私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

163. 懇願① side ノア

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ヴィオラたちを先に退出させた後、ノアは常々思っていたことを口にした。


「アイザック……お前、王になれ」

「は?」

「この国は腐った貴族をのさばらせ過ぎだ。そいつらが足を引っ張るせいでお前全然身動きとれないだろ? もういっそのこと愚王と邪魔な奴らを全部潰して、お前が王になった方が効率的なんじゃないのか?」


突拍子もない発言に、皆がぽかんとした表情を浮かべる。
いち早く我に返ったマルクがノアの発言を咎めた。


「ノア様! 先程から内政干渉が酷いですよ。自分が戦争を起こす気ですか!」

「そうなったとしても、帝国は負ける気はしないが」

「……っ」

ギロリと獰猛な瞳で見据えられ、宣戦布告とも取れる発言にアイザックは額に汗をかく。


「イザベラが生きていることは報告したよな?」

「ええ」

「だったら、もうなりふり構っている場合ではないことも理解しているよな? イザベラは必ずバレンシア王国に戻ってくるぞ。既にこの国に潜伏している可能性だってある。そしてあの女は必ずオルディアンに牙をむく」


ノアの言葉に、エイダンとクリスフォードが息を呑む。
あの女をよく知る自分たちも、同じことを考えていた。


「イザベラが捕まる前、俺はあの女の殺気を感じたことがある。あの禍々しさは異常だ。それをまだ幼かったヴィオラにぶつけてたんだぞ。そんなイカれた女が神力を手にしたんだ。この危機的状況の中で、利己的な人間どもに手こずってる暇なんかないんだよ」

「だが……バレンシアでは生前の王位譲渡は当人が罪人になるか、病などで公務不可能になった時しか前例がない。今のところ何の問題もない父王から王座を奪うなど、議会が許すわけがない」

「何言ってんだ。傀儡の王だぞ、問題しかないだろ。その問題を公表すればいいだけだ」

「わかっている。わかっているが——」

「アイザック、お前には味方が少なすぎる。それだけ父王が腐った貴族を王宮に招き入れた証拠だ。多勢に無勢ではいくらお前が優秀でも捌ききれないだろ」

「じゃあ、どうしろと言うんだ……っ、そんなことは俺が一番わかっている!」

緊迫した空気が流れ、皇族と王族同士の会話に誰も入れない。


「帝国の諜報員と魔法士を王宮に迎え入れてくれ。帝国がお前を国王にしてやる」


「──……俺に、帝国の傀儡になれと?」


ノアのあまりの発言に、アイザックも殺気立った空気を放つ。

「違う。お前が国王になるための後ろ盾になると言っているんだ。王太子より国王の方がクリスとヴィオラを守れるし、反対勢力を追い詰めることもできる。もちろん、帝国が内政干渉しないことも陛下と協定を結んでもらうさ。正直、今お前が動けないなら足手纏いなんだよ。それならオルディアンを帝国に移住させて、お前は政治に集中すればいい」


結局話はオルディアンの話に戻り、アイザックは黙り込んだ。


しん──と部屋が静まり返る。

一触即発となっても仕方ない会話。
だが今のノアの言葉に、エイダンは口を挟まない。

彼もまた、偽聖女のせいで子供たちの敵が多すぎると感じていた。いくら王太子がこちらの味方とはいえ、彼は国内貴族の相手で精一杯。

学園でのヴィオラたちの生活まては手が回っていないのが事実だった。


いや、そもそも学園での出来事を、学生のいざこざだと重要視していなかった。だから第二王子の接近禁止で終わらせた。


その甘さが、ノアの逆鱗に触れた。
そしてエイダンも不信感を覚えた。


彼が優先するものと、ノアやエイダンが優先するものが根本的に違う。


彼は国を見ている。

ノアはヴィオラを見て、そして世界を見る。

エイダンは子供たちの幸せだけを見ている。


視野が違う。

ノアとエイダンも違うが、ヴィオラを優先するところでは一致している。


今ここで足踏みを揃えなければ、味方の足を引っ張り、共倒れになるだろう。

ゆえにノアはアイザックに選択を迫る。

覚悟が決められないなら、ノアは本当にバレンシアを見限るつもりだ。権力争いに無関係のヴィオラを巻き込むなど言語道断。ましてや政治の駆け引きに使うなど論外だ。



「どうする? アイザック」

「──…………わかった。俺が王になります。そのために力を貸していただきたい」


そして、話し合いが行われてしばらくした後、ノアの耳に装着していた小型の通信機が作動した。



『ノア様、第二王子の招待でヴィオラ様が王族居住区の温室に一人で向かってます。警備で私は入れませんでした。至急王太子に進入許可を取ってください。場所はその部屋から南東の──……』


ジャンヌの通信で、ノアの表情が凍てついたものに変わる。

「アイザック、お前の弟がヴィオラを王族居住区の温室に招待したらしいぞ。接近禁止令を破るとはどういうことだ!?」

「は?」

「ヴィオが!?」

ノアの糾弾に皆が驚く。


「チッ、とにかく俺はすぐに温室に向かう! アイザックは至急門番に進入許可を取ってくれ! マルク!後の処理は任せたぞ!」


早口で指示を出し、ノアは返事も聞かずに部屋を飛び出した。


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