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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
169. 婚約解消② side クリスフォード
しおりを挟む「クリス、ヴィオラの様子はどうだ? 部屋に行っても大丈夫そうか?」
「今はちょっと……でもカリナとノアが側についているので大丈夫です」
「そうか……」
先程ルカディオが来たことを知った途端、ヴィオラの魔力が乱れた。情緒不安定な時に父が会いに行けば、ヴィオラの負担にしかならないだろう。
昔よりも親子関係が改善してきたとはいえ、クリスフォードもヴィオラも、まだエイダンを信用しきれていない。
無視されて傷ついた過去をなかなか消化しきれず、まだ弱さを見せられるほど、心を許すことが出来ていない。
だから本当に弱っている今は、ノアに任せたい。
ヴィオラがノアに心を開けるように──
ノアならきっと、何があってもヴィオラを守ってくれる。
「父上、ルカディオはもう出禁にして下さい。これ以上ヴィオラにアイツのことで傷ついてほしくない」
「わかっている。門番にもそう指示をするし、今からダミアン殿に面会に行く」
「婚約解消についてはもう話をしているんですよね?」
「ああ。舞踏会の翌日にはルカディオの不貞により、婚約を解消する旨の手紙を送った。すぐに返事が来て今日会うことになっている」
「では証拠を持って、解消手続きしてきて下さい」
「もちろんだ」
話がついたところで、ジャンヌも執務室にやってきた。
「無事追い出しました」
「ジャンヌがやったの?」
「ええ。抵抗する図体のデカい侯爵令息の扱いに、護衛の方も困っていた感じだったので、魔力で威圧して帰ってもらいました」
「さすが帝国魔法士団幹部だね」
「あの様子じゃ、また来ると思いますよ」
「もう婚約解消するから出禁だよ」
「第二王子とあの女はどうなるんですか? もちろん罰を与えられるんですよね?」
「父上は何か聞いてる?」
あの夜、エイダンはヴィオラが気絶したことを知ると、その場で王太子アイザックに抗議した。
普段あまり感情を表に出さないエイダンの剣幕にアイザックは驚き、第二王子への処罰を約束したらしい。
「今のところ謹慎しているらしい。処罰は追って伝えると言っていた。それから偽聖女には教会に抗議の手紙を書いた。今回は偽聖女が婚約解消の原因だからな」
「あの女には名誉毀損と不敬罪も付け足してほしいくらいだよ」
「ノア様とも話したんですが、最近偽聖女の信者が増えていておかしくないですか? あの阿婆擦れに崇拝する要素なんか一つもないのに、女生徒まで群がってるんですよ。絶対洗脳されてると思うんですけど、一人一人に鑑定魔法をかけるわけにもいかないし、そんなことすれば私たちの素性がバレてマッケンリー公爵や王弟がどう動くかわかりませんしね」
「そうだね……なら王太子殿下に許可を取るのは?」
「それも考えました。出来たら偽聖女に一番近い第二王子を鑑定したいですね。もうすぐジルがバレンシアに来るんで、鑑定結果を渡せば調べてくれると思います」
「父上」
「ああ。ダミアン殿の後に王太子殿下にも面会してくる」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「ノア?」
ヴィオラの私室に戻ると、扉にノアが寄りかかっていた。
表情が少し暗い。
何かあったのだろうか。
「どうしたの? ヴィオは?」
「ああ、今カリナが体を拭いて着替えさせている」
「そっか。じゃあ僕もここで待つよ。ヴィオラ……魔力が乱れてたけど、大丈夫だった?」
「あれからすぐ落ち着いたよ。だが衰弱した体で魔力を抑える魔道具が作動したから、そのまま気を失ってしまった。──アイツはもう帰ったんだよな?」
「うん。言い訳ばかりでムカついたから、二発ほど殴っておいた」
「クリスが!?」
「僕だってやる時はやるんだよ。まあ、最終的に追い出したのはジャンヌだけど」
「ふっ、勇ましい兄だな」
ノアが優しい顔で小さく笑う。
「僕は……ヴィオラがどれだけルカディオのことが好きで……どれだけ傷ついて泣いていたのか知ってるからね。どうしても許せなかったんだよ」
「…………」
「だからさ、次こそはヴィオラに幸せな恋をしてほしいんだよね。僕も恋愛したことないから何が幸せとかよくわからないんだけど……でもノアならきっと、ヴィオラを幸せにしてくれるんじゃないかなと思ってるよ」
「クリス……」
「父上が婚約解消の手続きをしに行ったんだ。だから、今度こそノアがヴィオラをお嫁さんにしてあげてよ。今のところ僕のお眼鏡にかなうのはノアだけだからさ」
「それは光栄だな」
ノアは切なそうに目を細めた。
この半年、ルカディオとヴィオラが寄り添う姿を見て、ノアが傷ついていたのをクリスフォードは知っている。
それでも彼は、ヴィオラを守り続けた。
悪女の噂が立ってもヴィオラに実害がなかったのは、ノアがヴィオラに悪意を持っている生徒たちを魔力で牽制していたからだ。
ノアや僕に認められた者以外、近づけなかった。
悪意を持つ者限定で威圧をかけられるところが、さすが帝国の皇弟といったところか。僅かな殺気でも感じ取れるらしい。
出会いはノアが十六歳の頃だったのに、その時には既に副団長として仕事をしていたのだからすごいとしか言いようがない。
ノアの子供時代は内戦もあり、常に死と隣り合わせで、強くならなければ生き残れない世界だったらしい。
ノアの強さは、血の滲むような努力の賜物なのだろう。
そんな彼が、ヴィオラを愛してくれている。
こんなに頼もしいことはない。
彼ならヴィオラを大切にしてくれると思った。
大事にするべきものが何か、ちゃんとわかっているから。
今までルカディオしか見えていなかったヴィオラに、早く気づいてほしいと願ってしまう。
辛いだけの初恋は捨てて、
ノアの愛に気づいてあげてほしい。
(見てる方はホント歯痒いんだよね)
「ノアが僕の義弟になる日を楽しみにしてるよ」
「そこまで煽られちゃ、全力で口説くしかないな」
「兄が許可を出そう。頑張りたまえ」
「ははっ、ありがとな」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ、ノアの明るい声が聞こえる。先程まで少し暗かった表情が、今はスッキリしているように見えた。
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