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反撃開始
しおりを挟むリック様に続き、コンラッド第一王子の自作自演も発覚して会場は騒然となった。
「うそでしょ、これも自作自演……?」
「王族が犯罪を企てるなんて何を考えてるんだ?」
「断罪劇が始まったと思ったら、蓋を開ければ全部自分たちの罪を暴露してるだけじゃない。バロー男爵令嬢が虐められたっていうのも自作自演なんじゃないの?」
「彼女たちがバロー男爵令嬢と一緒にいるところをほとんど見たことないものね。たまに見かけても、どちらかというバロー男爵令嬢の方がキャサリン様たちに絡んで付き纏ってたように見えたわ」
王子の罪が確定したところで敬う必要性を感じなくなったのか、各々が自身の見解を述べ始めた。その一つ一つが壇上にいるメンバーに突き刺さり、顔から血の気を失い、もはや人形のように立ち尽くしている。
そしてコンラッド第一王子から受け取った証拠品の媚薬をデンゼル公爵が鑑定したところ、我が国にはない原料で作った媚薬であることがわかった。
とても強力なもので、使用すれば脳に強く作用し、人の理性を奪い、それこそ性犯罪者のように近くにいる者を手当たり次第に襲ってしまうほどの性衝動を起こさせるらしい。
もはや毒と同じで廃人になるか死亡する恐れのある劇薬であり、とても乱交で楽しむレベルのものではない。
もし本当に使われていたのなら、キャサリン様も彼らも今こうして立っているはずがないのだ。
つまりコンラッド第一王子は、彼らに毒を渡したことになる。
「――貴方はマクガイア公爵令嬢の命までも奪うつもりだったのですか?」
デンゼル公爵の追及に、コンラッド第一王子は激しく首を横に振って否定した。
「違う! 俺はその媚薬がそんな恐ろしいものだったなんて知らなかった! バロー男爵が用意したものをそのままアイツらに渡しただけだ! 毒だなんて聞いていない! 俺は騙されたんだ!」
「コンラッド様!」
「触るな! くそ! 何がどうなってるんだ! なんでこんなことに!」
縋ろうとしたデイジーの手を叩き落とし、コンラッド第一王子が頭を押さえながら膝をついた。
きっと彼の中では目障りなキャサリン様とマライア様を衆人環視の中で断罪して社会的に殺し、自分の地位を高めるつもりだったのだろう。
でもすべてにおいて詰めが甘いのだ。
勉強不足でもあるし、悪い意味で彼は根が純粋だった。彼よりも腹黒で悪どいことを笑顔でやる人間は王宮に沢山いるし、水面下では常に権力争いが起こっている。
王族はそれに飲まれないよう毎日気を張っていなければならないし、人の善悪を見極める能力も備えなければならない。
王宮や社交の場では、甘言を吐く者ほど怪しい人物だと疑ってかからなければならないのだ。
言葉をそのまま受け取り、言外に含まれる思惑を感じ取れないなら、やはり彼は王族としての資質に欠ける。
だからデイジーやバロー男爵のような小物に引っかかり、ネブロス帝国の皇子に利用されるのだ。
ざわざわと会場の声が高まる中、スッとマライア様が片手を上げた。
「皆の者、静粛に!」
王太女の声に、会場の声が消える。その緊張感の走る空気に全員が固唾を呑んだ。
「――デンゼル公爵、進めてくれ」
「ありがとうございます。ではこれより先はマクガイア公爵令嬢にお伺いします。冒頭で読み上げられた脅迫罪、器物破損、誘拐未遂、暴行未遂、姦通罪についてお心当たりはありますか?」
「一切ございません。事実無根です」
デンゼル公爵の質問に、キャサリン様は堂々と答える。
「そうですか。それを証明する証人、証拠はありますか?」
「はい。ワタクシとこちらにいる友人たちが無実であるという証拠を用意しております」
そしてキャサリン様は私に視線を向けた。
私は頷いてレースの袖口に隠し持っていた映像記憶装置を取り出す。
やっと、エゼルと私の苦労が報われる時が来た。エゼルと視線を合わせ、二人でキャサリン様の横に並び立つ。
「カーライル侯爵が長女、ブリジット・カーライルと申します。キャサリン様に変わり、証拠品の提出と説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「許可します」
「こちらはカーライル商会で扱う予定の新商品です。これは景色や人物、その時の会話など、映像として記憶することができます」
私の商品説明に会場が再びざわざわと騒ぎ出した。
この国にはまだ動画という文化はないから想像もつかないのだろう。前世にあった家電や女性用下着なんかは、私が開発するまでなかったのだ。
魔法はあっても文明は日本よりかなり遅れている。だから私の説明を聞いても、きっと皆は想像がつかないだろう。
だから百聞は一見に如かず。実際に見てもらった方がいいでしょう。
「今からこの装置に記憶されている映像を皆さまにお見せします。これを見ればキャサリン様は無実であると証明できるでしょう」
「そうですか。では見せていただけますか」
デンゼル公爵の了承を得て装置をエゼルに渡す。
それを受け取ったエゼルは壇上の奥に垂れ下がる舞台の幕に魔法陣を組み、録画した映像を大きく映し出した。
壇上では「うそ! うそ! なんでこの世界に動画があるの!」とデイジーが叫んでいる。もう庇護欲をそそる女を演じる余裕はなくなったようだ。
そんな彼女の様子と叫ばれた言葉に、デイジーがやっぱり転生者だと確信する。そして脳裏にイアンの言葉が浮かんだ。
『デイジーは、あの女の生まれ変わりだ』
あの女――前世で私から京介を奪ったあの女。
名前も知らない人だったけど、こうしてデイジーの感情的な行動を目の当たりにすると、確かにあの女に似ているような気もする。
いろいろ考え込んでいると、周りが騒然としだした。そしてデイジーが「違う違う違う!」と仕切りに叫んで映像をかき消そうとしている。でもその手は空を切るばかりで、魔法で映し出した映像を消すことはできない。
大スクリーンに映し出されたのは、デイジーに付かせていた影が録画した記録。
虐めを演出するために、自作自演に勤しむデイジーの姿だった。
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