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その指先に逆らえない⑤

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 定期的に訪れた木こりさん……そういや、木こりさんが愛用していた魔物よけの薬には、誤って服用した場合に变化の効果があったはず。スカーレット様に飲ませた薬って、まさか……⁉

「まさか、魔物よけの薬をスカーレット様に飲ませたんですか⁉」

 くるりと回って、ハッと再び殿下と向き合えば、殿下は何回かまばたきしてから「あぁ」と頷く。

「そうだよ。解呪の薬も、きみがくれたのど飴を改良してうちの薬師に作らせたものだが――」
「なんでそんな危ない使用法をしてるんですかっ! もしものことがあったら、どうするつもりだったんですか⁉ いくら王太子殿下といえど、やっていいこととやっちゃダメなことがあるでしょう!」
「あ……だから、しっかりと薬師に研究させたし……俺自身が飲んで安全性も確認してから……」
「殿下も飲んだ⁉ あれは! 塗布、散布するための薬です! 何度も説明してますよね⁉ 確かに安全性の高い薬ではありますが、薬は薬! 本来と違う用法を、遊び半分で使うなんて危ないにもほどが――」
「遊びじゃないっ!」

 殿下の大きな声に、とっさに私は肩を竦ませる。
 こんな大きな声も、真剣なお顔も、初めてで……。だけど、「すまない」と謝った後の殿下は、耳を垂らした子犬のように視線を下げていた。

「遊びじゃない……俺は、本気だったんだ……。こうでもしなければ……貴族でもないきみに近づくことなんて、出来なかった。いくら魔女であろうと、きみは平民だ。偉大なる魔女アリーシャ・シャペルベルクの血を引いていようと、生家であるシャペルベルク家からは追放されているし……そんなきみを正妻として迎え入れるために、手段なんか選んでいられなかった」

 ――正式に迎え入れるって……。
 そんなこと、正気なの? 世間知らずの私でも憶測がつく。
 ルーファス殿下は正統なる次期国王陛下だ。その伴侶となれば、当然相応の地位や権力を持つものでなければならない。

「いい加減風邪をひかせてしまうな」

 言うのが早いか、私を持ち上げるのが早いか。
 考えるのに夢中な私はされるがまま。それに文句を言いたいけど……殿下は今も私を横抱きにしている。乱れたメイド服の、私なんかを。

「……本気、なんですか?」

 まだ私がシャペルベルク家から除名されてなければ良かったのだろう。隣国では伯爵の爵位を貰っているという……それでも王家に嫁ぐには低いのかな? 対して実際の私は、実際は家名なしの森ぐらし。そんな私が……愛人でも厚かましいのに、正妻? 次期王妃ってこと?
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