【完結】勇者のハーレム要員など辞退します

ハナミズキ

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3. 勇者とハーレム

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「ミーシャ、俺も手伝うよ」


夕食後の片付けをしていると、ケイレブが寄ってきた。

もうすぐ旅の終わりが近づいているからか、浮気をしている罪悪感からか、こうして何かと私に気を使ってくるようになった。

正直言って迷惑だ。


「ううん、大丈夫。これは私の仕事だから、ケイレブはゆっくり休んで」

「でも……」


本当にどこかへ行ってほしい。

出ないとまた彼女たちが──


「ケイレブ様ぁ、ここにいらしたんですね」

「アウロラ……」

「先程王都から物資が届いたんです。疲労回復用のアイテムとかもあるんで受け取りに来て下さい」

「あ、じゃあ、あとで……」


ケイレブが後回しにしようとすると、アウロラが彼の腕に絡みつき、その豊満な胸を押し付ける。

「ダメですよケイレブ様。貴方が先にアイテムを選んでくれないと、他の者たちが物資を受け取れません。皆待ってるんですよ」

「そうだよケイレブ。皆戦闘で疲れてるんだから、待たせたら可哀想だよ。早く行って」

「ミーシャ……」

「さすがミーシャさんは気配りが上手ですね。私たちが心置きなく戦えるのも貴方のサポートのおかげだわ。いつもありがとう」


私に向ける笑顔に圧が感じられ、額に汗が滲む。
ケイレブが私を気にかけることすら許せないらしい。

私が目を合わせず片付けに集中していると、ようやく諦めたのか、ケイレブはアウロラと一緒に去って行った。

(昼間はサラ姫だったから、夜はアウロラさんかな)



またきっと、睡眠を邪魔されるのだろう。

私への嫌がらせなのか、彼女はわざと私にだけケイレブとの情事の声を聞かせるのだ。

他の者たちには聞こえていないらしい。
私だけを対象から外して隠蔽魔法をかけている。

ただ私の心を折るためだけに。


その目論見通り、私はもう折れた。
だからもう、許してもらえないかな。

私は最近ずっとケイレブのことを避けているし、長いことまともな会話をしていない。ちゃんと距離を取っているのに、それだけじゃダメなのだろうか。 


魔王討伐が終わったら、ケイレブの前から消えるから。
だからもう夜は静かに寝かせてほしい。


(早く……早く旅を終わらせてよ)



前に一度だけ、現状に耐えかねて、誰にも告げずに故郷に帰ろうとしたことがある。

けれど彼女たちに捕まり、言われたのだ。


『貴方が急にいなくなったら、ケイレブ様が気に病んで戦闘の効率が下がるでしょ。ただでさえ役立たずなのに更に彼の足を引っ張らないでよね』

『そうよ。大体途中で抜けて迷惑かけるくらいなら、最初から彼について来なければよかったのよ。ほんと身の程知らずの図々しい女。彼はね、魔王討伐後は私たちと結婚するって決まってるのよ?』

『これは王命よ。魔王討伐後に周辺諸国を牽制するためにも、ケイレブ様には王宮に留まってもらわなくちゃいけないの。だから私たちと結婚してもらうわ。そして勇者の血を受け継ぐ子を産むのが私たちの役目』

『彼も了承済みよ。だからこうして私たちを可愛がってくれてるの』



(三人と結婚……? 王命?)

自分の知らないところで、恋人ケイレブの結婚相手が王命で決められていたことに衝撃を覚える。

それは俗に言うハーレムというやつだろうか?
それをケイレブも了承している?





──吐き気がした。

一人の男を複数の女で共有する。
そんな環境を男も喜んで受け入れている。

その事実に、激しい嫌悪感が湧き起こる。



この時、私のケイレブへの愛が完全に尽きた。



本当は少しだけ期待していたのだ。

もしケイレブがまだ私を愛しているなら、いなくなった私を探してくれるんじゃないか。

後を追って、本当は私だけを愛してると言ってくれるんじゃないかって──


でもそんな期待は、こうして彼女たちに潰され、更に勇者との蜜月の内容を聞かされる。もう耳を塞ぐ気力もなかった。


『ねえ、貴女はケイレブ様とそんな甘いひと時を過ごしたことある?』

『ぷ、あるわけないじゃない。だってケイレブ様はこの女に手を出してないもの。きっと田舎では私たちほど綺麗な女はいなかったのよ。だから私たちに夢中なんでしょ?』

『そうね。ケイレブ様のお相手は一人で担うのはちょっと大変だと思うわぁ。三人でちょうどいいくらいよね』



彼女たちの言う通り、私とケイレブは清い関係だった。

それは、魔王討伐までどのくらい時間がかかるかわからないから、初夜まで大事に取っておくとケイレブが言ったからだ。

一度抱いてしまえば、もう歯止めが効かなくなる。万が一妊娠してしまえば、ただでさえ危険な旅なのに更に私の命が脅かされることになると──


あの心配は一体なんだったのだろう。



『よく聞きなさい。討伐が終わるまで、貴女が去ることは許さないわ。もし勝手にいなくなったら、貴女の家族の命はないと思いなさい』

『どうして……っ、私は姫様たちにとって邪魔な存在ですよね?』

『邪魔ね、目の前から消えてほしいくらい』

『それならなぜ……っ』

『わからないの? 魔王城に近づくにつれ、熾烈な戦闘が続いている。一時も気が抜けないの。そんな時に貴女みたいなクズのことでケイレブ様の心を煩わせるわけにはいかないのよ』

『私たちの肩には国の命運がかかっているのよ。失敗できないの。貴女如きに邪魔されるなんて許さないわ。首突っ込んだのは貴女なんだから、家族の命が惜しければ最後まで尽くしなさい』

『貴女も貴女の親も、いつでも殺せるってことを肝に銘じておいてね』





そして私は連れ戻された。

今の私はケイレブのためではなく、家族の命を守るためにこの状況に耐えている。

もうこの時にはケイレブへの愛も尽きて、全てを諦めていた。ただ課せられた仕事を淡々とこなす日々。

ケイレブの裏切りも、もう当たり前の光景になってきて動じなくなった。


きっと旅が終わる時、私は彼女たちに殺されるだろう。


私の命と引き換えに家族が無事でいられるなら、それでいいのかもしれない。むしろ殺されても構わないとすら思うほど、私の心は壊れていた。


だって死ねたら、この辛い場所から抜け出せる──








アレスが現れたのは、そんな時だった。

神様だなんて信じられなかったけど、アレスの正体が何者かなんて、もうそんなことはどうでもいい。


私に優しくしてくれた。
笑わせてくれた。

私の魂がキレイだと言ってくれた。


意味が全然わからなくても、嬉しかったの。
久しぶりに優しくしてもらえて、泣きたくなった。


そしてとてつもなく、故郷が恋しくなった。
帰りたくてたまらなくなった。

父と母に会いたい。
やっぱり死にたくない。




だからアレスに願った。


もし本当に神様なら、

本当に私の願いを叶えてくれるのなら、


私をこの悪意の中から連れ出して。
私の大事な家族を守って。



(お願い、アレス──)



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