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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
184. 迫るイベント① side リリティア
しおりを挟む「サネット男爵令嬢。来月に行われる魔法士科と騎士科の合同訓練に、貴女も参加するよう国王からの要請がありました。担任には話を通しておきますので、そのつもりで今から準備をしておいてください」
学園長に呼ばれ、王命を伝えられたリリティアは愕然とした。
(これ……聖女の修行イベントだよね)
恋愛パートとは別に、RPGのような修行システムが組み込まれていたのは覚えている。
ゲームのシナリオでは、幼少期に精霊と契約を交わし、ルカディオとの出会いで浄化魔法に目覚めるはずだった。
そして学園に入学し、魔物討伐やミニゲームなどで聖女レベルを上げ、ラスボスの討伐に必要な神聖魔法を継承する。
だが現実のリリティアは、ゲームの主人公のように精霊と契約していない。今まで精霊がいそうな場所を見て回ったが、精霊の気配すら感じ取れなかった。
(どうなってるの!? なんでディーンとクロヴィスに会えないの!? あの二人と契約さえ出来れば、面倒な魔法訓練なんてしなくていいのに!)
魔力量が少ないリリティアは、学業とは別に魔法訓練をするよう命じられている。それは未だに聖女として力が覚醒していないからだ。
いくら全属性の魔力に適応しているとはいえ、生活魔法しか使えないレベルのリリティアに、教会の者たちは次第に疑惑の目を向けていた。
──彼女は本当に聖女になり得る人物か?──
「サネット男爵令嬢、聞いていますか?」
「あ、はい! わかりました。参加させてもらいます」
学園長室を出て、リリティアは早速後悔する。
(どうしよう……このままじゃ聖女イベントを回収できないかもしれない)
思わず了承してしまったが、本当は怖くて仕方ない。
あれはゲームだから出来たのだ。
ボタンを押すだけでポンポン魔法を打てるし、攻略対象者の好感度も跳ね上がるから楽しめた。
でもそれを現実でやれと言われたら、自分は魔物を見て震え上がり、腰を抜かす自信がある。
過去にルカディオとの出会いイベントで魔物を初めて見た時、怖すぎて全身の震えが止まらなかった。あの恐怖をまた味わうのかと思うと血の気が引く。
聖女イベントはあの時の比ではない。
スタンピードが起こるのだ。
そして浄化魔法がなければ勝つのも難しいだろう、下手したらゲームオーバーになる可能性もある。
だがこのイベントを回避したら、好感度不足で推しキャラとのハッピーエンドを迎えられない。今までの苦労が水の泡になる。
オスカーとナイジェルとテレンスは完全に落とした。
ルカディオとの仲も進展し、シナリオとは違うがヴィオラとの婚約解消も成立した。世話役を継続してリリティアのそばにいることを選んでくれたのだ。
なのにルカディオは今、ずっと上の空だ。
あんなに情熱的なキスをして、愛の言葉を交わし合ったのに、今の彼はリリティアを見ていない。
ずっと遠くを見て、いつも誰かを探している。
(イベント回収したのになんでよ!!)
しかも最近はやたらとオスカーが嫉妬してルカディオとセナを牽制しているため、なかなか彼らと二人きりになれない。
こんなことになるなら、逆ハーエンドに欲をかかず、推しキャラ二人だけを攻略していれば良かったと後悔した。
オスカーを先に攻略してしまったせいで、王族の権力を最大限に発揮してリリティアを囲ってくるのだ。
側近であるルカディオもセナも主人に従うため、推しキャラとの触れ合い不足でリリティアは苛ついていた。
「好感度アップのアイテムを手に入れても、二人に近づけないなら意味ないじゃない。ただでさえセナの攻略が全然うまくいってないのに……っ」
リリティアは、セナとの恋愛イベントは一つも回収出来ていなかった。
最初の方はうまく好感度を上げていたのに、ある時からどんどん距離が開き、今ではリリティアを見る瞳に全く温度を感じなくなった。
原因はわかっている。
すべて、あのオルディアン兄妹のせいだ。
セナもルカディオも、あの兄妹と関わるようになってから変わってしまった。きっとリリティアの悪口を吹き込まれているに違いない。
そうじゃなきゃ、ヒロインである自分を好きにならないなんてあり得ない。
そんなシナリオは認めない。
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