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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
188. スタンピード②
しおりを挟む「ここにはヴィオラの予想通り、偽聖女たちも参加している。二人とも印象が違うからバレないとは思うが、充分気をつけろよ」
ノアの言葉に二人同時に頷く。
今のヴィオラたちはバレンシア王国の魔法士団ローブを纏い、認識阻害魔法で髪と瞳の色を変え、顔のパーツも少し変えた。
二人とも時の精霊ツァイトを真似て、白髪と金色の瞳に変え、目を一重に見せた。それだけで別人と言っていいほど印象が変わっている。
念を入れてローブのフードを被り、完全に魔法士団の団員を装いながらこのスタンピードに挑んだ。
魔物とは、亜空間で何度も戦った。
精霊たちが魔物を亜空間に落とし、実戦あるのみと容赦なくヴィオラたちに仕向けてきたのだ。
ディーンとクロヴィスは、たとえヴィオラたちが大怪我をしても、魔法で治せばいいと軽く考えているところがあり、その辺りの意見の相違でノアと衝突する──という場面が何度かあった。
でも実際にスタンピードの光景を見て、ディーンたちの特訓はまだ甘かったのだと思い知る。
魔物の数が尋常じゃない。
亜空間で対峙したのは一人につき一体だったのに対し、目の前に広がる光景は比較にもならない数の魔物で溢れ、生徒たちに襲いかかっていた。
「──マルク、二人を死守するぞ」
「御意」
ヴィオラたちは森の中に入り、逃げ惑う生徒を助けながら目当ての場所へと向かった。
マルクとノアが、ヴィオラたちに襲いかかる魔物を剣で斬り捨てていく。
「生徒たちの統率が取れていないから混雑していて複数攻撃しにくいですね。俺とノア様の魔法は森と相性が悪いからなぁ。さて、とうしたものか」
マルクは風属性、ノアは火属性の精霊つき魔法士であり、複数攻撃は得意分野だが、障害物が多い場所での戦闘は苦手としていた。
無闇に魔法を使えば生徒たちを巻き添えにしてしまう。
極秘任務のため、派手な行動も取れない。
だが悠長に一体ずつ相手をしてる暇もない。
「よし、先に生徒たちを誘導するぞ。クリス、ヴィオラ、お前たちで敵の動きを封じられるか?」
「了解。ヴィオは前方をお願い。僕は後方にいるやつを捕まえる」
「わかったわ」
兄の指示に従い、ヴィオラは狙いを定めて手のひらに魔力を集中させる。
『ハイレイン』
ヴィオラの詠唱と共に魔法陣が現れ、視界に映る植物たちが緑色に光る。そして数えきれないほどのツタが蛇のようにうねりながら飛び出し、魔物に巻きついて動きを封じた。
『アクアジェイル』
ヴィオラと同時にクリスフォードも詠唱し、魔物が次々と水の玉に閉じ込められた。二人が捕えた魔物の数は軽く三十体を超え、魔物と対戦していた生徒たちは皆唖然としている。
「お前たち、訓練は中止だ!今すぐ後衛に下がって騎士団と魔法士団の指示に従え!」
ノアの呼びかけに、我に返った生徒たちは一斉に避難した。
「マルク、まとめて始末するぞ」
「御意」
ノアとマルクが同時に魔法陣を展開する。
『ブルーブレイズ』
『エアサークル』
二人の魔法陣が光り、クリスフォードが捕らえた魔物はノアの魔法で青い炎に包まれ、水獄の蒸発と共に灰となって消えた。
そしてヴィオラが捕らえた魔物はマルクの放った魔法により、一瞬で首と胴体が二つに別れた。
「すご……二人とも秒殺じゃん」
「マルクさんの魔法初めて見た。すごいね」
「二人ともよくやった! この調子で行こう」
二人の頭を、ノアがフードの上からワシャワシャと撫でる
。
「今の……中位の魔物も混じってましたね。聞こえてくる咆哮と騒音の様子からして、奥に上位の魔物もいるかもしれませんよ」
「そんなのがウジャウジャ湧き出たら堪んないな。早く現地に行って浄化を急ぐぞ」
「「はいっ」」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「リリィ! 一人で動くのは危険だと言っているだろう!」
「いやああぁぁ! 離して! こんなの無理よ!!
絶対無理!! 魔物に殺される!!」
「リリィ落ち着いて……っ、俺たちがちゃんと守るから!」
「リリィ、貴女は聖女なんだ。きっとやり遂げられるから、もう一度魔法に挑戦しよう?」
ヴィオラたちの数十メートル先には、リリティアたちが魔物と対峙していた。
オスカー、ナイジェル、テレンスはリリティアを守るように背に隠し、護衛たちからあぶれた魔物を剣や魔法で排除する。
「くそ! この数はどうなってんだ! 教師から聞いていた話と違うぞ! 中位の魔物もいるじゃないか!」
「スタンピードよ! スタンピードが起こってるの!」
リリティアの叫びで三人は驚愕する。
「なんだって!?」
「スタンピード!?」
「あっちの奥にある湖が汚染されて、そこから魔物が湧き続けているのよ!その湖を浄化しない限りスタンピードは終わらないの!!」
「は? なんだそれは……? 新たな神託か? なぜそれを早く言わなかったんだ!」
「神託かどうかなんて知らないわよ! 本当に起こるかどうかもわからなかったし、それに、もし言ったら私を最前線に出すでしょ! そんなの無理だもの!」
「でもリリィがその湖を浄化すれば……っ」
「私がまだ回復と治癒の魔法しか使えないの知ってるでしょ! 浄化なんて出来ないの! もうやだ! なんでルカ様とセナ様はいないの!? 早く助けにきてよぉ~!! こんなところで死にたくないぃ!!」
「そんな……」
倒したそばから湧き出る魔物と、他の男の名を泣き叫んでいる愛しい女。
オスカーたちは愕然とし、この瞬間、死の危険を感じた。
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