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決意
しおりを挟む「ワタクシ達は、淑女教育で相手に弱みを見せるなと教わりましたから、こうして皆さんと笑い合える日がくるなんて、少し前までは想像もつきませんでしたわ。あの伝達魔法スレッドでは随分と憂さ晴らしさせていただきました。アレはとても楽しい魔法ですわね」
クスクスと笑いながらキャサリン様が答えると、再び皆笑い出す。
「皆言いたい放題だったものな」
「アデライド様は授業中、笑いを堪えるのに震えっぱなしでしたよね」
「アデライドは笑い上戸だから」
「名無しの魔術師が変な事ばっか言うからだよ!」
「確かに彼、変な返しばかりしてたわね。絶対笑わせようとしてたわよね」
「でも笑ったおかげでだいぶスッキリしましたけど」
「そうね、彼にも感謝だわ。証拠集めでとてもお世話になったもの」
あら、エゼルが褒められてるわ。
放課後一緒になった時に教えてあげましょう。
エゼルは魔術師科だから朝と放課後だけ一緒なのよね。
まあスレッドでどこにいようがすぐに連絡取れるから別に不自由はしてないんだけど。
「キャサリン様は今後の王家の方針を公爵様からお聞きになりましたか?」
「ええ、マライア様から相手の家に息子の再教育の要請をしたと聞きました。その対応いかんによっては当主に対する処罰も辞さないそうですね」
「そうです。婚約破棄に関する協議は卒業式が終わった後、卒業パーティ前に王宮に各家を集めて行う事が決まっています」
「卒業の日にゴリラから解放されるんだな!私は卒業したらマライア様が作り上げた女性騎士の地位を牽引するような騎士になってみせる!女性騎士団を作るのもいいな。あの性根の腐ったクソリックより私の方が国の役に立つと証明してやるわ。そしてキャサリンの専属護衛騎士になる!」
「私も待ち遠しいですわ!私、次は恋愛結婚で良いと両親に言われているの。だから卒業後、留学先で良い人探すわ。ジョルジュ様が初恋だなんて今となっては人生の汚点でしかないけど、私の幸せの為に必要な勉強だったと思って忘れる事にするわ」
「私も卒業したら父の貿易会社に入ってバイヤーになりたいんです。あんな下品な商会と縁を結ばなくても、私の力で実績を作って国に貢献してみせますわ!」
3人の決意を聞き、キャサリン様の瞳にも強い光が宿る。
「ワタクシも、あんなブタ王子より私の方がマライア様の役に立てると自負しておりますわ!王子妃にはならなくともワタクシ個人の力でマライア様の側近になってみせます!ブリジット様、共にマライア様をお支えしましょう」
キャサリン様に握られた手の熱から、あんな騒動の後でも彼女達の心から光が消えていない事を実感する。
「ええ、もちろんですわ、キャサリン様。共にマライア様の治世をお守りしましょう」
「私もいるぞ!」
「私もよ!」
「私もです!」
何だか円陣組みたい気分。
この国の女性は逞しい。
あんな男共に国の重役を任せる事はできないわよね。
腐った目をお持ちの彼らには、卒業後に退場してもらいましょう。
でもその前に、
私にはやらなきゃいけない事がある。
◇◇◇◇
「リジー!」
カーライル邸の玄関でイアンを出迎えると、いつものよう蕩けるような笑顔を浮かべたイアンが私を優しく抱きしめた。
彼の温もりを感じても、私の心は冷たいままだった。
彼に同情はしても、一度失くしてしまった信頼や愛情はもう元には戻らない。もうイアンと生きる道は途絶えてしまった。
「————リジー…?」
いつものように抱きしめ返さない私に戸惑いを感じたのだろう。イアンは私を抱きしめる腕を緩めて顔を覗き込んだ。
「イアン、今日はいいお天気だから中庭でお茶にしましょう。ガゼボにもう用意しているの」
「そうだね。今日は過ごしやすい陽気だから外でお茶するのは気持ちがいいと思うよ。楽しみだ。さあ行こう」
差し出された手に自分の手を乗せ、イアンのエスコートで庭に向かう。
彼のエスコートを受けるのは、これが最後。
—————今日私は、
イアンに婚約破棄を告げる。
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