみに、ライトの明るさは調節できるぜ」
佐々部はニヤリと笑うと、持っていたリモコンを左右に軽く振った。
それを見て彼の友人である只野陸は、腰かけていたソファに全体重をかけ脱力した。
「いーなあ。当り部屋じゃん」
「残念。外れ部屋なんだ」
キッチンから出てきた水樹は、温かい三つの緑茶をテーブルに置く。
「水ちゃんどーもー」
ズズリとお茶を啜り、はあああと息を吐く。
「どこが外れ部屋だよー。部屋の設備もいい、綺麗! そして水ちゃんという素晴らしき嫁!」
「おい」
「うらやま……」
じっとりとした眼差しに溜め息をつき、佐々部は水樹の隣へと腰かける。
「言っとくがな、ここはとんでとねえ廃墟だったぞ。今この状態なのは片付けたからだ」
佐々部はポケットからスマホを取り出すと、いくつか操作してから只野に差し出す。
「ん、なにこれ…………って、げ。汚いってレベルじゃない」
「初日のこの部屋ですよ。ほら、ちょっと面影あるでしょ?」
「言われてみれば、あるけど……信じらんない」
頭を抱えた只野。水樹と佐々部は顔を見合わすと苦笑し、お茶を啜り出す。
「二人とも、頑張ったね……」
慈愛のこもった目に、二週間前の自分達を思い出す。
絶望した部屋の惨状。
とんでもなく頑張ったあの三日間。
いい加減だった管理人。
「……」
「……」
管理人への怒りが再び沸いた。
「ど、どうした……?」
突然黙った二人を心配そうに只野は見つめる。
二人は笑顔を向けた。
「なんもねえ」
「なにもないよ」
「は、はぃ……」
笑顔という名の威圧。
憐れな子羊・只野陸は視線を四方八方へと移ろわせる。
怯える子羊は、沈黙に耐えきれず、勇気を振り絞って立ち上がった。
「じ、じ、じゃ、もう行く、わ。あああ、ありがとなー」
慌てて飛び出し、廊下を走る只野を水樹と佐々部は不思議そうに見送る。
只野の姿が見えなくなった時、水樹は部屋の鍵を閉めた。
「行こうか、佐々部君」
「ああ」
次の日。
夜の管理人室から悲痛な悲鳴が聞こえたという噂が学園内に広まった。
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