私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

文字の大きさ
上 下
191 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

184. 迫るイベント① side リリティア

しおりを挟む

「サネット男爵令嬢。来月に行われる魔法士科と騎士科の合同訓練に、貴女も参加するよう国王からの要請がありました。担任には話を通しておきますので、そのつもりで今から準備をしておいてください」


学園長に呼ばれ、王命を伝えられたリリティアは愕然とした。

(これ……聖女の修行イベントだよね)


恋愛パートとは別に、RPGのような修行システムが組み込まれていたのは覚えている。

ゲームのシナリオでは、幼少期に精霊と契約を交わし、ルカディオとの出会いで浄化魔法に目覚めるはずだった。

そして学園に入学し、魔物討伐やミニゲームなどで聖女レベルを上げ、ラスボスの討伐に必要な神聖魔法を継承する。

だが現実のリリティアは、ゲームの主人公のように精霊と契約していない。今まで精霊がいそうな場所を見て回ったが、精霊の気配すら感じ取れなかった。


(どうなってるの!? なんでディーンとクロヴィスに会えないの!? あの二人と契約さえ出来れば、面倒な魔法訓練なんてしなくていいのに!)


魔力量が少ないリリティアは、学業とは別に魔法訓練をするよう命じられている。それは未だに聖女として力が覚醒していないからだ。

いくら全属性の魔力に適応しているとはいえ、生活魔法しか使えないレベルのリリティアに、教会の者たちは次第に疑惑の目を向けていた。


──彼女は本当に聖女になり得る人物か?──




「サネット男爵令嬢、聞いていますか?」

「あ、はい! わかりました。参加させてもらいます」


学園長室を出て、リリティアは早速後悔する。


(どうしよう……このままじゃ聖女イベントを回収できないかもしれない)


思わず了承してしまったが、本当は怖くて仕方ない。
あれはゲームだから出来たのだ。

ボタンを押すだけでポンポン魔法を打てるし、攻略対象者の好感度も跳ね上がるから楽しめた。


でもそれを現実でやれと言われたら、自分は魔物を見て震え上がり、腰を抜かす自信がある。

過去にルカディオとの出会いイベントで魔物を初めて見た時、怖すぎて全身の震えが止まらなかった。あの恐怖をまた味わうのかと思うと血の気が引く。

聖女イベントはあの時の比ではない。
スタンピードが起こるのだ。

そして浄化魔法がなければ勝つのも難しいだろう、下手したらゲームオーバーになる可能性もある。


だがこのイベントを回避したら、好感度不足で推しキャラとのハッピーエンドを迎えられない。今までの苦労が水の泡になる。

オスカーとナイジェルとテレンスは完全に落とした。

ルカディオとの仲も進展し、シナリオとは違うがヴィオラとの婚約解消も成立した。世話役を継続してリリティアのそばにいることを選んでくれたのだ。


なのにルカディオは今、ずっと上の空だ。

あんなに情熱的なキスをして、愛の言葉を交わし合ったのに、今の彼はリリティアを見ていない。

ずっと遠くを見て、いつも誰かを探している。


(イベント回収したのになんでよ!!)


しかも最近はやたらとオスカーが嫉妬してルカディオとセナを牽制しているため、なかなか彼らと二人きりになれない。

こんなことになるなら、逆ハーエンドに欲をかかず、推しキャラ二人だけを攻略していれば良かったと後悔した。

オスカーを先に攻略してしまったせいで、王族の権力を最大限に発揮してリリティアを囲ってくるのだ。

側近であるルカディオもセナも主人に従うため、推しキャラとの触れ合い不足でリリティアは苛ついていた。


「好感度アップのアイテムを手に入れても、二人に近づけないなら意味ないじゃない。ただでさえセナの攻略が全然うまくいってないのに……っ」


リリティアは、セナとの恋愛イベントは一つも回収出来ていなかった。

最初の方はうまく好感度を上げていたのに、ある時からどんどん距離が開き、今ではリリティアを見る瞳に全く温度を感じなくなった。


原因はわかっている。

すべて、あのオルディアン兄妹のせいだ。


セナもルカディオも、あの兄妹と関わるようになってから変わってしまった。きっとリリティアの悪口を吹き込まれているに違いない。

そうじゃなきゃ、ヒロインである自分を好きにならないなんてあり得ない。


そんなシナリオは認めない。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

処理中です...