13 / 63
絶対手に入れる③ side エゼルバート
しおりを挟む結果から言うと、俺が書いた魔法陣を組み込んだ『照明』という魔道具は、国中で前代未聞の大ヒットとなり、王宮にまで取り入れられるほどの魔道具となった。
今となっては他国にも輸出され、国に莫大な利益をもたらしている。
あれから俺を取り囲む環境は変わった。
俺が落書きのノリで書いた魔法陣が、今まで医療にしか使われなかった光魔法を、生活魔法に転換した新しい魔法だとして賞賛された。
そして、光魔法しか扱えない魔術師からも感謝された。
昔のように戦が頻繁に起こっていた時代と違って、今は文明の栄えと共に国は平和になり、光魔法の需要が減ってしまったのだ。
昔は重宝されていた魔力が、今となっては特別視される事もなくなった。
光魔法は傷ついた体を癒やすことは出来ても病気は治せない。だから医療施設で働いていても、そんなに沢山怪我人が運ばれてくるわけでもないので力を持て余していたそうだ。
それが照明の魔道具の出現によって自分の魔力の新しい使い道が出来たと喜ばれた。
当時子供だった俺は、家族にも『エゼルは天才だ!』と褒め称えられ、ずっと引き篭もりだった俺の功績を涙を流して喜んでくれた。
魔法陣を組み替えて書き直しただけだから、俺じゃなくても出来ると思うと答えたら、それは絶対に違うと父に力説された。
両親曰く、新しい魔法が誕生したのは100年ぶりの快挙なのだそうだ。
今いる魔術師は魔術書の魔法や魔法陣を暗記するだけで、その魔法陣の成り立ちや魔法陣に使用される古代文字の意味などを理解している者は少ないらしい。
魔法や魔道具の研究施設は存在しているが、それは元々ある魔法陣を用いての研究であって、新しい魔法を開発したり、ましてや魔法陣を簡単に書き換えて実用化させるなど、誰でも出来る事ではないと言われた。
まず新しい魔法の発想が浮かばない。少なくとも国内トップクラスの高魔力保持者である両親や兄達にはできないと言われた。
それくらい照明という魔道具は魔術師達にとって驚きの商品で、しかも元となる魔法陣が見たこともない術式で、10にも満たない子供が書いた事にも度肝をぬかれたらしい。
でもそもそも、あの魔道具は俺の発想で生まれたものじゃない。
ブリジットの注文で書いただけで、その魔道具はブリジットが発明したものだ。だからそう言おうとしたのに、ブリジットが俺の手を握って首を横に振り、それを止めた。
二人になった時に、何で止めたのか。皆を騙しているようで心苦しいと言った俺に、
「なんで?嘘ついてないから騙してないじゃない。私はエゼルに魔法陣を作ってとお願いして、光属性の魔力を埋め込む器を作っただけ。魔道具の核となる魔法陣を作ったのはエゼルよ?照明はエゼルが新しく作った術式がなければこの世に誕生していない。エゼルが今まで勉強した魔術の知識や、お絵描きがわりに魔法陣を書いて遊んでいた経験がなければ、生まれてこなかったのよ?」
ブリジットの言葉が一つ一つ心に刺さって、泣きそうになる。
「言ったでしょ?生まれ持ったスペックは変えられない。変えられるのは知識と体で覚えて身に着けたスキルだけって。誰もが苦手な魔術書を苦なく読める事と、それを理解し覚える事、魔法陣をお絵描き感覚で構築できる事、それらのスキルはエゼルだけの才能なのよ。エゼルが魔法大好きだから成し得たことなの。魔力量が中の上でも、ドレイク家の誰も出来なかった事をエゼルはやってみせたんだから、自慢するならまだしも心苦しくなることなんてないわ。胸を張りなさい」
「……うっ、…ふ…っく」
我慢ができなくて、嗚咽をこぼす。
家族の中で自分だけ違うという孤独感にずっと押しつぶされそうだった。「なんで自分だけ?」と、こんな自分に産んだ母を恨めしく思ったこともある。その度に自分を嫌いになっていった。
家族は決して俺を蔑ろにしなかったのに。
両親も兄達も俺を愛してくれたのに、一人で殻に閉じこもって家族を拒絶していた。
そんな弱い自分が、ブリジットの言葉に救い上げられる。
「ね?エゼルの得意なことあったでしょ?だから貴方は出来損ないなんかじゃないのよ。むしろ天才なのよ!」
そう言って屈託のない笑みを浮かべるブリジットに、恋をするなという方が無理だろう。
ブリジットへの恋心を自覚した途端、既に政略でブリジットとイアンとの婚約が決まっていて速攻で失恋したけど───。
345
お気に入りに追加
2,512
あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。


思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる