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憐れな女の恋の結末

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私はエゼルや母から受け取った過去見の魔道具を取り出し、彼女の罪を映画のように牢の石壁に映した。


「な……にこれ……、何で……何で‼︎」



先程まで悪態をついていた女が、映像を見て青褪め、狼狽え始める。



目の前に彼女の学生の頃の様子が映し出されていた。

一人の男が必死に女から逃れようとしているが、具合が悪いのか息切れを起こしながら部屋を這いつくばっている場面。

だが、抵抗も空しく女に捕まり、無理やり体を奪われた。そしてタガが外れたかのように男女はもつれ合う。

男は明らかに正気ではない。


イアンは伯父と母親が愛し合い、不倫関係にあると思っているけど、真実は違う。

真実は、伯爵家に後継者候補として養子に引き取られた義兄に、この女が一目惚れした事から始まった。

その時は既にハネス伯爵家と婚約が結ばれていたにも関わらず、この女は媚薬を使って彼をレイプしたのだ。

それが全ての始まり────。


愛し合ってなんかいなかった。イアンの伯父はこの女にずっと脅されて憎んでいたのだから。



「これを見ても冤罪だと言うのかい?大人しそうな顔して、貴女はやる事がとても大胆だよね?未成年が媚薬を用いるのは法で禁じられているのに使っちゃってるからね。しかも血は繋がらないとはいえ、書類上では兄妹にも関わらず強姦するとは……この時点で禁止薬物の使用及び強姦罪が適用されるわけだけど、これでも冤罪だと喚くのかな?」

「何で……なんで……え……?」



昔の自分の映像を見て彼女は顔面蒼白どころか血の気が引いて白くなっている。


まさか過去の自分をこうして映像で見るとは考えもしなかったのだろう。これは影の魔道具だから一般には出回っていないし、高魔力保持者の中でも高スキルの者しか扱えない道具だ。

そんな魔道具が存在している事を知らない彼女はいくらでも言い逃れ出来ると思っていたのだろう。王家の命令で捕らえられたというのに、舐めているにも程がある。



映像はそのまま止まらず、嫌がる彼と関係を持ち、愛人関係を結ぶ事を強要している彼女が映っている。養子である事を利用し、自分を拒否すれば今後得られる立場を失うと脅迫し続けていた。


「おやおや、脅迫罪も追加だねぇ」

「嘘……嘘よこんなの……何で映ってるの⁉︎どうなってるのよコレ⁉︎」



映像が進むに連れ、義兄の表情が死んでいくのが見て取れる。閨で愛の言葉を求め、無理矢理言わせたところで彼女は満たされたのだろうか?

マライア様が言うように、夫人は一見大人しく、夫の後ろを歩く慎ましやかな雰囲気を纏っている。

人目を引く容姿ではないが、悪いわけでもない。つまり前世でいうところのモブキャラによくいそうなタイプだ。


反対に義兄の方は誰もが美形と認めるであろう容姿をしており、彼女にとっては王子様に見えたに違いない。

その甘い顔立ちはイアンによく似ていた。


そんな男性が一つ屋根の下、手の届く距離に来てしまったから、欲しくなってしまったのだろうか。だとしてもやり方がえげつない。


場面は変わり、義兄の婚約で発狂している彼女が映った。髪を振り乱して彼に襲いかかろうとしているが、振り払われる。

長年の鬱憤が溜まったのか、彼は爆発したかのように彼女に怒りを露わにした。脅されても婚約者と別れる事に首を縦に振らず、むしろ婚約者の為なら立場を捨ててもいいと彼女の要請を却下したのだ。



『イアンは貴方の子なのよ!あの子の事も捨てる気なの⁉︎』

『捨てるも何も、私はあの子を認知していないし、戸籍上はハネス伯爵の子だろう。それに、私にとってはお前は悪魔だ。悪魔が産んだ子など愛せる訳がない!彼女は全てを承知で私を受け入れてくれたんだ。私は彼女と生きていく。バラしたければバラせばいい。むしろお前が私にやった事をこちらから暴露してやるさ!』



映像から義兄の容赦ない拒絶の言葉が聞こえて来ると、彼女は首を横に振りながら現実を否定する。


「やめて……お兄様……っ、いや!愛してるって言ってくれたじゃない……っ、私は今でも貴方を愛してるのに……っ、何でそんなこと言うの‼︎」


過去と現実が混濁しているのか、壁に映る男に泣き縋りながら、夫人が悲劇のヒロインぶっている。その姿に同情心は微塵も湧かない。


「無理矢理言わせた愛の言葉が真実なわけないでしょ」

「うるさい‼︎  貴女に私とお兄様の何がわかるのよ!」

「加害者と被害者ということはわかります」

「違う‼︎  私達は愛し合ってるの‼︎  何度も体を重ねたし、彼の子供だって産んだわ‼︎ 」

「貴女が脅迫して無理矢理ね」

「違う違う違う違う‼︎」




そして映像は、流行り病に見せかけて彼を毒殺する場面へと変わる。



「やめて‼︎  これを止めてちょうだい‼︎  嘘よ‼︎  これは全部嘘よぉぉ‼︎」


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