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新たな真実
しおりを挟む「──イアン。もう、香澄はどこにもいないの。彼女は死んだのよ。私は今、ブリジットとして生きているの」
「────……ああ、わかってる」
イアンは俯いたまま顔を上げない。
両手は掛け布を握りしめたまま小さく震えていた。
「そして貴方も亮介ではなく、イアンなのよ。だから、これからはイアンとしての人生を歩んで欲しい。もう貴方を苦しめたあの母親は、二度と貴方の人生を邪魔することはないわ」
「……ああ」
「──……最後に教えて?本当のイアンは、私の事をどう思ってた?」
私のその問いに、イアンがゆっくりと顔を上げる。
焦がれるような恋情の篭った瞳が、私を強く捉えた。
「──好きだったよ。初恋だった。今でも愛してるよ…っ。だからブリジットが俺を男として見てくれない事がだんだん辛くなった。母上の事を知られるのが怖かった。歪んだ本当の俺を知られて、嫌われるのが怖かった…っ。辛くて苦しくて……デイジーに逃げたんだ」
「──……そう。教えてくれてありがとう。私も、イアンを愛してたわ」
「でも男女の愛じゃない。ブリジットには、香澄だった頃の熱量は一切感じられなかった。俺はいつまでたっても弟のような存在だった」
「……ごめんなさい」
「──……いいんだ。結局、自爆した俺が悪い。それに……昔から、君達2人の間に入り込める気はしてなかったから」
「え?」
イアンが私とエゼルを見比べて、肩をすくめた。
「ブリジットは全く気づいてなかったけど、子供の頃からソイツ、嫉妬で俺に殺気送りまくってたからね。それはもう悪鬼のごとく」
イアンがエゼルを呆れた様子で指さした。
──え? そんなに前からイアンに突っかかってたの?
私がエゼルを見ると、バツが悪そうにすぐに視線を逸らした。
「俺はソイツにいつブリジットを盗られるか気が気じゃなかったよ。ブリジットが俺だけじゃなく、ソイツの事も全く男として見てなかったからやり過ごせたけど」
「おい、俺は一応公爵令息だぞ。ソイツ呼ばわりすんな」
「負け犬の遠吠えだと思って見逃してよ」
────私、どれだけ鈍いの?
イアンでさえ、エゼルの気持ちに気づいてたんだ…。
「辛いけど……、でもブリジットの選んだ男がそこの公爵令息なら、納得できるかも」
苦しそうな、切ない表情で呟いたイアンの声が、部屋に響いた。
裏切りを知った時は怒りに震えて破滅させようとしたけど、今はもうイアンを恨んでいない。
亮介のこと、そしてイアンの今までの人生を振り返ると、今はただ、新しい人生の中で幸せを見つけてほしいと思っている。
亮介として一緒に過ごした日々も、イアンとして一緒に過ごした日々も、彼の想いは嘘ではなかった。
それを知れただけで、過去の私が救われた気がする。
私はちゃんと、愛されてた。
そして今世では両親にも、エゼルにも愛されてる。
「イアン、私、ブリジットに生まれ変わって幸せよ」
「──そうか。良かった」
イアンが泣きそうな声で答え、眩しそうに目を細めた。
「最後に一つだけ……。ブリジット、考えすぎかもしれないけど、デイジーには気をつけてほしい」
「デイジー?」
なぜ突然彼女の名前が──?
気をつけてとはどういう事だろうか?
「多分……デイジーはあの女の生まれ変わりだ」
────は?
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