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しつこい男
しおりを挟む賠償請求で、マライア様をネブロス帝国第二皇子の婚約者に────?
「……王配になりたいということでしょうか?」
「うーん……それがねぇ、父親と息子で言ってる事が違うのよね。だからふざけてんのかと両陛下はお怒りなんだけど……」
え、──つまりどういうこと?
混乱していると父がため息を漏らして真相を話し出した。
「つまり、親子で思惑が違うんだ。第二皇子はマライア様が手に入るなら、王配でもなんでもいいと言っている。だが皇帝は賠償でマライア様をネブロス帝国に嫁がせろと言ってるんだよ」
「それ、要は女王制度を撤廃しろと言ってるんですよね?内政干渉じゃないですか」
「そうだ。だから私達はそうなるに至った情報を集めていたんだ。まあ、実に馬鹿馬鹿しい理由だったがな。さすが脳筋帝国といったところか」
どうやらネブロス帝国は内乱続きで軍事に国庫を注ぎ込みすぎて財政難に陥り、近隣国に借金までして回しているが、だんだん首が回らなくなっているらしい。
そこで目をつけたのが我が国で、女が治めている弱小国なら、簡単に属国にできるだろうと考えているのだとか。
「何で財政難だからってブランケンハイム王国を狙うの?」
「アイツらの目的はな、マライア様とウチの商会だよ。もっと平たく言えば、ブリジットとエゼルバートの作る魔道具の販売権が欲しいんだ」
「は?」
これには隣に座っていたエゼルも驚いていて、二人で顔を見合わせてしまう。
「貴方達のお陰で今じゃカーライル製の魔道具は世界的に有名だからね。エゼルが魔法陣を組んでいるから大量生産も可能になって輸出が増えたし、自国の経済成長に大きく貢献してるのよ。ネブロス帝国で販売権を持てれば大きな利益を得る事ができるし、マライア様を嫁がせて人質に取れば、あちらに有利な販売契約を結ぶ事もできるでしょう?」
「何それ、結局お金じゃない!女と金を寄越せって遠回しに言ってるだけじゃない」
「そういうこと。そもそも、この賠償請求のきっかけになった公爵令嬢の件だって、皇子がブランケンハイム王国に瑕疵を作るために引き起こした事件だしね」
まさか────、
「マライア様を手に入れる為に公爵令嬢が邪魔だから、婚約者の資格がなくなるように仕向けたってこと?」
よく考えれば、公爵令嬢で皇子の婚約者が、簡単に国を出て他国に旅行に行けること事態がおかしいわ。
裏で皇族が動いていたなら納得できる。
しかもその責任をブランケンハイム王国に被せて賠償請求するなんて、なんて性根の腐った男なのよ……っ。
「なかなかのクズでしょう?まあ、帝国の騎士団長を務めるくらいだから、あの国では優れた策略家なんでしょうけど、私達から見れば素人の雑魚だったわね」
「逆に利用して、王国のゴミの選別に役に立ってもらったから、むしろ俺達の仕事を手伝ってくれた皇子には感謝したいくらいだな」
はっはっはっ~。と高笑いする両親は流石というか、怖いというか……。
どうやらこのままいけば、かなりの数の貴族が粛正されるらしい。
仮面舞踏会は合法な出会いの場といっても、まともな貴族なら参加しない。
結局は、肉欲に溺れる事を目的とした男女が出会いを求めて参加する会なので、男女共に後ろ暗い事情がある為、一概に女性が被害者とは言い切れないのだとか。
媚薬の売買に関しても、中毒性があるといっても定期的に何度も常用しなければ中毒症状は起こらないらしく、結局は女性側も情事を楽しむ為に進んで服用していたということになる。
だから誰も被害届を出さない。
事実を明らかにされては困るからだ。
「第二皇子はなんでそんな事件まで起こしてマライア様にこだわっているの?王配になってこの国を乗っ取りたいとか?」
確か次期皇帝の座を巡って家臣達の間で後継者争いも起こってるって聞いたことがある。
争いを避ける為に王配になりたいとか?
「皇子は何年か前に外遊で我が国に訪れた時に、女性騎士達と訓練をしているマライア様に一目惚れしたみたいでね。それから何度も婚約の打診をしているけど、マライア様は皇子のこと嫌いらしくてずっと断っているのよ。それでも全然諦めないの。しつこい男よね」
「第2皇子は女癖が悪いと評判だからな。戦好きだからか、性欲が旺盛らしい。そんな男を王配なんかに出来るわけがない」
お父様が呆れたようにつぶやく。
「は?国内の政争を避けるためとか、外交が絡んでるとかではなく?ただ女の尻を追っかけてやらかしたってこと?」
両親が頷いたのを見て、改めて両陛下がブチ切れた理由を察した。
第二皇子ってバカなの──?
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