【完結】影を使って婚約者の秘密を暴いたら、とんでもないことになりました。

ハナミズキ

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卒業パーティ

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リリスの元の身体の遺伝子に格納されていた特殊な情報。

それが僅かながらに残されていた事にリリスは驚いた。

ロキの言葉が続く。

「残されていたと言っても、あくまでもそれは残滓だ。元々お前の遺伝子に格納されていたものの数%に過ぎないだろう。その状態であちらの世界の管理者にとってどれだけ有用かも儂には分からん。だがそれでもアルバに手渡す価値はあると思うぞ。」

龍の言葉にコオロギはうんうんと頷いた。

「例え数%であったとしても、管理者にとっては手に入れたいだろうな。ゼロと1とは大違いだ。僅かでも存在すれば再構築の足掛かりとなる筈だと思う。」

コオロギはそう言うとリリスの傍に近付いた。

「それでリリスの脳を解体して取り出せば良いのか?」

異様な魔力を纏ってコオロギがリリスに迫る。
その表情が不気味だ。

「何を言ってるんですか!」

リリスは反射的に後ろに引いた。

「そんな物理的な作業は必要ではないぞ。」

龍はそう言いながらハハハと笑った。

「リリス。お前の脳内に魔力の触手を撃ち込み、その部分を抽出するだけだ。お前には何の負担も無い。まあ、任せておけ。」

龍はその言葉と同時に魔力の触手を伸ばし、リリスの脳内にそれを撃ち込んだ。
リリスはその反動でリクライニングチェアに押し付けられた。
だが痛みは無い。
その代わりに脳内をぐるぐると掻き回され、若干の吐き気を催してしまった。

「うむ。抽出は完了した。さあ、これを持って行け。」

龍の目の前に小さな紫色の球体が出現し、コオロギがそれに近付いた。

じっくりとその球体を精査するコオロギの表情が微妙に可愛げだ。
ほくそ笑むリリスを他所に、コオロギはうんうんと頷いた。

「確かにこれはリリスの元の身体の遺伝子に格納されていたものの一部だ。」

そう言うとコオロギはふと遠くを見つめるような仕草をした。
誰かと念話を交わしているのだろうか?

「管理者からの連絡があった。是非返して欲しいと言う事だ。それで返却方法だが・・・」

「うん? お主が持っていくだけでは無いのか?」

龍の問い掛けにコオロギは少し戸惑っていた。

「そう思っていたのだが、リリスに紐づけられているスキルに手渡せと言うのが管理者の意向だ。」

「それで良いのか?」

龍の再度の問い掛けにコオロギは強く頷いた。
それならと言う事で龍はリリスに魔力で働き掛け、異世界通行手形を無理矢理発動させてしまった。

「えっ! ロキ様、良いのですか?」

戸惑うリリスだが、これと言って異変が無い。
ただ、自分の足首がじんじんと疼き、仄かに光りを放っている。

「儂の管理下で発動させただけだ。時空を大きく改変するほどの影響はない。その特殊なスキルにこれを委ねるぞ。」

龍の言葉と同時に紫色の小さな光の球が移動し、リリスの足首に吸い込まれる様に消えていった。
その瞬間、リリスの意識がふっと消えたような気がした。
それは元の世界と何らかの繋がりが生じた事で受ける感覚なのだろうか。

コオロギは龍に礼を言って消えていった。
龍もその姿を消し、リリスの目の前の情景も元の状態に戻った。

今のは夢?

そんな気がするリリスだが、自分の足首がまだじんじんと疼いている。
そこを自分の手で擦ると、何か白い靄のようなものが出てきた。

今度は何なの?

戸惑いながらもリリスはその様子を見つめていた。
白い靄は徐々に形を変え、小さな動物の姿になった。

三毛猫だ!
実体化しちゃったの?

驚くリリスの足元に三毛猫は纏わりつき、ゴロゴロと喉を鳴らせている。
その感触にリリスの警戒心は吹き飛んでしまった。

可愛い!

手で背中を撫でると、三毛猫は気持ち良さそうに手足を伸ばし、グッと身体を仰け反らせた。
リリスはその三毛猫を抱き上げ、リクライニングチェアに移動した。

リリスの膝の上で三毛猫は横になった。
その姿が実に可愛い。
リリスの頬もつい緩んでしまう。

この世界には存在しない三毛猫の感触をリリスはしばらく堪能した。

だが5分ほど過ぎて、三毛猫の姿は徐々に薄れ、霧のように消えてしまった。
残念な思いで足首を擦っても何の反応も無い。

今のは何だったの?

そう思っているとリリスの背後から声が聞こえてきた。

「充分堪能したようだな。」

えっと驚いて振り返ると、そこにはコオロギが浮かんでいた。

「アルバ様! 何時からそこに居たんですか?」

「ああ、驚かせてすまなかったな。お前にまだ用件が二つ残っていたので戻って来たのだよ。」

コオロギはそう言うとリリスの前に位置を変えた。

「一つ目の用件はその猫の事だ。仮想空間でのみ存在したものが実体化したのは、お前に対する我々の管理者からの謝礼だと思ってくれ。だが常時実体化出来るのではない。今のところ、一日に一度、5分程度しか実体化出来ないのだ。」

「そうは言ってもお前の持つ最適化スキルが改良するかも知れんがね。」

コオロギの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
最適化スキルに活躍して欲しいと思ったのはこれが初めてだ。

「二つ目の用件は、この忘れものだ。」

そう言うとコオロギはパチンと指を鳴らした。
その途端にリリスの目の前に黒い靄が現われた。
靄の中に何かが見える。
その靄が徐々に薄れ、中からゴロっと人が転がるように出てきた。

カラフルな頭巾を被った褐色の肌の老人。
それはゴート族の賢者リクードだった。

「リクード様!」

思わず駆け寄ったリリスだが、リクードは意識を失っているようだ。

「その男もお前のスキルの暴走に巻き込まれてしまったのだよ。時空の歪の中を彷徨っていたのを見つけて救い出したのだ。」

「そうだったんですか。リクード様を助けて下さってありがとうございます。」

リリスはコオロギに深々と頭を下げた。

恐らくリクードはダンジョンの中で、リリスに近い場所に居たのだろう。
巨大なデュラハンと白龍の登場に驚いて、その様子を見に来ていたのかも知れない。

「過度に時空を移動させてしまったので、その負担で意識を失っているだけだ。魔力を流して起こしてやれ。」

そう言いながらコオロギは再びその場から消えていった。

リリスは改めてリクードの身体に魔力を流した。
その魔力が気付け薬となってリクードは意識を取り戻した。

「う~ん。ここは何処だ?」

リクードはそう言いながらリリスの顔を認識し、えっ!と驚きの声をあげた。

「儂は、戻って来れたのか?」

「ええ、そうですよ。とある方がリクード様を時空の歪の中から救い出してくれたのです。」

リリスはそう言うと、リクードをリクライニングチェアに案内した。
リビングルームには備え付けのウォーターサーバーがある。
そこから水をコップに取りリクードに手渡すと、リクードはそれを一気に飲み干した。
余程喉が渇いていたのだろう。
リクードの顔にも生気が戻って来た。

「リリス。儂は何が起きたのか未だに良く分からん。」

そう言うとリクードは少し間を置いて話を続けた。

「お前の存在がダンジョンの異常な状態を引き起こしている事は分かった。それで儂はお前達の居る階層を覗きに行ったのだ。だがそこに辿り着いた途端に時空の歪に巻き込まれてしまった。」

「幸いにも儂は空間魔法に長けているので、元に戻る手立てはそれなりに分かるのだが、今回巻き込まれた時空の歪は儂の知識と技量を遥かに超えた状態だったのだ。」

う~ん。
リクード様にまで迷惑を掛けちゃったのね。

リリスの心は申し訳なさで一杯になった。

「何が起きたのか、お前の知る範囲で教えてくれ。」

リクードの問い掛けに、リリスは一連の出来事を簡略に説明した。
リクードはリリスの話を聞きながら、幾度も感嘆の声をあげた。

「そもそもお前は超越者などと言う存在と、どうして縁を持っているのだ?」

「まあそれは成り行きで・・・」

リリスの返答にリクードはう~んと唸って考え込んだ。

「そう言う特殊な存在が関わらざるを得ないような事を、常日頃からお前が行なっていると言う事なのだろうな。」

「いえいえ。私はトラブルメーカーではありませんから・・・」

リリスは小声で反発した。
その言葉を耳にして、リクードはふうっと深いため息をついた。

「まあ、儂もこの通り無事なので、これ以上あれこれと言う必要も無いだろう。だがあのアルバと言う男は、あれほどに異常な時空の歪の中で、良く儂を見つけられたものだな。儂は時空の歪の中で、存在の位相自体がずれてしまっていたぞ。」

「位相がずれるって、どう言う事ですか?」

リリスの問い掛けにリクードはうむと頷いた。

「儂はあの時空の歪の中で一時的に異世界に飛ばされたのだ。だがその世界では儂の存在は正確には認識されていなかった。それ故に大勢の人の中に居ても儂の存在には誰も気が付かず、雑踏の中でも人々は儂の身体を擦り抜けて歩いているような状態だった。」

「その状態の儂を直ぐに見つけて救い出してくれたのが、あのアルバと言う男だ。」

そう言ってリクードは少し考え込んだ。

「それにしても・・・・・あそこは不思議な世界だった。あのような世界もあるのだな。そこでは金属と石材で造られた100mを超える建物が林立していたぞ。道には馬の無い鉄の馬車が高速で走っておった。」

「それと・・・あの世界の人々は女神信仰を持っていたようだ。港の先端に松明を掲げた巨大な女神の像が建っていたからな。」

うっ!
リクード様って何処に飛ばされたの?
ひょっとして・・・・・ニューヨーク?
どの年代かは分からないけど・・・。
もしかして元の世界とルートが繋がり易くなっているのかしら?

「まあいずれにしても、お前の持つ時空を飛翔するスキルは安易に発動させないでくれ。」

「それは大丈夫です。ロキ様によって発動制限を掛けられましたので・・・」

リリスの返答にリクードはう~んと唸った。

「いくら発動制限を掛けても、何かのはずみで発動してしまう事はあるだろうな。ましてお前の事だ。超越者の掛けた発動制限を嘲笑うかのように、いとも簡単に発動させてしまうのではないのか?」

「いやいや。いくら何でもそれは有りませんよ。」

そう言いながらもリリスの心の中には拭いきれない不安がある。
最適化スキルが余計な事をしなければ良いのだが・・・。

その不安を打ち消しつつ、リリスはリクードに軽く細胞励起を掛けた。

「おおっ! ありがたい。生き返ったような心地だ。」

リクードはそう言いながらしばらく寛ぎ、そろそろ帰ると言って空間魔法で消えていった。

その様子を見届けてリリスがリビングルームからベッドルームに戻ると、サリナはぐっすりと眠り込んでいた。
探知を掛けてサリナの身体に異常が無いか確かめた上で、リリスも着替えてベッドに入ろうとした。

だが突然、緊急連絡用の魔道具がピンピンと警告音を放ち始めた。

うん?
マキちゃんからだ。
こんな時間にどうしたの?

魔道具を取り出して、リリスはマキと連絡を取った。

「マキちゃん、どうしたの?」

リリスの問い掛けにしばらく沈黙が続き、マキからの声が聞こえてきた。

「リリスちゃん、ごめんね。急に呼び出して。でも少し様子がおかしいので、不安になって連絡したのよ。」

マキの声が上ずっている。

「何があったの?」

「それがねえ。以前から面会を予約されていた地方貴族のご夫婦に、30分ほど前に魂魄浄化を施したのよ。その直後から私の周りに不思議な情景が見え始めたのよね。」

「不思議な情景って?」

リリスの問い掛けにマキはふうっとため息をついた。

「今も私の周りに半透明の状態でうっすらと見えているのよ。車とかビル街とか飲食店とか・・・」

うん?
それって・・・。

「紗季さん!」

マキは急にリリスの元の名前を呼んでしまった。

「これって・・・私が召喚される前の風景ですよ。西新宿のオフィス街としか思えないんだもの。」

うっ!
どうしてマキちゃんにまで異変が・・・。

「それでマキちゃん。その地方貴族って誰なの?」

「クロード家の領主夫妻よ。領地はミラ王国北西端にあるらしいわ。」

あちゃ~!
マキちゃんったら、よりによってサリナのご両親に魂魄浄化を施したのね。

マキもまたリリスと同じように日本からの転移者だ。
魂魄浄化を通して、マキと元の世界からの転移者の子孫が過度に魔力を交えてしまった。

でもマキちゃんは異世界通行手形の様なスキルは持っていないわよ。
それでも時空の歪が生じているの?

幸いにも幻の様な情景がうっすらと見えているだけなので、リリスはミラ王国に帰国後直ぐに神殿に行くとマキに約束し、魔道具での通信を終わらせたのだった。















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