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前世の記憶②
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*病名について一応調べて書いてますが、医療知識に乏しい素人が書いてるのでふんわりさせてます…。難しくてふんわりしか書けなかった(;´Д`A
なので皆さんもふんわりサラッと読んでもらえたらと思います。
────────────────────────
目の前が真っ暗になった。
子宮頚がん──。
ここ最近体調が悪いのは、多忙な生活で疲れが取れていないからだと思ってた。
生理不順だと思っていたのは、仕事による不規則な生活やストレスでホルモンバランスが崩れているのだと思ってた……。
それが全部病気の兆候だったなんて────。
早急に入院する事を勧められた。
全然実感が湧かなかったが、がんだと言われれば医師の指示に従うしかない。
ふわふわとした頭で入院準備を進めているところに、あの女が私の目の前にやって来た。
リビングで下品な嬌声を上げていた女。
よく見れば、彼女は役員秘書の1人だった。
つまり、亮介の下についているのだろう。
商品開発部門のトップである私の執務室に堂々と入り、亮介との離婚を迫って来た。
そして、私を打ちのめす亮介との繋がりを見せた。
スマホに写った家族写真。
目の前の女と亮介がいた。
そして2人の間には────亮介に良く似た少年が1人。
『私達、同郷なんです。中学の頃から付き合っていたの。それなのに、大学に入ったら突然別れを告げられた。何故だかわかります?』
目の前の女が鋭い視線で私を睨みつけた。
『貴女よ……、貴女が私から亮介を奪ったのよ!』
ガツンと鈍器で頭を殴られた衝撃が走る。
彼女の話を聞いて、目の前のスマホの家族写真と亮介との思い出が交差して、一つの真実が見えて来る。
スマホに写る夫そっくりの少年は、どうみても高校生くらいに見えた。それは私と亮介が一緒にいた時間と重なる。
つまり夫は、ずっと自分を裏切っていたのか────。
『貴女のせいで亮介がまた別れるって言い出した!もうすぐ息子の受験なのに!実の息子なのに貴女がいるせいで認知してもらえないじゃない!返してよ!私の亮介を返してよー!!』
『……わかりました。お返しします』
『え?』
『亮介とは離婚します』
もう、何も信じられない。
浮気、がんの告知、隠し子の存在。
それらは私の生きる気力を奪うには十分だった。
彼女と子供がいるのに、なんで彼は私と結婚したのだろう。──父の会社が目当てだったのだろうか。
所詮彼も、下心で私に近づいた男の1人だったのだろうか──。
そこからまた記憶があやふやだ。
生きる気力もないのに、苦しい闘病生活は更に私の心を抉っていった。
ただ一度だけ、病室に亮介が来た事がある。
浮気と隠し子の存在がバレた彼は、両親の怒りを買って会社から追い出され、私との離婚を迫られていた。
『いやだ……っ、香澄。別れたくない。お前を愛してるんだよ!頼むから俺を捨てないでくれ』
そう言って私に泣き縋ったけど、何も響かなかった。
『俺がお前を支える。だから一緒に病気を治そう?』
『貴方には子供と新しい奥さんになる人がいるでしょう?』
『あんな誰とでも寝る女なんかと結婚なんかするか!俺の妻は生涯香澄だけだ!!』
そして夫は私の腰にしがみ付き、声を出して泣いた。
ずっと、あの女に脅されていたのだと言う。
大学に進学して遠距離になってから、あの女が地元で浮気三昧だったのを知っていて、自然消滅を狙っている時に私と出会い、恋に落ちた。
そして私と付き合う前に再び接触してきた彼女ときちんとケジメをつけるために別れ話をしたところ、最後に抱けば別れると言われて抱いたのだと──。
夫はそれで終わったつもりでいた。
でも、それは始まりにすぎなかった。
あのスマホに写っていた彼は、その時の子なのだろう。
ずっと彼の存在を私にバラすと脅され、職を斡旋し、金銭的な援助を求められ、あの女を拒絶出来なかったらしい。
どうしても私を失いたくなかったのだと彼は言った。
『でも、リビングで彼女を抱いている時の貴方は、欲に溺れていたように見えたけど』
『ちがう!そんなんじゃないんだよ!信じてくれ……俺が愛してるのは本当に香澄1人だけだ!だから君の両親に反対されても、香澄を攫ってでも一緒になりたかった。それぐらい好きなんだよ……っ』
いっそあの頃に、どこか遠くに攫ってくれたら良かったのかもしれない。
でも、もう無理なのだ。
全部、何もかも壊れてしまった。
それが虚しくて、悲しくて、涙が出た。
『どんな経緯であれ、貴方は父親なのよ。責任をちゃんと取らなきゃ。もうここには来ないで』
『香澄!?』
『離婚届に早くサインしてね』
『嫌だ!!俺は離婚したくないって言ってるだろう!』
その後、亮介は看護師と先生に締め出され、出入り禁止にしたのでそれが最後の面会となった。
両親は弁護士を入れて亮介を追い込み、3ヶ月後には離婚が成立した。
そこからは、ただ治療が辛かった記憶しかない。
気づいたらブリジットとして赤ちゃんになってたから、私はあのまま病気で死んでしまったのだろう。
何度も前の人生を憂いた。
何度も繰り返し、夢に見て魘された。
何がダメだったのか──。
全部ダメだったのか──。
何度考えても、あの時どうすればよかったのかわからない。どう転んでも、幸せになる道が見えない。
亮介との時間が全部ニセモノになったみたいで、思い出が真っ黒に塗りつぶされていく。
記憶が鮮明すぎて、ずっと囚われていた。
前世と今世の境界が曖昧になっていたと思う。
そうして私は、誰かに心を預けるのが怖くなった。
だから商会の仕事に没頭した。
仕事している時は忘れられるから。
「────エゼルの想いを信じるのが怖い。また傷つくのが怖い。失うのが……怖い。ごめんね……弱くて」
ポロポロと、心の奥底にしまっていた不安が溢れ出す。
すると、エゼルがギュッと私を抱きしめる腕に力を込めた。
「──その前世の夫を炎魔法で骨も残らず燃やしたい」
「何言ってるの」
「俺のブリジットを傷つけた。万死に値する」
「私じゃないから。前世の話だから……」
「それでも、ブリジットはイアンと関わるたびにその記憶で傷ついてただろ」
「…………前世の話なんて荒唐無稽な話、信じるの?」
「ブリジットの言うことなら信じるよ。お前は昔から変な言葉や知識を持ってたしな。カーライル商会で作った商品も全部前世の知識だろ?」
「うん」
「じゃあ、それは尊い知識だ。国の発展に繋がったし、何より俺はその知識に救われた」
救った──?
私がエゼルを?
何の事かわからず首を傾げると、楽しげに笑って私の額にキスを落とした。
「魔術師としては落ちこぼれの、泣き虫で引き篭もりのガキを、外に連れ出してくれただろ」
「あ……」
コツンとエゼルが額同士を合わせた。
至近距離で見える金色の瞳に囚われる。
「安心しろ。俺が嫌な記憶全部吹き飛ばしてやるから。お前は素直に俺に愛されてろ」
いつか、あの悲しい記憶を忘れられる日が来るのだろうか──。
閉じた瞼に、温かくて柔らかい感触が降りてくる。
そして、私の涙を舐め取った。
びっくりして顔を上げると、そのまま口付けられ、私は抵抗もせずその熱を受け入れた。
もう、忘れたい。
何も考えずに、ただ素直に、
エゼルのことを愛したい────。
なので皆さんもふんわりサラッと読んでもらえたらと思います。
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目の前が真っ暗になった。
子宮頚がん──。
ここ最近体調が悪いのは、多忙な生活で疲れが取れていないからだと思ってた。
生理不順だと思っていたのは、仕事による不規則な生活やストレスでホルモンバランスが崩れているのだと思ってた……。
それが全部病気の兆候だったなんて────。
早急に入院する事を勧められた。
全然実感が湧かなかったが、がんだと言われれば医師の指示に従うしかない。
ふわふわとした頭で入院準備を進めているところに、あの女が私の目の前にやって来た。
リビングで下品な嬌声を上げていた女。
よく見れば、彼女は役員秘書の1人だった。
つまり、亮介の下についているのだろう。
商品開発部門のトップである私の執務室に堂々と入り、亮介との離婚を迫って来た。
そして、私を打ちのめす亮介との繋がりを見せた。
スマホに写った家族写真。
目の前の女と亮介がいた。
そして2人の間には────亮介に良く似た少年が1人。
『私達、同郷なんです。中学の頃から付き合っていたの。それなのに、大学に入ったら突然別れを告げられた。何故だかわかります?』
目の前の女が鋭い視線で私を睨みつけた。
『貴女よ……、貴女が私から亮介を奪ったのよ!』
ガツンと鈍器で頭を殴られた衝撃が走る。
彼女の話を聞いて、目の前のスマホの家族写真と亮介との思い出が交差して、一つの真実が見えて来る。
スマホに写る夫そっくりの少年は、どうみても高校生くらいに見えた。それは私と亮介が一緒にいた時間と重なる。
つまり夫は、ずっと自分を裏切っていたのか────。
『貴女のせいで亮介がまた別れるって言い出した!もうすぐ息子の受験なのに!実の息子なのに貴女がいるせいで認知してもらえないじゃない!返してよ!私の亮介を返してよー!!』
『……わかりました。お返しします』
『え?』
『亮介とは離婚します』
もう、何も信じられない。
浮気、がんの告知、隠し子の存在。
それらは私の生きる気力を奪うには十分だった。
彼女と子供がいるのに、なんで彼は私と結婚したのだろう。──父の会社が目当てだったのだろうか。
所詮彼も、下心で私に近づいた男の1人だったのだろうか──。
そこからまた記憶があやふやだ。
生きる気力もないのに、苦しい闘病生活は更に私の心を抉っていった。
ただ一度だけ、病室に亮介が来た事がある。
浮気と隠し子の存在がバレた彼は、両親の怒りを買って会社から追い出され、私との離婚を迫られていた。
『いやだ……っ、香澄。別れたくない。お前を愛してるんだよ!頼むから俺を捨てないでくれ』
そう言って私に泣き縋ったけど、何も響かなかった。
『俺がお前を支える。だから一緒に病気を治そう?』
『貴方には子供と新しい奥さんになる人がいるでしょう?』
『あんな誰とでも寝る女なんかと結婚なんかするか!俺の妻は生涯香澄だけだ!!』
そして夫は私の腰にしがみ付き、声を出して泣いた。
ずっと、あの女に脅されていたのだと言う。
大学に進学して遠距離になってから、あの女が地元で浮気三昧だったのを知っていて、自然消滅を狙っている時に私と出会い、恋に落ちた。
そして私と付き合う前に再び接触してきた彼女ときちんとケジメをつけるために別れ話をしたところ、最後に抱けば別れると言われて抱いたのだと──。
夫はそれで終わったつもりでいた。
でも、それは始まりにすぎなかった。
あのスマホに写っていた彼は、その時の子なのだろう。
ずっと彼の存在を私にバラすと脅され、職を斡旋し、金銭的な援助を求められ、あの女を拒絶出来なかったらしい。
どうしても私を失いたくなかったのだと彼は言った。
『でも、リビングで彼女を抱いている時の貴方は、欲に溺れていたように見えたけど』
『ちがう!そんなんじゃないんだよ!信じてくれ……俺が愛してるのは本当に香澄1人だけだ!だから君の両親に反対されても、香澄を攫ってでも一緒になりたかった。それぐらい好きなんだよ……っ』
いっそあの頃に、どこか遠くに攫ってくれたら良かったのかもしれない。
でも、もう無理なのだ。
全部、何もかも壊れてしまった。
それが虚しくて、悲しくて、涙が出た。
『どんな経緯であれ、貴方は父親なのよ。責任をちゃんと取らなきゃ。もうここには来ないで』
『香澄!?』
『離婚届に早くサインしてね』
『嫌だ!!俺は離婚したくないって言ってるだろう!』
その後、亮介は看護師と先生に締め出され、出入り禁止にしたのでそれが最後の面会となった。
両親は弁護士を入れて亮介を追い込み、3ヶ月後には離婚が成立した。
そこからは、ただ治療が辛かった記憶しかない。
気づいたらブリジットとして赤ちゃんになってたから、私はあのまま病気で死んでしまったのだろう。
何度も前の人生を憂いた。
何度も繰り返し、夢に見て魘された。
何がダメだったのか──。
全部ダメだったのか──。
何度考えても、あの時どうすればよかったのかわからない。どう転んでも、幸せになる道が見えない。
亮介との時間が全部ニセモノになったみたいで、思い出が真っ黒に塗りつぶされていく。
記憶が鮮明すぎて、ずっと囚われていた。
前世と今世の境界が曖昧になっていたと思う。
そうして私は、誰かに心を預けるのが怖くなった。
だから商会の仕事に没頭した。
仕事している時は忘れられるから。
「────エゼルの想いを信じるのが怖い。また傷つくのが怖い。失うのが……怖い。ごめんね……弱くて」
ポロポロと、心の奥底にしまっていた不安が溢れ出す。
すると、エゼルがギュッと私を抱きしめる腕に力を込めた。
「──その前世の夫を炎魔法で骨も残らず燃やしたい」
「何言ってるの」
「俺のブリジットを傷つけた。万死に値する」
「私じゃないから。前世の話だから……」
「それでも、ブリジットはイアンと関わるたびにその記憶で傷ついてただろ」
「…………前世の話なんて荒唐無稽な話、信じるの?」
「ブリジットの言うことなら信じるよ。お前は昔から変な言葉や知識を持ってたしな。カーライル商会で作った商品も全部前世の知識だろ?」
「うん」
「じゃあ、それは尊い知識だ。国の発展に繋がったし、何より俺はその知識に救われた」
救った──?
私がエゼルを?
何の事かわからず首を傾げると、楽しげに笑って私の額にキスを落とした。
「魔術師としては落ちこぼれの、泣き虫で引き篭もりのガキを、外に連れ出してくれただろ」
「あ……」
コツンとエゼルが額同士を合わせた。
至近距離で見える金色の瞳に囚われる。
「安心しろ。俺が嫌な記憶全部吹き飛ばしてやるから。お前は素直に俺に愛されてろ」
いつか、あの悲しい記憶を忘れられる日が来るのだろうか──。
閉じた瞼に、温かくて柔らかい感触が降りてくる。
そして、私の涙を舐め取った。
びっくりして顔を上げると、そのまま口付けられ、私は抵抗もせずその熱を受け入れた。
もう、忘れたい。
何も考えずに、ただ素直に、
エゼルのことを愛したい────。
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