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主人のいない間の出来事③

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 一見して兵士さんだろう。中途半端に甲冑を着た男の二人組。片方の人が、青白い顔をした男の人に肩を貸していた。
 そんな急患が、私を見て眉をしかめる。

「あ、えーと……」
「ご、ごめんなさい。今、薬師の方は誰も……」

 とっさに腰を上げた私のドレスの下に、スカーレット様は慌てて戻っていく。
 その様子に気づいた様子のない兵士さんは気まずそうに笑った。

「いえ、お嬢様が悪いわけではありませんので」

 おそらく、この人たちは“スカーレット様”のお顔を知らないのだろう。だとすると、結構下っ端の兵士さんたちなのかな?
 青白い顔をした男の人が苦しそうに呻いている。連れていた人も「どうするか」と困った様子だ。

 ……私も魔女の端くれ。
 ここで見捨てたら、それこそ天国のおばあちゃんに怒られてしまう!

「とりあえず座らせましょう。あとその甲冑を外してもらえますか?」
「え、でも……」
「早く!」

 兵士さんが戸惑うのと同時に、ドレスの中から「ちょっと!」と静止させようとするスカーレット様の小声が聞こえる。でもそれらを無視して私が代わりに肩を貸そうとした所で、連れてきた兵士さんが甲冑を外し、患者を座らせてくれた。ボウス頭の患者さんが脂汗を掻いている。それをハンカチで軽く拭ってやり、私は「もう大丈夫ですよ」と極力優しく声をかけた。

「お腹触らせてもらいますねー」

 服を捲り、お腹のあちこちを軽く押す。これで特別痛がる場所があれば、医術師を呼んで来なければ。軽度の急性の場合なら薬師の判断で投薬できるが、重症の判断をした場合、医術師に見てもらい診断、場合によっては外科的処置をしてもらわなければならない。

「下痢や血便、吐き気など、他に気になることはありますか?」

 患者本人に声をかければ、奥歯を噛み締めながら首を横に振ってくれる。
 腹部に特別固い場所もなく、痛がる場所もない。ただ、やっぱり話す余裕がないほど苦しいらしい。
 ならば、と私は連れてきてくれた人に訊く。

「この方とのご関係は?」
「へ……同僚っす。同じ寮部屋のよしみでおれが運ぶよう指示されて……」
「痛みを訴え出したのはいつから?」
「ついさっきだ」
「では、この方の持病や既往歴はご存知ですか?」
「いや……元気だけが取り柄だと豪語するようなやつで……」

 症状はおそらく急性。おでこや首元に触れてみるも、発熱もない。
 私は淡々と問診をすすめる。

「昨晩や今朝に食べていたものは?」
「別に変わったものは……あぁ、夜中に腹が減ったからと買い込んでいたなんかを食べていたと思うが……」
「ちなみにあなたも同じ食事内容ですか?」
「夜食以外は同じものたけど……」
「ありがとうございます」

 だったら、単純に食あたりだろう。
 特に吐き気を催している様子もないから、感染症的なものではないと思う。もしかしたらストレス性の胃腸炎もあるかも、かな。同室の同僚さんにストレスの有無を訊くのは、少し難しいかもしれない。のちの患者の環境に影響与えるかもしれないから、ひとまず様子見。

「薬を調剤しますので、少々お待ち下さい」
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