【完結】影を使って婚約者の秘密を暴いたら、とんでもないことになりました。

ハナミズキ

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下手くそ過ぎませんか?

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「キャア!!」



食堂で一人の女生徒が床に倒れ、持っていたランチトレーの食事を頭から被った。


そう、文字通り



え───、

・・・・・・下手くそ過ぎない?



あまりに下手くそなベタ展開を繰り広げたその女生徒を、私達は思わず呆然と見つめてしまった。

だって下手くそ過ぎるから。



「うぅーっ、酷いですキャサリン様・・・っ、わざと足をかけるなんて・・・っ、もう嫌!こんなイジメもう耐えられない!!」



もう一度言う───。

下手すぎない?



ちなみにキャサリン様はもちろん、私達は何もしていない。ただランチを食べるために食堂で並んでいただけだ。

そこにコソコソとデイジー・バローが近寄り、私達の側で勝手に転んだだけ。


しかも、わざとらしさ全開で。
下手すぎて驚いた。



こんな大根役者に騙される奴どこにい───、




「デイジー!!」



・・・・・・いたよ。



四人の男がデイジーを取り囲み、そのうちの一人が蹲って泣くデイジー・バローにハンカチをあてて拭き取ってあげている。

コンラッド第一王子だ。



私達の前に、目が節穴どころか腐っている男共が現れた。



「マクガイア公爵令嬢、貴方が取り巻き達と一緒にデイジー嬢を虐めているという噂はどうやら本当らしいな」


アイレンベルク公爵令息のジョルジュ様が私達を睨みつけながら、衆人環視の中で堂々と冤罪を着せてきた。

後ろにいる彼らも同じ見解のようで、それぞれ私達に鋭い視線を送っている。

あまりの馬鹿さ加減に私達は固まった。



それ本気で言ってる?

今食堂に入ってきた貴方達は見てなかったかもしれないけど、その阿婆擦れ女の大根役者っぷりはこの場にいる生徒が見ていたのよ?ちなみに当然影も見ている。


仮にも宰相子息が調査もせずに私達の仕業と判断しちゃっていいわけ?

呆れて声も出ないというのはこういう事か───。



「アイレンベルク公爵令息様、調査も無しにワタクシ達を虐めの首謀者だと断定するのは、いささか早計ではないかしら?」


キャサリン様が底冷えするような冷たい声でジョルジュ様に当然過ぎる言葉を返した。


「このような状況でまだ戯言を言うか!!」


ジャイアントベビーこと、リック・ペルシュマンが親の仇でも見るかのように殺気を飛ばしてくる。


いや貴方達の言っている事が戯言なのだけど!?

騎士見習いが令嬢達に殺気を飛ばすなんて、この方の騎士道はどこへいったのかしら?


戸惑いで周囲もざわつき始めるが、この学園で頂点にいる高位貴族の私達に口を出す者はいない。


「今まで無惨に壊されたデイジー嬢の持ち物を、私達も見ているんですよ。貴方が取り巻き達に命令して行ったという証言も得ています」


大商会の跡取りであるエルナンド様も、軽蔑の眼差しを私達に向けてくる。軽蔑しているのは私達の方なんですけどね?変態仮面さん。


「取り巻き達とは、私達のことですか?」



流石に苛ついて私も声が強くなる。
だって腹が立つじゃない!

何でランチメニューを選ぶ為に並んでただけでこんな茶番の悪役にされなきゃいけないのよ。


「はっ、それ以外誰がいる」

「リック様、それはカーライル侯爵家への挑戦と受け止めて宜しいですか?私達が、そんな低俗な事をする人間だとおっしゃるのですね?貴方が決めつけている取り巻きだという者達の中には、貴方達の婚約者もいるのですよ?」


「平等を理念に掲げている学園内で権力を笠に着るか。さすが虐めなど卑劣な行いをする人間のやる事だな。そうやって侯爵家の力を使ってデイジーを貶めたのだろう!」



呼び捨てにしちゃったよ。

婚約者以外の女の名を呼び捨てにするなんて、その女と深い仲ですと公言しているようなモンなんだけど、それを理解しているのかしらこの男は?───いやこのドヤ顔は絶対理解してないわね。


チラリと彼女達を横目で見ると、全員がスン・・・と無の境地に至っている。

でも、その体は微かに震えていた。


やはり、こんな馬鹿げた茶番でも人前で冤罪を着せられたら傷つくわよね・・・。  



「キャサリン、これ以上馬鹿な真似はやめて欲しい」


デイジーに寄り添っていたコンラッド第一王子が彼女を支えながら立ち上がる。

それを冷めた眼差しで見つめながらキャサリン様が訪ねた。


「馬鹿な真似・・・とは?」

「デイジーに嫉妬して嫌がらせを行うのはやめろと言っている。王子妃候補にあるまじき行為だ」

「ワタクシはそんな事はしておりません。彼女にお会いしたのも今が初めてですのに、どうやって過去にイジメを行うのですか?貴方様も王子なら、適正な判断をなさいませ」

「そんな・・・っ、酷いです!嘘つかないでください!あんなに「コンラッド王子に近づくな」と私を脅したじゃないですか!」



ポロポロと涙を流して人前で恥ずかしげもなく三文芝居を披露出来るデイジーに、逆に感心してきた。メンタル強いわね。


「デイジー、大丈夫だ。君の事は私達が守るから」



そう言ってコンラッド第一王子は私達から隠すようにデイジーを抱きしめる。


「───婚約者の前で他の女性に触れるなど、王子としての自覚が足りないのでは?それともワタクシに妾を持ちたいという相談ですか?」

「お前は本当に昔から可愛げがないな・・・っ」


「どちらにしろ、こんな衆人環視の中でする話題ではありません。そこまで貴方達の正当性を訴えるのであれば、その証言や嫌がらせの証拠品とやらを調公爵家に抗議なさればよろしいですわ」

「また権力を笠に着る気か!」

「不敬だぞリック!!下がれ!!」


脳筋リック様が公爵令嬢であるキャサリン様に声を荒げたことで、アデライド様がキャサリン様を背に庇い、彼を睨みつけた。



「婚約者に対してなんだその態度は・・・っ」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。───都合のいい時だけ婚約者面するなよ脳筋野郎」


笑顔で嫌味を返した後、アデライド様は鋭い目つきでリック様に殺気を飛ばす。


婚約者に殺気を飛ばされたのは初めてだったのか、彼の目が一瞬見開き、直ぐに眉間に深い皺を刻んで今まで以上の怒気を放つ。



その場が一触即発の空気に染まった。
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