私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

212. 思い出したスチル

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「魅了……?」


それは、前世の小説などでよくあったヒロイン補正だろうか?

それとも実際にそういった魔法があるのだろうか?

「学園でリリティアへの嫌がらせが全部ヴィオラ嬢のせいになってただろう? いくらヴィオラ嬢にアリバイがあって嫌がらせするのは不可能だと言っても、リリティアに傾倒している奴らは聞く耳持ちやしない。特にオスカー様たちは一番酷いな」

──それは、ルカディオも同じなのだろうか?

ゲームの断罪シーンが脳裏に浮かび、喉の奥がひくつく。そんなヴィオラの手にノアは自分の手を重ね、ギュッと握った。

「それが魅了だと?」

クリスフォードの質問にセナが頷く。

そして苦笑いしながら「今となっては黒歴史だけど」と前置きをして話を進めた。

「実は俺も入学当初はリリティアを特別視していた」

「知ってる。セナの第一印象は最悪だったからね」

「だから黒歴史って言ってるだろ。それでさ、クリスたちに初めてリリティアを会わせた時に、ノアに強烈な威圧を浴びせられたじゃん? その時、めちゃくちゃビビったけど、目が覚めたように頭がスッキリしたんだよね」

(威圧!?)

バッとノアを見ると、満面の笑みを浮かべている。

「たぶん、ルカディオもその時に正気に戻ったんだと思う。俺とルカディオだけ、それ以降リリティアとは一定の距離を置いたんだ。どうにも違和感があってずっと様子見してた」

「魅了魔法は歴史の中で実際に存在する闇属性の魔法だ。だが精神干渉の魔法は相手の魔力量に大きく影響する。術者の魔力量が相手よりも低ければ魔法にかかることはない。俺の威圧が打ち消した可能性は高いな」

ヒロインは全属性の魔力に対応できる器の持ち主だ。当然、闇属性の魔力も扱える。

「リリティア様は魅了魔法を使っているんですか?」 


(それは……ルカにも使っていたということ?)

ルカディオとリリティアは、ヴィオラと音信不通だった頃に会っていた。

まさかルカディオの心変わりは魅了魔法によるものなのだろうか——?


その疑問に、ドクンと胸の奥が嫌な音を立てる。

彼女は転生者でゲームの知識を持っている。子供の頃から虎視眈々と、ヴィオラからルカディオを奪うつもりで彼に近づいたのだとしたら——

「ヴィー? 大丈夫か?」

ハッとして拳を握る力を緩めた。

「はい。大丈夫です」

(もうルカとは婚約解消してるんだから、今更彼の心変わりの原因を知ったところで意味はないわね……)

何より、そんなことを考えてノアを不安にさせたくない。
そう思ってヴィオラは重ねられていた大きな手に指を絡ませた。

するとノアもギュッと握り返してくれる。
その温かさに、ざわめき立った心が落ち着いていく。


「僕はあの女が魅了なんて高度な魔法を使えるとは思えないな。脳を直接弄るんだよ? かなり高度な魔力コントロールを要する上級魔法なのに、魔法士でもないあの女が使えると思う? 僕だってまだ使えないんだから」

「闇属性の魔力持ちは光属性と同じく希少で、クリスやジルを含めても大陸で数人しかいない。あの女が闇魔法を学ぶ機会はなかったはずだ。魅了魔法の線は低いと思うがな」

「それなんだよなぁ。ノアの言うことが本当なら、リリティアより魔力量が多い俺たちが魅了にかかるわけないんだよ。彼女ろくに魔法訓練してないからね。魔法士団で訓練のカリキュラムを組んでも、言い訳ばかりしてサボりまくってたし。でも魅了じゃないとあの学園の異様な雰囲気は説明つかないんだよなぁ。うーん……」

セナが腕を組んで思案に耽ける中、彼以外の三人の脳裏には邪神が思い浮かんだ。

(やっぱり、彼女と邪神は繋がっているの?)

魔法を行使せずに人を洗脳する力があるとすれば、それは神力によるものだろう。

ゲーム内のリリティアは子供の頃に精霊と契約して浄化魔法を発現させ、魔法訓練を受けて聖女だと公式に認められていた。

でも現実のリリティアは候補のままで、まともな魔法訓練をしていないなら、スタンピードを抑えられなかったのも当然だろう。

それゆえに立場が危うくなり、第二王子たちを体で篭絡して保身に走っている時点で、ヒロインと呼べる人格ではない。

彼女はゲームの修行システムを軽視して、実際に訓練してみたらキツくて逃げ出したのかもしれない。

人間性は間違いなく邪神が選んだ魂だと言える。

現にこうして各所に混乱を招いているのだから、邪神の思惑は叶っているのだろう。


「お前の父親はこの件についてどうするつもりなのか、何か言っていたか?」 

ノアの質問にセナは首を振る。

「まだなんとも。一応学園で魔力残滓を調べたけど何も出ないからこっちも動きようがなくてさ」

「まあ、確かに噂程度じゃ動きようがないか──わかった。こっちでも調べとくから、引き続き監視を頼む」

「了解」












✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


(なんだろう。なんか忘れてる気がしてモヤモヤする……)


ヴィオラは眠れず、部屋のバルコニーに出て夜風に当たっていた。

スタンピード終了後、落ち着いている状況に違和感を感じていた。シナリオを大まかにしか思い出していないため、細かいイベントは抜け落ちている。

スタンピード以外にも聖女イベントがあったはずなのに、それがどんなものだったのか、いつ起こるのか、未だに思い出せていない。


今わかっているのは、卒業パーティーの断罪イベントと、その後すぐに現れる中ボスとの戦闘、そしてラスボスである邪神との戦い。

その中ボスは確か二人いた。
ルートで分かれていたと思う。


(誰だっけ……新キャラ──ではなかったはず。何かしら伏線があって、王家に牙を向く存在……)

記憶にあるゲームスチルを思い返す。
恋愛スチル以外に、戦闘スチルもあったはず。

(思い出さなくちゃ……)


一枚一枚、ゆっくりと記憶を辿る。
シナリオに沿って、頭の中でストーリーを進めた。

そして見つけた二枚。


(思い出した……っ)



「あぁ……なんで……こんな重大なことをすぐに思い出さなかったの……っ」

いや、原因はわかっている。

忙しさにかまけて、シナリオを見直すことから逃げていたからだ。ルカディオルートはヴィオラにとっては地雷でしかないから。

その怯えが裏目に出てしまった。




あの女は、まだ諦めていなかったのだ。

手に入らない現実に絶望して、憎悪して、そしてきっとそれが邪神を引き寄せ──堕ちた。


憎き姉、マリーベルの痕跡を消すために──





ルカディオルートの中ボスは、元継母のイザベラだ。






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