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誰にも渡さない side エゼルバート
しおりを挟む気をやったブリジットが、ビクビクと体を跳ねさせながら俺にもたれ掛かる。
好きな女が自分の手で乱れる姿に、欲を煽られて頭の芯がが焼き切れそうだ。
「愛してるわ。エゼル」
俺の想いに応えようとしてくれるブリジットが可愛くて、愛しくて、胸の奥に切ない痛みが込み上げる。
愛してる。
俺も愛してる。
気が狂いそうなほど、お前が欲しい。
愛し過ぎて泣けてくる想いは、きっとブリジットにしか抱けない。
『ドレイク家の男の愛は重い』
俺の家をよく知る貴族たちは、良くも悪くもそう認識している。
それは祖先達が繰り広げた恋愛劇が、社交界でひっそりと語り継がれてきたからに他ならない。
高魔力保持者の血族ゆえなのかわからないが、ドレイク家の血を受け継ぐ男達には、運命の相手のような者がいる。
理由はわからないが、昔からドレイク家の男が愛する女は生涯一人だけなのだ。
その相手以外の女には、まったく食指が動かない。そしてその愛情も深く、執着が恐ろしいほどに強い。
それは、愛し合う男女なら美談となり、そうじゃない場合は────悲劇だ。
その数々の恋愛劇は密やかに、他の貴族達にも知られている。今代の父や兄達は、運良く相思相愛の相手を見つけられただけ。
──それだけ、ドレイク公爵家は権力的にも性質も、厄介な魔術師の一族と言われている。
俺はドレイク家の落ちこぼれで、並みの魔力量しか持たない。だからドレイク家特有の欲求はないと思っていた。
イアンとブリジットの姿を見るのは、嫉妬に苦しみ、身を切られるような想いだったが、ブリジットが幸せになるなら、相手が俺でなくともそれでいい。我慢できる。
二人の姿を見るのがどうにも耐えられなくなったら、側を離れよう。──そう思っていた。
でも今はもう────無理だ。
もしそれが一時のことだとしても、一度でも想いを返されたら、その熱に触れてしまえば、──もう手放せない。
「もうお前は俺のものだ、ブリジット」
イアンにも、亮介にも、他の誰にも、絶対渡さない。
「ブリジット……俺と結婚してほしい」
「──うん」
────絶対に、逃がさない。
そして俺はまた、ブリジットに口付け、その身に俺の印を刻みつけた。
◇◇◇◇
求婚の返事をもらった俺は、ブリジットと共に当主の執務室へ向かった。
「──そう、答えが出たのね」
「「はい」」
「エゼルバート。ウチが王家の影だと知って婿入りするということは、命を預けるという事だけど、覚悟は出来てるのよね?」
王家の影の当主として、ダイアナ様が厳しい目で俺を見据える。
「そんなもの、俺はとっくの昔にブリジットに命を預けてますよ」
「そうね。魔法契約を交わしているものね。でも私が言っているのはそういう意味じゃない。ただの魔道具師とブリジットの夫では立場も求める役割も違う。貴方はいざという時、ドレイク家と戦う覚悟はあるの?」
……つまり、ブリジットの夫になるならカーライルと王家に忠誠を誓い、いざという時はドレイク家を切り捨てろということか──。
たとえ俺の母がダイアナ様の従姉妹だとしても、王家の影の当主として、国のために必要となれば、ドレイク家の者だろうが消すということだ。
──お前はそれを黙って見ていられるのか?
無表情のダイアナ様の瞳が、俺の覚悟を見定めている。
「エゼル……」
心許ない小さな声が聞こえて隣に視線を向けると、不安に揺れる瞳がこちらを見ていた。
「大丈夫だ。俺は一生お前を支えるって言っただろ?」
「でも……」
「それに、ウチの一族がやらかすとしたら愛する者と拗れた時だ。その時は俺が黙らせるから問題ない」
「あら、兄たちに及ばない魔力をコンプレックスにしてた貴方に、それができるの?」
「出来ますよ」
そう言って俺は右手に嵌めた腕輪を見せた。
俺が作った、魔力増幅装置。
これのおかげで、俺は兄達と同じ最上級魔法まで使えるようになった。
「俺、天才魔道具師なんで。ブリジットを守る為ならどんな殺戮兵器だろうが作ってみせますよ」
魔術師としては及ばなくても、新しい魔法を生み出す能力なら誰にも負けない。
ブリジットが見つけてくれた、俺だけの力だから。
にっこり笑いながらダイアナ様に返すと、隣から「ひい!」と悲鳴が上がった。
「恐ろしいこと言わないでよ!ヤンデレ!?エゼルはヤンデレなの!?」
「ヤンデレって何だ?」
「絶対にそんな危険物作らないでよ!」
「でも影に暗器は必要だろ」
「あら、いいわね。エゼルが作る暗器なら痕跡を残さず仕留める事も可能になるかしら?魔術師を対象とした場合の暗器もほしいところだったのよ」
「今、魔力封じの魔法陣を開発中なんで、応用すれば魔力痕跡を消す事も理論上は可能かと」
「まあ素敵!それ、絶対他所で話してはダメよ」
「俺はカーライル専属の魔道具師ですよ」
「ちょっと!話ズレてる!なんで婚約話が暗器雑談になってるの!?」
「ふふふっ」
娘を優しい笑みで見つめるダイアナ様の前に、俺は膝を付いて頭を下げた。
「エゼルバート・ドレイクは、王家とカーライルに忠誠を、そしてブリジット・カーライルに、永遠の愛を誓います」
「え、エゼル……!?」
「どうか、結婚をお許しください」
「……」
部屋が静寂に包まれる。
そして────、
「顔を上げなさい、エゼルバート」
ダイアナ様の命に従い、顔を上げた。
真っ直ぐに当主の顔を見る。
そこにいたのは当主の顔ではなく、一人の母親の顔だった。
「やっぱり貴方もドレイクの男ね。その想いには負けたわ。王家の影としてはいろいろあるけれど、ブリジットの母として言える事は一つだけ」
目の前に、手を差し出される。
「どうか私達の大事な娘を、守って。そして、幸せにしてあげて」
これからきっと、ブリジットは当主としていろいろな事を背負い、その重圧に苛まれるだろう。
主と国の為に、手を血に染めることも避けられない。
それはブリジットも覚悟している。
それなら俺は、その重圧も、罪も、全部一緒に背負ってやる。もし、ブリジットが堕ちてしまった時は──、
俺も一緒に、堕ちてやるさ。
俺はもう、ブリジット無しでは生きていけないんだから。
「ええ、必ず」
握手に応えながら、そう誓った。
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新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします(^ ^)
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