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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
213. 裏にいる者
しおりを挟むリリティアと繋がっているのは邪神じゃない。
イザベラだ──
一つをきっかけに、木の枝が伸びるように次々と眠っていた記憶が呼び起こされ、線が結ばれていく。
ゲーム内では王位簒奪に加担するモブとして扱われていたが、身内として身近にいた自分にはわかる。
あれは、イザベラの復讐だ。
シナリオには語られていなかったが、きっとゲーム内でも父に顧みられることがなかった鬱憤を、ヴィオラたちにぶつけたのだ。
そしてクリスフォードを死に追いやり、邪神に堕ちてまでヴィオラの命を狙った。
他のルートの悪役令嬢は裁判を経て厳罰が下されたのに対し、ヴィオラが問答無用でルカディオに斬り殺されたのは、きっと中ボスだったイザベラの差し金だろう。
そうでなければ、ルカディオが騎士道に反することをするはずがない。
イザベラはヴィオラに直接手をかけるのではなく、愛する男に裏切られ、無惨に殺されるように仕向けた。ヴィオラの心を粉々に砕き、絶望の中で死なせるために──
姉への復讐を、代替品のヴィオラで果たしたのだ。
確証はない。
ゲームはフィクションだ。
でも全てが創作でもない。
以前女神は、この世界の人間が日本に転生して乙女ゲームを作ったのではないかと言っていた。神の預かり知らぬところで、稀に前世の記憶を持って生まれ変わる者がいると──
実際にイザベラに悪意を向けられてきたヴィオラは、ゲームのルカディオルートこそが実話ではないかと思えてしまう。
創作なのは各攻略対象と聖女の恋愛パートだけで、大まかなストーリーは史実に基づいているのでは?
「……それなら、暴動も実際に起こったこと……?」
スタンピードも現実に起こったのだ。
他の事件が起きてもおかしくない。
ヴィオラはそのまま部屋を飛び出し、兄の部屋に向かう。
扉をノックして何度も兄を呼んだ。
するとカチャリと扉が開き、目を擦りながら寝ぼけた兄が顔を出す。
「ヴィオ……? こんな夜中にどうしたの?」
そして夜着のまま立っている妹を見て目を丸くした。
「なっ、なんて格好で廊下にいるんだ!」
怒りながら慌ててヴィオラに自分が羽織っていたガウンを着せ、腰紐をギュッと締める。
「まったく。淑女が夜分に夜着のままウロウロするなんて……目の前にいるのが兄である僕だからよかったものの、他の男だったら大問題だよ!? いや、僕でさえノアの嫉妬の対象にされるから、ホントやめて」
完全に目が覚めたクリスフォードは、ヴィオラに淑女としての振る舞いをぐちぐちと咎めるが、それどころではないヴィオラは兄の言葉を遮った。
「思い出したの……っ、中ボスがイザベラ様だったこと!」
「──は?」
「リリティア様の裏にいるのは──たぶんイザベラ様よ」
クリスフォードは驚愕に目を見開いた。
◇◇◇
「あのクソババアが偽聖女の裏にいるってどういうこと?」
兄の部屋のソファに座り、話を続けた。
「リリティア様の魅了の話を聞いて、ずっと何か引っかかってモヤモヤしてたの。彼女はゲームのヒロインの人間性からかけ離れているのに、周りに持て囃されているのはなんでだろうって……」
「魔法じゃないとしたら、神力によるものだろうね。──なるほど。敵の敵は味方ってやつ? アレが裏にいるなら、ヴィオに対して無駄にヘイトが向けられたのも説明がつくかもしれない」
そうなのだ。
学園で悪女と呼ばれているのはヴィオラだけなのだ。
リリティアの周りには第二王子たちがいつも侍っているのに、ヴィオラ以外の悪役令嬢の話題は上がらない。
それがとても不自然に思えた。
あの苛烈な性格のエリアナたちが、リリティアを放っておくとは思えないのに、ヴィオラだけがスケープゴートにされている。
「まあ、ノアと婚約したやっかみもあるだろうけど──いや、ノアと婚約したから出てきたのか。あのクソババアにとって、僕らの存在は憎悪の対象だからね。特に同じ女で母と父の色を併せ持つヴィオラの幸せは尚更許せないだろう」
「うん……以前あの人が帝国で神力を使ったって聞いてたし、昔お父様とお母様に魔草を使って狂わせた人だから、洗脳とかもやりかねないかなって──」
「アレならやるだろうね。ほんとゴキブリ並みのしつこさだよな。いくらポンコツ父上でも、ゴキブリに二十年近く付き纏われたら流石に同情するよ。本気で毛根死滅魔法を開発しようかな。父上にかけたら百年の恋も冷めるかもしれないし」
ニヤリと笑いながらつぶやいた兄の言葉に、ヴィオラは思わず想像してしまい、吹き出しそうになるのを防ぐ。
「お兄様……真面目な話をしているのに……っ」
「結構本気だけどね? あのクソババアが父上を諦めれば問題の半分は片付くと思うし。まあ何にせよ、これからどうするかは朝になったらノアに相談してから決めよう。王太子殿下にも報告しないといけないだろうし」
そうだ──王太子殿下にも伝えなければいけない。
「ゲームでは、邪神との戦いの前に、聖女は二人の人物と戦うことになるの」
「その一人があのクソババアなんだよね。──もう一人は?」
「王弟殿下よ」
そして、これから暴動を引き起こすのも彼だ。
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