37 / 63
前世の記憶① *微R18
しおりを挟む*少し内容を修正したのでブリジットの前世の年齢の記述を消しました。
それから前世の記憶持ちの記述を登場人物紹介に書いて、1話に書いていないという痛恨のミスをやらかしたので、1話を改稿しております。申し訳ありませぬ(泣)
───────────────────────
私の前世は、一宮香澄という商社の社長令嬢だった。
一人娘だったから、跡取りとして厳しく育てられて、交友関係も親に管理されるような箱入り娘。
私は父のように商才があるわけじゃなかったから、期待に応えるには寝る間も惜しんで学ばないといけなくて、息がつまる毎日を過ごしていた。
大学も経済学を学んで少しでも会社に貢献出来るよう、勉強ばかりしていたと思う。
私はとても疲れていた。でも努力を辞めたら期待に応えられない。そしたら皆に幻滅されてしまう。そんな強迫観念に苛まれて、どんどん自分の首が絞まっていく。
そんな時に、前世の夫である朝倉亮介に出会ったのだ。
図書館で論文の調べ物をしてる時に、彼も同じデスクで学んでいたのがきっかけだった。
『あ…それ……』
『……?』
『あ……ごめん。その著者の本、いつ頃返却されるかな?俺もレポートにその経済学者の本を参考にしたくて、返却されるの待ってたんだ』
『えっ、そうだったんですか!すみませんっ、今調べてるのが終わったら返すつもりです。もうすぐ終わるんで今日返しますね』
『いや、こちらこそ急かしてごめん。じゃあこの時間だけ、今読んでない方の本を借りれないかな?』
『どうぞ』
『ありがとう』
彼の素朴な笑顔に好感を持った。
社長令嬢の私に近づいてくる男の人は、下心が透けて見える人ばかりで、怖くていつも図書館に逃げ込んで勉強していた。
でも彼からはそういった欲は一切感じられなくて、とても話しやすかった。
その会話がきっかけで、図書館で会うたびに話すようになり、同じ経済学部だったので一緒に勉強もするようになって、2人の距離は次第に近づいていった。
彼はとても優秀で、努力家で、いつか起業するのが夢だとキラキラした笑顔で私に語った。
そんな彼に、私は恋をしてしまった。
そして彼も、私を好きになってくれた。
嬉しくて、幸せで、
彼の夢は、いつしか2人の夢へと変化した。
でも、私達の事を両親は認めてくれなかった。
取引会社の息子との縁談を進めていたからだ。
私と彼は必死に両親を説得した。
母はだんだん話を聞いてくれるようになったけど、父は取り付く島もなくて、許してくれないなら私を勘当してくれと詰め寄ってしまった事もある。
私達と父の攻防がしばらく続き、ついに父は折れた。
でも、結婚までは許してもらえなかった。
結婚を許す条件は一つだけ。
彼が父の会社に入り、お見合い結婚で得られるはずだった利益と同等のものを会社に残す事──。
それが私と彼に課せられた試練。
私は彼に夢を諦めさせてしまった事が申し訳なくて、辛くて、何度も彼に謝った。でも彼は責める事なく私を抱き締めて、
『いいんだ。香澄と別れる事の方が俺は耐えられない。それに君のお父さんの会社は業界大手の商社だ。そこでしか得られないノウハウを身につけられるチャンスだと俺は思ってるよ』
彼はまた、あのキラキラした笑顔で未来を語った。
夢はまだ諦めていないと。
夢の形は変わってしまったけど、父の会社で経験を積んで、起業したらやりたかった事をやる。そして結果を出して、2人の結婚を認めてもらえるように頑張ろうと言ってくれた。
『愛してるよ、香澄』
『私も亮介を愛してる』
こんなに素敵な人、この先きっと出会えない。
あの頃は本気でそう思っていた。
彼はやはり優秀で、入社後に着々と結果を出して出世していった。私も違う部署で働き、2人で支え合って名実ともに父に認めてもらう事ができた。
そして30歳になった時に私達は結婚した。
仕事も結婚生活も順調で、とても幸せだった。
この人と生涯添い遂げる。
そう思っていたのに、その幸せは長くは続かなかった。
ある日突然、終わりを告げた────。
『あっ、あっ、ああっ……亮っ、気持ちいい!すごくイイ!もうイキそう……っ、もっと奥突いて!』
『はあっ、いいよ。突いてやるからイッて。ほらっ、イけよ!……イけ!』
リビングから激しく肉を打つ音と女の嬌声、そして夫の艶めいた吐息が聞こえ、私は玄関で立ち尽くした。
『ああーっ、気持ちいいっ。ああっ、あんっ、激し…っ、すごくイイ! あああーっ、もうダメ!イク!イクー!』
『あー、締まる…っ!イく…っ、俺もイク……っ』
2人の嬌声が重なり、同時に果てたのか、激しい息づかいがこちらまで聞こえてきた。
喉が渇いて、声が出ない。
膝が震えて、動かせない。
足の裏が地面に張り付いてしまったように、私はその場から一歩も動けなくなった。
そして信じられない言葉を耳にする。
『ねえ、奥さん出張で帰るの明日なんでしょ?今日泊まっていってもいい?久しぶりに亮とゆっくり過ごしたい。それに、まだ亮が足りないの。奥さんが帰るまでいっぱいシよ?……ねえ、いいでしょ?』
『……ああ。いいよ』
『嬉しい亮介!愛してる!ねえ、亮介は?』
『俺も愛してるよ』
そしてまた、2人の睦み会う音が聞こえてきた。
そこからはもう、よく覚えていない。
気づいたら、会社にいた。
当時も覚えていなかったのだから、生まれ変わった今も思い出すわけがない。
ただ、出張帰りの荷物を玄関に置いたまま家を出たので、私がその現場に居たことはすぐに亮介の知るところとなった。
私はその日から、亮介に会わなかった。
携帯はブロックし、社内電話の時は仕事以外の話をしたら即切って、社内メールは業務連絡以外は無視した。
彼に居場所を突き止められないようにビジネスホテルを転々として、2人の家にも帰らなかった。
お互い管理職で多忙だったのが幸いして、亮介のスケジュールを流してもらい、徹底的に避けたのだ。
まさか、こんな事で社長令嬢の権力を使うとは思わず、情けなくて泣いたのを覚えている。
亮介に会うのが怖い。
これからどうするのか決めるのも怖い。
身動きが取れなくておかしくなりそうな私に、更なる仕打ちが待っていた。
激務とストレスで荒れた生活が続いたせいか、体調が悪くなり、不正出血が続いた。
会社の産業医にすぐに検査に行く事を勧められ、病院に行ったその日、私の生活が一転する。
『一宮さん、検査結果が出ました。……貴女の体調不良の原因は、子宮頚がんによるものです』
237
お気に入りに追加
2,512
あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる