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真実1
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「ふう……」
全ての資料を見終わった私は、深いため息をついた。
映像と文字の見過ぎで少し頭痛がするかもしれない。
「ほら、これ飲めよ」
資料整理に付き合ってくれたエゼルがポーションを渡してくれた。
「ありがとう。気が利くわね」
「お前限定だけどな」
「ふふっ、それは嬉しいわね」
「……………鈍いのかスルーしてんのかどっちだよ…」
「え?何?ごめん、聞こえなかった」
「なんでもない。………それよりブリジット、無理はするなよ?」
「してないわよ」
「嘘つくな。イアンの新しい報告書読んで、お前固まってただろーが」
エゼルの指摘に返事に詰まった。
胸の中に重しを入れられたように、重くて暗いものが広がる。
正直、調査内容は想定外だった。
イアン以外の男共は、何のひねりもない。ただ快楽に負けて阿婆擦れ女に手玉に取られたおバカさん達。
でもイアンだけ洒落にならない。
闇が深すぎる。
彼の背景を知った時、鳥肌が立った。のぞき行為に耽っていること以上に、イアンを絡めとっているあの母親に寒気がした。
あの女は狂ってる。
「——————同情してるのか?まさか、婚約破棄をやめるとか言わないよな?」
「言わないわよ…。イアンを切るのは王家の影の意向。お母様が決めたことよ。それにイアンの事情を知った以上、尚更彼と結婚なんてできないわ」
「じゃあ、なんでそんな顔してんだよ?」
「……そんな顔?」
「今にも泣きそうな顔してる。お前は裏切られたんだぞ?同情の余地なんかないだろ」
「……………そうね」
それでも、真実を知った今、どうしても思ってしまうのよ。
なんで気づいてあげられなかったんだろう。
王家の影の娘なのに。
気づいていたら、助けられたかもしれないのに。
きっと、イアンはずっと、
私に救いを求めてた。
自分の未熟さを、今ほど悔やんだことはない。
◇◇◇◇
「お母様、お父様」
両親のいるサロンへと向かい、全ての準備が整ったことを告げる。
「そうか。ブリジットにとっては辛い初仕事だったね。大丈夫かい?」
「大丈夫よお父様。任務が終わったばかりで疲れているのに、こんな話を聞かせなければならなくてごめんなさい」
「謝る必要はない。ブリジットは何も悪くないだろう?私の可愛いブリジットを裏切るなど万死に値する。本当は今すぐ殺してやりたいが、ブリジットとダイアナが止めるから私は我慢しているんだよ」
父は影の中でも暗部の取締役だ。影は諜報と暗部で成り立っており、父は暗部───つまり暗殺集団のトップだ。
国の情勢に関わる有力者の威を借りて罪を逃れ、表立って罰する事が出来ない者や、謀反を企てている者、国民を虐げる者。───つまり国にとって害でしかない者を穏便に消す仕事を担っている。
だからプロの父がイアンを消すのは造作もない事だ。
「止めるのは当たり前でしょう?ブラックリストに載ってない者を殺すのは影の規律違反よ。部下を束ねる貴方が率先して規律を破ってどうするの。それにイアンごときのせいで私のレンスに汚名を着せるなんて、そんな事私が許さなくってよ」
母が父の頬を撫でながらムッと不機嫌な表情を浮かべる。
父はそれを熱の篭った瞳で見つめ、嬉しそうに母の手に頬をすり寄せ、手のひらにキスをした。
「ふふっ、私は愛されているね」
「当たり前でしょう?私は身も心もずっと貴方に溺れているのよ?」
「それは私も同じだよ。私もずっとダイアナの魅力に溺れている」
「───お父様、お母様、その続きは私のいない所でお願いします」
娘の前で口付けを交わそうとする両親を止め、話を本題に戻す。
「マライア様の意向で、婚約破棄の手続きは関係者全員を集めて王宮で行うとの事です。それまでは相手方には行動を起こさないように言われました。各家にはマライア様から密書で今後の対応についての指示が出されるようです」
「まあ、そうなるだろうね。バラバラで対応するより最初から王家が介入した方が話をまとめやすいしね。あちらには第一王子、宰相や騎士団長という要人がいるから王家が介入しても不思議はない。下手に拗れて王子や高位貴族達の醜聞が上がるより、王宮内で場を設けた方が情報操作しやすいからな」
「全員がやらかしてるおかげで言い逃れできないしね。あちらも愚息の行いはある程度把握しているはずよ。それでも何も手を打たないという事は、未だに男性優位の政権思想を持っているとみなされても仕方ないわ。もう一度何故我が国が女王制度を取っているのか、一から歴史を紐解いて教育的指導を行わないとダメみたいね」
母が何かを企んでいるかのように妖艶な笑みを浮かべている。
こういう時の母は機嫌が良さそうに見えるが、実はめちゃくちゃ怒っている。きっとえげつない事を考えているのだろう。
そんな母を見て父は『お手柔らかにね』と苦笑しながら諌めた。
再び目の前でイチャつき出した両親を見て思う。
そうやって、何も言わずとも通じ合っている2人がうらやましい。
私は前世の結婚でも失敗したから。
「・・・・・・・・・」
「ブリジット?」
父が心配そうに声をかける。
「───友達のアリアが、泣きながら言ってたの。婚約者のジョルジュ様と、両親のような愛し合い信頼できる夫婦になりたかったって。───私も同じ。私もイアンと、お父様とお母様みたいな夫婦になりたかったな・・・」
「「ブリジット・・・」」
今世でも失敗してしまった。
前世の記憶から、私は男の愛を信じる事ができない。
夫に裏切られた事も、病気で苦しんで死んだ記憶も、全部抱えたまま私は生まれ変わった。
幼い頃はその記憶に戸惑い、苦しめられた。
だからもう苦しい思いはしたくなくて、逃げたのよ。
政略結婚で燃えるような恋情はなくても、穏やかな愛情が育めればそれでいい。そう思ってイアンを弟や息子のように扱ったのは、他でもない私だった。
そうやって恋をしないように保険をかけて、このザマ。
我ながらバカだなと思う。
前世の失敗から何も学んでない。
勇気を出して向き合っていたら、
イアンが歪む前に何か出来たのだろうか。
カサッと音を立て、両親の前に一枚の報告書を出す。
ハネス家の重大な秘密が記されているその一枚。
これを両親が知らないはずがない。
既にこれだけでハネス家にトドメをさせるくらいのスキャンダルだ。母は私に調査書を渡す時、あえてこの情報を抜いたのだろう。
私に自ら見つけさせ、すべてを知った上でも私情を捨ててイアンを切り捨てられるのか、
国とカーライルの意向に従い、人の未来を壊す覚悟があるのか、
王家の影の次期当主として、試されている。
──────母を真っ直ぐ見つめ、口を開く。
「お母様達も既に知ってますよね?イアンの母親が犯した殺人と、イアンに対する性的虐待について」
暴いた秘密は、私の想像より
ずっとずっと重かった──────。
全ての資料を見終わった私は、深いため息をついた。
映像と文字の見過ぎで少し頭痛がするかもしれない。
「ほら、これ飲めよ」
資料整理に付き合ってくれたエゼルがポーションを渡してくれた。
「ありがとう。気が利くわね」
「お前限定だけどな」
「ふふっ、それは嬉しいわね」
「……………鈍いのかスルーしてんのかどっちだよ…」
「え?何?ごめん、聞こえなかった」
「なんでもない。………それよりブリジット、無理はするなよ?」
「してないわよ」
「嘘つくな。イアンの新しい報告書読んで、お前固まってただろーが」
エゼルの指摘に返事に詰まった。
胸の中に重しを入れられたように、重くて暗いものが広がる。
正直、調査内容は想定外だった。
イアン以外の男共は、何のひねりもない。ただ快楽に負けて阿婆擦れ女に手玉に取られたおバカさん達。
でもイアンだけ洒落にならない。
闇が深すぎる。
彼の背景を知った時、鳥肌が立った。のぞき行為に耽っていること以上に、イアンを絡めとっているあの母親に寒気がした。
あの女は狂ってる。
「——————同情してるのか?まさか、婚約破棄をやめるとか言わないよな?」
「言わないわよ…。イアンを切るのは王家の影の意向。お母様が決めたことよ。それにイアンの事情を知った以上、尚更彼と結婚なんてできないわ」
「じゃあ、なんでそんな顔してんだよ?」
「……そんな顔?」
「今にも泣きそうな顔してる。お前は裏切られたんだぞ?同情の余地なんかないだろ」
「……………そうね」
それでも、真実を知った今、どうしても思ってしまうのよ。
なんで気づいてあげられなかったんだろう。
王家の影の娘なのに。
気づいていたら、助けられたかもしれないのに。
きっと、イアンはずっと、
私に救いを求めてた。
自分の未熟さを、今ほど悔やんだことはない。
◇◇◇◇
「お母様、お父様」
両親のいるサロンへと向かい、全ての準備が整ったことを告げる。
「そうか。ブリジットにとっては辛い初仕事だったね。大丈夫かい?」
「大丈夫よお父様。任務が終わったばかりで疲れているのに、こんな話を聞かせなければならなくてごめんなさい」
「謝る必要はない。ブリジットは何も悪くないだろう?私の可愛いブリジットを裏切るなど万死に値する。本当は今すぐ殺してやりたいが、ブリジットとダイアナが止めるから私は我慢しているんだよ」
父は影の中でも暗部の取締役だ。影は諜報と暗部で成り立っており、父は暗部───つまり暗殺集団のトップだ。
国の情勢に関わる有力者の威を借りて罪を逃れ、表立って罰する事が出来ない者や、謀反を企てている者、国民を虐げる者。───つまり国にとって害でしかない者を穏便に消す仕事を担っている。
だからプロの父がイアンを消すのは造作もない事だ。
「止めるのは当たり前でしょう?ブラックリストに載ってない者を殺すのは影の規律違反よ。部下を束ねる貴方が率先して規律を破ってどうするの。それにイアンごときのせいで私のレンスに汚名を着せるなんて、そんな事私が許さなくってよ」
母が父の頬を撫でながらムッと不機嫌な表情を浮かべる。
父はそれを熱の篭った瞳で見つめ、嬉しそうに母の手に頬をすり寄せ、手のひらにキスをした。
「ふふっ、私は愛されているね」
「当たり前でしょう?私は身も心もずっと貴方に溺れているのよ?」
「それは私も同じだよ。私もずっとダイアナの魅力に溺れている」
「───お父様、お母様、その続きは私のいない所でお願いします」
娘の前で口付けを交わそうとする両親を止め、話を本題に戻す。
「マライア様の意向で、婚約破棄の手続きは関係者全員を集めて王宮で行うとの事です。それまでは相手方には行動を起こさないように言われました。各家にはマライア様から密書で今後の対応についての指示が出されるようです」
「まあ、そうなるだろうね。バラバラで対応するより最初から王家が介入した方が話をまとめやすいしね。あちらには第一王子、宰相や騎士団長という要人がいるから王家が介入しても不思議はない。下手に拗れて王子や高位貴族達の醜聞が上がるより、王宮内で場を設けた方が情報操作しやすいからな」
「全員がやらかしてるおかげで言い逃れできないしね。あちらも愚息の行いはある程度把握しているはずよ。それでも何も手を打たないという事は、未だに男性優位の政権思想を持っているとみなされても仕方ないわ。もう一度何故我が国が女王制度を取っているのか、一から歴史を紐解いて教育的指導を行わないとダメみたいね」
母が何かを企んでいるかのように妖艶な笑みを浮かべている。
こういう時の母は機嫌が良さそうに見えるが、実はめちゃくちゃ怒っている。きっとえげつない事を考えているのだろう。
そんな母を見て父は『お手柔らかにね』と苦笑しながら諌めた。
再び目の前でイチャつき出した両親を見て思う。
そうやって、何も言わずとも通じ合っている2人がうらやましい。
私は前世の結婚でも失敗したから。
「・・・・・・・・・」
「ブリジット?」
父が心配そうに声をかける。
「───友達のアリアが、泣きながら言ってたの。婚約者のジョルジュ様と、両親のような愛し合い信頼できる夫婦になりたかったって。───私も同じ。私もイアンと、お父様とお母様みたいな夫婦になりたかったな・・・」
「「ブリジット・・・」」
今世でも失敗してしまった。
前世の記憶から、私は男の愛を信じる事ができない。
夫に裏切られた事も、病気で苦しんで死んだ記憶も、全部抱えたまま私は生まれ変わった。
幼い頃はその記憶に戸惑い、苦しめられた。
だからもう苦しい思いはしたくなくて、逃げたのよ。
政略結婚で燃えるような恋情はなくても、穏やかな愛情が育めればそれでいい。そう思ってイアンを弟や息子のように扱ったのは、他でもない私だった。
そうやって恋をしないように保険をかけて、このザマ。
我ながらバカだなと思う。
前世の失敗から何も学んでない。
勇気を出して向き合っていたら、
イアンが歪む前に何か出来たのだろうか。
カサッと音を立て、両親の前に一枚の報告書を出す。
ハネス家の重大な秘密が記されているその一枚。
これを両親が知らないはずがない。
既にこれだけでハネス家にトドメをさせるくらいのスキャンダルだ。母は私に調査書を渡す時、あえてこの情報を抜いたのだろう。
私に自ら見つけさせ、すべてを知った上でも私情を捨ててイアンを切り捨てられるのか、
国とカーライルの意向に従い、人の未来を壊す覚悟があるのか、
王家の影の次期当主として、試されている。
──────母を真っ直ぐ見つめ、口を開く。
「お母様達も既に知ってますよね?イアンの母親が犯した殺人と、イアンに対する性的虐待について」
暴いた秘密は、私の想像より
ずっとずっと重かった──────。
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