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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

176. 精霊召喚

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「ジル・コーレリアン。上司命令により参上しました」


むっすぅ~と背後に文字が見えそうなほど、不機嫌全開でバレンシアに戻ってきたジル。

目の下にはくっきりとクマがあり、どうやら強行スケジュールで馬車を飛ばしてきたらしい。


「おう、やっと来たか。遅いぞジル」

「お久しぶりです、ジル先輩」

「久しぶり!ジル」


ノア、ジャンヌ、クリスフォードの順にオルディアン邸に着いたばかりのジルを取り囲む。

(何だかとってもお疲れのようね……)


「ジル様、顔色がとても悪いです。以前使っていた客室を用意してあるので、夕食まで少し休んだ方がいいですよ」


ヴィオラが労いの言葉をかけると、疲労でやつれたジルは目を潤ませてヴィオラに抱きついた。


「ヴィオラ嬢! 僕の体調を労わってくれるのは君だけだーー! クソ上司が二人もいるせいで僕はもう過労死しそうだよ!!」


疲れすぎてテンションがおかしくなったのか、オイオイと泣きながらヴィオラに縋り付くジルの頭に、ノアが容赦なくゲンコツを落とした。


「いったーー!! DV上司に殴られた!! パワハラだパワハラ!!」

「うるさい!! 無闇に令嬢に抱きつくな! さっさとヴィオラから離れろ!!」

「横暴な命令に従った部下に対して何なんだその態度は!! もういい!!僕は寝る!!」

「あ、こら!寝るのは報告をしてからにしろ!」


ぷんすかと怒りながら客室に向かうジルをノアが追いかけていった。嵐が過ぎ去ったあとの静けさに、皆がポカンと口を開けている。


「ジルってあんな駄々っ子みたいな奴だっけ? キャラ変えたのかな」

「いや、多分あれは三日くらい寝てないんだと思いますよ。ジル先輩、昔から寝不足が続くとテンションおかしくなって、最後ああやって勝手に爆発して、電池が切れたように倒れる癖がありまして……」

「そうなの? こっちにいた時は落ち着いてたけど」

「帝国には一番手のかかる団長がいますからね。彼のお守りを一人で請け負ってたようなもんなんで、大変だったんでしょう」

「あー……察し……」





女神との再会から二週間が経ち、その間に年が明け、ジルを迎えて本格的な訓練が始まろうとしている。

女神と今まで起きたことを話し合い、対策を考えた。

そして事態が思ったよりも深刻化しているということで、ヴィオラとクリスフォードの覚醒を急ぐことになった。


浄化魔法は大まかなカテゴリーでいうと、精霊魔法に分類される。

自分の魔力以外に、契約している精霊の魔力と融合させて発動させる魔法なので、精霊つきの魔法士にしか使えない魔法らしい。

そして自身の魔力をかなり消費するため、必然的に魔力を増やす必要があるのだとか。

そのためにも、ヴィオラたちは契約精霊に会う必要がある。




「え!! 光と闇の精霊を召喚するの!?」


夕食まで昼寝をしてスッキリしたジルが、キラキラとした眼差しでヴィオラたちを見つめた。


「うん。こないだ女神と会って──」

クリスフォードが答えると、更に目を見開いて言葉を被せてくる。

「は!? 女神とも会ったの!? え、うそ! 僕聞きたいこといっぱいあったのに~! 何でだよ! 僕が来てからにしてよ~! 苦労してバレンシアに来たのに悔しすぎる……っ」

「ああ、大丈夫だよ。女神に会う方法わかったから、聞きたいことあるなら後で教えて」

「ほんとに!?」


再び目をキラキラさせて夕食を頬張るジルを、ノアたちが呆れた目で眺めていた。


「まだ疲れてるようだな。喋り方が五歳児だ」

「そうですね。あの様子だと、また夜なべして女神と精霊に聞きたいことリストとか作り出しそうなんで、後で電撃食らわせて寝かせます」

「そうしてくれ」


不穏な会話が聞こえたが、ヴィオラとエイダンは聞かなかったことにして食事を続けた。






翌日──サロン内に皆で集まり、クリスフォードとヴィオラは精霊を召喚した。
 
瞳を閉じて幼い頃に出会った彼らの姿を思い浮かべ、その名を呼ぶ。


「ディーン」

「クロヴィス」



その呼びかけに答えるように、光の精霊ディーンと闇の精霊クロヴィスが姿を現す。


「久しいな。愛し子よ」

「成長したようだが、まだ聖女と聖人にはほど遠いな」


女神と同じ圧倒的な存在感。

腰下まで伸びる白金の髪と黒髪が光の粒子を纏い、神秘的な美しさに誰もが見惚れた。


「クロヴィス、ディーン、僕らは浄化魔法を習得したい。女神に君たちを頼れと言われたんだ。邪神に気取られず、最速で習得する方法はある?」

「……なるほど。浄化は精霊魔法だからな。確かに我らの干渉が必要となる」

「その上、浄化は光と闇の複合魔法だ。本来なら聖女、もしくは聖人の器のみに宿る加護の力。器単体で発動させるのも難しいほど高度な魔力コントロールを要する。それをお前たちは器ではない上に、別々の個体で魔力を複合させる必要がある。とても険しい道だぞ。お前たちに出来るのか?」


ゲームでは簡単に覚醒して浄化魔法を使っていたのに、現実ではそう上手くはいかないらしい。

 
「出来る出来ないの問題じゃないんだよ。やるしかないんだ。僕たちに選択肢なんかない」


クリスフォードが挑むようにクロヴィスを見る。
そして兄に続き、ヴィオラも頭を下げた。

「どうか、力を貸してください」



少しの沈黙のあと、クロヴィスが口を開く。



「相分かった。ならばお前たちを精霊界に招待しよう」



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